第17話 ワインは万斛の蝋涙の如し(11)
「師匠ぉ……。おうちに……着きました……よぉ!」
「すうううぅ……」
ううぅ……重いっ!
いくら脚が長くて背が高くてスーツびしっと決めてるそこそこイケメンでも、いまのわたしにはこれ、巨大ダンゴムシっ!
ううん、粗大ごみっ!
なんとか馬車拾って、これ乗せて帰ってこれたけれど……。
もう解錠院の前に捨てちゃいたいっ!
二階まで運ぶのイヤあああっ!
「……エルーゼさん。いまお帰りですか? お願いしたお仕事……どうでした?」
「あっ、ジェイさん。ええ、お仕事のほうは……うまくいったんですけど……。帰りのほうがよっぽど問題で……助けてくださ~い!」
「助け……?」
「このダンゴムシ男を二階まで上げるの、手伝ってください~」
「ハハッ、なるほど。シアラさん、どこでも寝ちゃいますよね。一度寝入ったら、なかなか目を覚ましませんし」
「ここまで運ぶので、体力使い果たしちゃいましたぁ。ふううぅ……」
「でもシアラさんのこういうところ、赤ちゃんみたいでかわいいと思いません? アハハハッ♪」
「一ミリも思わないです……」
「そっか。じゃあエルーゼさんは、警戒する必要なし……っと」
「……はい?」
「ああいえ、なんでもありません。シアラさんは僕が運びますから、下で休んでください。おなか空いてたら貯蔵庫の中のもの、つまんじゃっていいですよ。アハッ」
「ううっ。なにからなにまですみませ~ん」
はあああぁ~……やっと巨大ダンゴムシから解放されたぁ……。
疫病神押しつけるみたいで、ジェイさんには申し訳ないけれど……。
申し訳……ないけれど…………。
で……も…………。
『……チッ。せっかくいい流れだったのに、よけいなマネを……』
「……エルーゼさん? なにか言いました?」
「……えっ? あ……いえ、なにも……? ああそうそう。階段、床板傷んでるっぽいから、気をつけてくださいっ。男二人だと、踏み抜けちゃうかもっ!」
「傷んでる? 毎朝上り下りしてますけど、そんなことは……」
──みしっ……みしっ……みしっ……。
「ねっ、ヤな音するでしょう?」
「あれ……本当ですね。じゃあ注意して上がります。あ、僕もうお店閉めるところだったんで、入り口の施錠頼みますね。シアラさん寝かせたら、僕も帰りますから」
「どうもお手数かけます……。おやすみなさい、ジェイさん」
「はい、おやすみなさい」
──みしっ……みしっ……みしっ……。
はあああぁ~♥
爽やかイケメンの「おやすみなさい」、いただきましたぁ♥
今夜はいい夢見れそっ!
それじゃあ……お店の入り口、しっかり鍵をかけて……っと。
高価な指輪持ってるし、戸締りちゃんとしないと。
──カチャッ!
「これでよし……と!」
……………………。
……さっき、一瞬気が飛んだような気がしたの、なんだったんだろう。
目の前がパッ……って、真っ赤に染まったような気がして……。
もしかするとあれが貧血……なのかな?
だとしたら、血になるものを摂取しないと……夕食まだだし。
ジェイさん、ご厚意に甘えて食材いくつか……ゴチになりまーす!




