第20話 開錠屋レン(3)
……ううぅ。
噤みの錠案件だからって、のこのこついてきちゃったけれど……。
ここっていわゆる、歓楽街……。
もっと範囲を狭めて言うと、風俗街……よね?
いかがわしい言葉が並んだ、派手派手な看板……。
そして窓のないお店が、通りの左右にずらり。
まだお昼だから、ほとんどのお店閉まってるみたいだけど……。
「師匠……。こんなところに、師匠の同業者がいるんですかぁ?」
「わからん。そもそも俺の心当たりは、この土地の者じゃない」
「あ、ここらに仕事場構えてるってわけじゃないんですね」
「金庫破りや盗掘者は、たいていよその土地で仕事をし、長居せずに根城へ戻る。ただ、今回の犯人が俺の知ってる奴なら……。その土地の女を口説き落とそうと、二、三日粘るかもしれなくてな。女遊びができる場所を、こうして見にきた」
「ふーん……。ところで師匠、やけに歩き慣れてる感じですけどぉ。もしかしてこの辺り、通い詰めてますぅ?」
「……バカ言うな。興味がないからこその早歩きだ。そもそも俺みたいな、どこでも寝る男がこんなところへ来たら、即身ぐるみはがされる。昼間じゃなかったら、まず通らん」
「なるほど……かな?」
確かにいまの師匠、部屋着のまま。
真っ黒長袖&ロングパンツに、薄いコート羽織ってるだけ。
女にいい顔したいなら、きのうみたいにビシっとスーツ決めるよね……って。
なんか脂ぎった感じのオジサンが、ニタニタ笑いながらこっち来るぅ!
「……おい、女売り。その田舎くさいネーちゃん、一晩いくらだ? 俺ぁそーいうションベンくさいタイプ大好物だぜっ! がはははっ!」
ひいっ……!?
女売り……?
一晩……?
このオジサン、わたしをお金で買おうとしてるっ!?
師匠っ、追い払ってくださーい!
「……すみません。こいつは性病持ちで、いまから医者に診せるところなんです。もうここ数日、商売も上がったりで……へい」
「マジかよ……怖っ。道理で化粧っ気ねえわけだ……チッ」
ほっ……。
あっち行ってくれたぁ……。
よかった……って、よくはなーいっ!
「師匠っ! 性病ってなんですか性病って! わたしは穢れなき乙女ですよっ!」
「だがこの上なく、いい断りかただったろう? あのスケベじじいにまとわりつかれたかったか?」
「それは、まぁ……イヤですけどぉ。っていうか、わたしやっぱり、田舎くさそうです? くんくん……」
「最初会ったときに言ったはずだ。田舎くささは酒と違って、すぐには抜けないと」
じゃあきのうの、貸衣装のワンピース。
やっぱり着こなせてなかったのかなぁ……。
いつか、着こなせるようなすてきな女性に──。




