(7)
深夜ですが、投稿です!
⑦
さあ、どう動く?
ハヤトくんの次の一手を思案していると、れいちぇるからメッセージが届いた。
先手を打たれたね。
「電波、悪いね」
ハヤトくんはすかさず右手の親指を繰った。
「どこおるー? 約束したよね?」
そこからは、リズミカルなメッセージのラリーだ。
「したよ! スタバにいるよ」
「えーどこのスタバ? 俺、大学病院きちゃった。きょう、大学病院ってゆったよね?」
「そうよ。
大学病院の1階にスタバあるから、そこにしようって約束したでしょ。外で待つの、寒いから」
これは、れいちぇるの言う通りなんだよ。
たしかに、大学病院のスタバで待ち合わせようって約束したんだ。
れいちぇるは約束どおり、スタバにいたんだね。
でも、ハヤトくんはスタバには行きたくないと思った。
メッセージでは、OK!と言ったかもしれないけど……。
美人局への警戒から、自分のkeiから離れるのは嫌だったし、明るくて周りの目があるところで初対面の女性に会うのも嫌だった。
だからいつも、薄暗いところを選んで、車から降りずに待ち合わせするんだよ。
それに、何よりスタバは、ハヤトくんはなんか苦手なのさ。
そういう人ってわりといるでしょ?
ハヤトくんもそのタイプで、スタバって、なぜだかアウェイを感じて居心地悪いんだ。
そこで、ハヤトくんはまたれいちぇるに甘えた。
「うん、でも俺、駐車場に車停めとるけん。降りると面倒やし、お姉さん車まで来て」
「どの駐車場?」
「うーんとね、第三駐車場ってあって、煉瓦のたてものやね。そこの2階だよ!」
そこでまたメッセージの返信が止まった。おそらく、れいちぇるがハヤトくんがいる駐車場に向かい出したんだと思う。
ハヤトくんは、ほっと深呼吸した。
――そういえば、スタバで待つかロータリーで待つかとか話しよったかも。毎日メッセしすぎて、よう忘れとった。
ハヤトくんは、この間に股間がしんなりしぼんでいることに気づいた。
できれば、れいちぇるが来るまでにギンギンにしておきたい。それを彼女に見せたいんだね。
――お姉さんも、若い男は元気なとこが好きってゆうとったもん。お姉さん喜ばせてあげたいね。
ハヤトくんなりの、精一杯のおもてなしってわけさ。
ハヤトくんは目を閉じて、これかられいちぇると過ごす淫らな時間のことを夢想した。
するとじわじわと血液が、ハヤトくんの海綿体に集まってきた。
しかし、れいちぇるはなかなか来なかったんだ。
ハヤトくんはふたたび焦れちゃったよ。
「道迷ったー? 白い車だよ!」とメッセージを追撃。
だが、既読はつかず。
美人局、すっぽかしなどの単語が彼の脳裏を行き来する。
そわそわと車から降りて、排ガスに染まった壁に囲まれた、薄暗いスロープをそろそろ下っていってみる。
するとその時、ハヤトくんの尻のポケットの中身が震えたんだ。れいちぇるからの通話リクエストだった。
れいちぇるのほうからリクが来るのは初めてだ。ああ、この人は本気で俺に会う気がある、そうハヤトくんは確信したよ。
手のひらの中の相手がやっと現実に姿を現すんだ。そう思うと、一気に身体も心も緊張したよね。
だからハヤトくんは、一呼吸置いた。それから、通話ボタンを押したんだね。
◇
スマホを耳に当てると、相変わらずノイズだらけだった。
まるで時空を越えて異世界と交信しているみたいに。
ザーッザーッという音に隠されて、かすかに女の声が聞こえる気がする。
何を言っているかはわからない。でも、ハヤトくんにはこう聞こえたんだ。
「どこ? どこ? ハヤトはどこ?」
ハヤトくんは思わず、「僕はここよ!」と声を上げたくなった。
しかし、どうせ相手には聞こえやしない。
親指を旋回させ、通話を遮断するボタンを押すと、すぐにメッセージに戻った。
「どこおる? わからん? 暗いけん怖い? 俺、下まで降りるよ」
素早く打ちながら、足はもう車を飛び出していた。後ろ手にドアを閉める。
そして、小走りに坂を下って行ったんだ。光の射す方へね。
すると、そこには、女が立っていた。
ハヤトくんはついに、れいちぇると対面することができたんだ。
続きます!