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よろしくお願いします!

駐車場の入り口の満空灯まんくうとうの下に、女性が立っていた。


外は快晴だ。陽射しも強い日だったから、まるで女性の背中に後光が射してるようにハヤトくんには見えたよね。


手のひらの中の世界で、ここ2週間くらい、朝から夜まで言葉を交わしていた相手が実際に目の前に現れた。それも光を背負って、だ。

何だか、それぞれがねじれた時空の先で共鳴し合っていた存在が、やっと同じ時空に重なり合って像を結んだかのように、ハヤトくんには感じられた。


映画か何かでそんなシーンを、ハヤトくんは子どもの頃に観たことがあったんだね。

確か多分、アニメだったような気がするけど、タイトルや詳しい内容は忘れてしまっていたね。

何のかんのと言っても、ハヤトくんはもう28歳だからね。仕事にも毎日追われているし、幼少期のことなんか、忘れてしまっているよね。


逆光で顔ははっきり見えなかった。ただ、膝より少し上の白いスカート。

これを目視した瞬間、ハヤトくんはこの女性がれいちぇるだとわかって、もうちっとも疑わなかった。


このスカートは、ハヤトくんがれいちぇるにリクエストしたものだからね。


れいちぇるは、最後の最後まで顔写真を送ってくれなかった。

ハヤトくんが見ていたのは、れいちぇるのプロフィールに設定されていた、口元から下の写真だけさ。


厚くも薄くもない唇。あごにいくつかのニキビ。

ショートカットの黒髪に、ラベンダー色のVネックのニット。


美人かどうかはわからないな。

けど、太っても痩せてもないし、確実に女性だってことはわかる。


ハヤトくんは、「このタイプじゃなきゃダメ!」ってな、頑固一徹な男じゃないよ。

「色んな女体を味わいたい!」って、コレクター気質だからさ。

ムチムチもスレンダーも、ギャルも清楚もそれぞれの女性の魅力を楽しみたいタイプなんだね。


ハヤトくんはれいちぇるとのメッセージで、彼女の情報を引き出し、「じゃあ、ムチムチで清楚ってタイプやね!」とカテゴライズした。


れいちぇるも特に否定しなかったので、ハヤトくんの中でれいちぇるはそういう分類のお姉さんってことになったんだ。

そこで、ハヤトくんはれいちぇるに会う時の服装のリクエストをした。



「俺は、ムチムチで清楚な人のスカート姿が好きやけん、穿いてきてほしい! スカートは、ヒラヒラより、ピタピタがよか!」



無邪気を装って送ってみた。

するとれいちぇるはノリよく、「そんな感じのスカートなら、いくつか持ってるよ」と返信をくれた。


ハヤトくんは、ますますれいちぇるに甘えたくなっちゃってね、こう返したのさ。

「うん! 持ってるやつで一番短いのがいい!」って。


返信に時間が空いたので、ハヤトくんは不安になった。

でも、れいちぇるからはこんなふうに返ってきたよ。



「うん! 膝よかちょい上くらいだけど。私が持ってる一番短いやつ、着てくね。白でストレッチのやつ」



ハヤトくんは、その時トイレでおしっこしてたんだけど――彼は今時の男子だから、便座に座って用を足すのさ。女の子みたいにね。このほうが、スマホも触れて便利だから――小躍りするほど嬉しかったね。 


ハヤトくん自身は、「エロいお姉さんで嬉しい!」って、自分が喜んでると考えてたけど、本当のところ嬉しかったのはそこじゃなかった。

普通だったら引かれてしまいそうなことを、れいちぇるが否定せずに受け入れてくれて、それがとても嬉しかったんだ。


どんな自分を出しても、いいよと言ってくれる人がいる。

たとえそれが、手のひら中の世界だとしてもね。


この返信を打ってるのは、機械ではない。

つながる場所は無機質な記号の羅列の集まりだとしても、つながりあっているのは、確かに血の通った人間同士なんだ。

そのことが、ハヤトくんの胸を震わせていた。


 自分を全肯定してくれる人間がこの世界にいる。

たとえ親指ひとつの脆いつながりだとしても。

ハヤトくんも気付かぬうちに、ハヤトくんのの心の中に希望の苗が芽生え始めていたんだね。


まだまだ続きます!

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