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自棄酒とお姫様抱っこと

作者: 下菊みこと

「…まず第一に。兄妹での性行為は国教に反する行いです。私的にはそういった兄妹愛に否定も肯定もありませんが、国教的には残念ながらアウトです」


「…」


「次に。婚約者がいる身でありながら婚前から浮気はさすがにちょっと倫理観どうなってます?って感じです。しかも避妊を怠るとか」


「避妊はしてたんだ!してたんだが…」


「でも妹さんが妊娠したなら意味ないですよね」


「…」


バカだバカだとは思っていたが、婚約者がこれほどまでにバカだとシャレにならない。


「…ともかく。私たちの婚約は破棄です、破棄。もちろんそちらの有責で、慰謝料ももらいます」


「うぅ…これからどうすればいいんだ…」


「…まあ、妹さんのお腹の子は男の子なのでしょう?妹さんが言ってましたから間違いないですよね?それならば父親は誰かわからないという体で、妹さんから引き取って養子にし跡取りとして育てればお家はまだ存続できるでしょう。血の濃さとかは気になりますがまあ一代限りならまあ…多分…どうかな…わからないけど…」


「…子供に関してはそうする」


「それで、貴方は生涯独身で子供を立派な跡取りにすることを優先なさいな。妹さんは子供を産んだ後、未婚での出産にも子供を貴方の養子にしたことにも理解ある人と結婚なさればよろしい」


それくらいしかやりようがないだろう、もう。


「…裏切ったのに、色々ごめん」


「…貴方方はともかく、子供は不幸にしないでくださいね。私子供は嫌いじゃないので」


「わかった…」


「お金に関してはまあ、がっぽりいただきますが貴方の豊かな領地ならすぐに稼ぎ直せるでしょう?あまり娯楽ばかりを優先せず、まず第一にお子さんを優先してくださいね」


「うん…」


曲がりなりにも父親になるのだ、覇気のない返事をせず頑張ってくれ。


「お子さんにとって頼れるのは貴方だけなんです。そこの自覚は持ってくださいね」


「わ、わかった。頑張る」


「では、さようなら」


「…さようなら」


生まれた時から十七年以上の付き合いだというのに、別れてみればあっという間だ。さすがに、近親相姦というスキャンダルは表には出ないだろう。とはいえ、あちらの有責での婚約破棄。多額の慰謝料ももらうので、あらぬ噂も流れるだろうが。


まだ、我が家は風評被害は受けずに済むだろう。私にも、まだ縁談のチャンスはある。


向こうは…まあ、お家存続と子供の幸せを第一に動けば幸せになるチャンスはあるんじゃなかろうか。愛してはいなかったが、情はかけていた男とその妹…そしてその子供なので、幸せにはなって欲しい。あちらの両親にも良くしてもらっていたので、お二人にも幸せでいて欲しい。甘いかもしれないけど。


「…バカな人だったなぁ」


それでも、やっぱり。


「残念に思うのは、未練ってやつなのかな」


ワインが好きな彼と結婚後に楽しむために買い溜めしていた高価なワインを、今日はぜーんぶ一気に開けてやろう。そうと決まれば厨房に大量におつまみを作らせるぞー!














「バカだなぁ、お前。一日中呑んで、こんな量のワインを開けたの?おつまみをきちんと腹に入れたらしいのは偉いけど」


「んんん?ゴダール?なんでいるのぉ?」


「お前が振られたって聞いたから、ヤケ起こしてないか見に来た。案の定これだよチクショウ」


いつのまにか幼馴染のゴダールが遊びに来てたらしい。気付いたらお姫様抱っこされてベッドに寝かされた。


「あぇ?まだ飲むぅ…」


「バカ。もう見渡す限り全部空だわ。この光景はいっそ怖ぇよ」


「んんー?そっかぁ」


ならよかった。彼との思い出など一滴たりとも部屋に残してなるものか。


「それよりほら、もう寝んねしな。起きる頃には悪酔いで辛いぞー」


「んぇー?」


「明後日の朝までは付いててやるからさ。今は本当に寝ておけって。そんなぼんやりして起きててもいいことないだろ」


「んー…おやすみ…」


「ん、おやすみ。アナイスが良く眠れるように、おまじないな」


おまじないと称して優しく頭を撫でられて、酔っているのもあるのかいい気分で眠りにつく。ただただ、ゴダールの手に安心した。












「んんっ…あっ!」


目が覚めた瞬間頭が痛くてクラクラする。そしてなんとなく気持ちが悪い。つまりは完全なる二日酔いである。


「あっはっは!そりゃそうだろ」


目の前でケラケラ笑うのは幼馴染。ご機嫌な様子に怒る気にもならない。


「あんだけ一気に飲めばなぁ」


「ううー」


「ほら、特別に魔女の薬をくれてやろう。あらゆる酒関連の不調に効く万能薬だ」


「ありがとう」


薬と水を受け取って飲み込めば、呆れた顔のゴダール。


「俺だからいいけど、他の奴から薬渡されても飲むなよな」


「わかってるって」


「お前は何もわかってない」


額にデコピンされた。いたい。


「まあともかく。どう?効いた?」


「頭痛とクラクラと気持ち悪いのは治った」


「めっちゃ効いてるじゃん」


「…その代わり酔いも覚めた」


そう言ってしょぼくれる。ゴダールの前だとどうにも甘えが出てしまう。


「あーあー、わかったわかった。泣いていいから」


そういってゴダールが抱きしめてくれるから、泣いてしまう。


「ゔぇ゙ぇ゙ぇ゙え゙え゙…」


「なっさけない声。今顔見たらひでー顔してそう」


「ゔーっ!!!」


「はいはい良い子良い子」


背中をさする手は優しくて。そのくせいつもの調子で声をかけてくれるから、妙に安心する。


「泣いて、お前を振るような見る目のないやつは忘れちまえ」


「一応婚約破棄したのはこっちだもん…!」


必死にゴダールの言葉に噛み付くけど、はいはいと流された。


そして、めちゃくちゃ甘やかされて涙が枯れるまで泣かせてくれた。













「…落ち着いた、ありがとう。顔洗ってくる」


「おう」


顔を洗ってすっきりしてからゴダールのところに戻る。ゴダールは私の部屋なのに自分の部屋のように寛いでいた。


「おかえりー」


「ただいまー」


「お前のとこのメイドが、俺のためにお茶とお菓子くれたけど」


「一緒に食べよー」


「おー」


ソファーで隣り合って座って、お茶とお菓子を楽しみつつ喋る。


「とりあえず悪縁切りおめでとさん」


「ありがとさん」


「憑き物が落ちた顔してる」


「でしょうね。未練で凝り固まってた頭がだいぶスッキリしたわ」


「誰のおかげ」


「ゴダール様のおかげです、ありがたやありがたや」


手を合わせて拝めばケラケラ笑われた。


「あとさ、さっそくお前の新しい婚約者決まったらしいよ」


「え、はや」


「誰だと思う?」


にんまり笑うゴダールに固まる。まさか。


「ゴダールだったりする?」


「そ」


「やったぜ!!!」


私がガッツポーズすると呆れた顔でため息をつかれた。


「なにその反応、婚約をなんだと思ってるわけ」


「結婚の約束」


「そうだけどさ…もっと感想ないの」


「えー?」


「言っておくけど、結婚したらやることもやるのよ?俺とだよ?わかってる?」


聞かれて、おおう…と思った。たしかに違和感すごい気がする。


「違和感すごいとか思ったでしょ」


「うん」


「なーのーで」


ゴダールが私の手を握る。


「婚約はもう確定なので、違和感を無くす方向で努力しようか」


「わかった」


「まずはこういうスキンシップからね」


優しく手をにぎにぎされてなんだか変に意識してしまう。


「なに?この程度でもう顔真っ赤じゃん。可愛いなぁ」


「ゴダールのバカ!意地悪!」


「はいはい」


まあでも。なんだかんだ言いつつもやっぱりゴダールでよかったと思うのです。
















あれから月日は流れて、私は結局ゴダールと結婚した。なんだかんだでスキンシップも愛情表現もちゃんとするおしどり夫婦的なかんじになっている。


子供も男の子二人女の子一人に恵まれた。家族仲も良好。みんなとても可愛い素敵な子たちだ。


幸せな結婚、幸せな家庭、幸せな生活。それを手に入れて満足していたから、すっかりと彼の存在を忘れていた頃に聞いた。


「ねえ、お前の元婚約者のその後聞きたい?」


「え、すっかり忘れてた。子供がどうなったかは聞きたい」


「結局あの男は未婚で子供引き取って育ててるって。子供はあの男に顔がよく似てて、でも誰に似たのか優秀に育って内面も問題ないみたい」


「へー。子供は幸せそう?」


「あの男なりに愛情を注いでるらしくて、子供本人は至って幸せそうだよ。真っ直ぐに育ってる」


そこまで聞いて、良かったと胸をなでおろす。


「あの男もなんだかんだで子育てに喜びを見出したらしくて、結局幸せそう。その両親も孫は可愛いみたいでデレデレ。実際みんな幸せそうに見えるのある意味すごいよ」


「でも子供にとってはそのくらいで良いでしょ」


「まあねえ。ただ、妹君はそうはいかなかったみたいだよ」


「へえ」


「理解ある男性と結婚したつもりだったけど、実際にはちょっと問題のある男らしくて。具体的に言うと、すぐに浮気を疑ってきつい言葉で責め立てるらしい。ただ、暴力とかはないから実家にも頼れないみたいね」


妹さんに関してはすごく残念だが、子供は真っ直ぐ幸せに育ち家族も幸せそうな環境。子供にとっては良かったのかな。ただ、子供の母親ってことで妹さんにもいつか穏やかな幸せを手に入れて欲しいのが本音だが。


「うちも子供たちをもっともっと際限なく幸せにしていかないとね」


「まあ、何事もほどほどにね」


「はーい」


子供たちを愛している。ゴダールのことも愛している。だから、たくさんの幸せをみんなで分かち合えるようにこれからも頑張りたいと思う。

【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話


という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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