第13話 ワインは万斛の蝋涙の如し(7)
──ガチャン!
「……解錠完了」
「「ええっ!?」」
……あ、ガリさんとハモっちゃった。
でも錠が解けたってことは……本当にわたしの顔に合言葉がっ!?
「シアラさん! 合言葉はいったい……なんだったのですかっ!?」
「『わいんはばんのろういのどし』……です」
「はいぃ?」
「抜栓ですよ。物理の鍵がコルクスクリュー……すなわちコルク抜きだったので、お爺様の座右の銘から『こ』『る』『く』の字を抜きました。この三文字が含まれていたので、ピンと来ましたよ」
「コルク抜き……。要は、なぞなぞでしたか……」
「それも、ワインへの造詣が深いほど答から遠ざかるという意地悪な。わたしも少々齧っていたので、引っ掛かりそうになりましたが。間の抜けた弟子を連れていたのが、幸いしました」
間の抜けた弟子……。
間抜け……。
コルク抜き……。
……ああっ!
だから師匠、わたしの顔に合言葉があるって言ったんですねーっ!
「『ご』の扱いに、ちょっと迷いましたが。ワインの滓……濁りは下りていくものですから、『ご』から『こ』を取り去り、濁点を次の字へ下げました。コルクスクリューを物理の鍵にすると同時に、合言葉を紐解く鍵にもする。さすが、遊び心を生涯貫いた御仁です」
「『ワインは万斛の蝋涙の如し』……。ここから『こ』『る』『く』を抜くと、『わいんはばんのろういのどし』……なるほど! 遊び心を重んじた、実に父らしい謎かけです」
「さて……。わたしの仕事はここまで。保管庫への扉を開けるのは、ガリさんだけの権利。さあ、どうぞ」
「はい……。では」
──ギ……ギイイイィ……。
ガリさん、すっごい緊張しながら扉引いてる……。
あっ……扉の厚さ、師匠が言ったとおり八センチくらい……。
あんなノックで、扉の厚さがわかるなんてすごい……。
えーと、でもそれって……。
わたしもそういう修行、しなくちゃいけないってことよね……。
うわぁ~……面倒そう……。
「こ、これはっ……!?」
わっ!
ガリさん、扉の向こう見てすっごい驚いてるっ!
いったいなにが……。
……って、えええぇえええぇっ!?




