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おはようございます!

美人局、こわいですよね〜汗


みなさんもお気をつけを!

けれど、ハヤトくんはとても嬉しかった。

何よりもたかぶった。

かわされ続けていたから、ハンティングの興奮があったし、れいちぇるは確かに女の声をしていた。


なまり少な目のお姉さんの声。

体型はスレンダーで髪は長いと言っていた。性感帯は***で、趣味は小説を読むこと。


れいちぇるは相変わらず、ハヤトくんの手のひらの中の世界にしかいないことに変わりはなかったけれど、一気に彼女の存在の現実味が増したよね。


そのあと、2回くらいかな。彼女のほうから言い出してくれて、通話をした。そのたびにハヤトくんは緊張してしまって、うまく話せなかった。


女性がおとなしい場合はさ、ハヤトくんもぐいぐいとしゃべれるんだけど、れいちぇるは何だか話しぶりがとても凜としていたし、大人っぽくて落ち着いていてさ。

ハヤトくんは、甘えたい気持ちが大きくなってしまったんだね。


そう、人と人の役割やキャラって組み合わせで変わるからね。


しっかりし過ぎた人がいると、他の人が働かなくなっちゃうとかさ。

誰もしゃべり出さない会議で、おとなしい人がやむなく仕切りだしたり。

まあ、学校でも職場でも、アルバイト先でも、人が集まるとそういう力学が働くよ。


人間って本来の特性だけじゃなく、関係性のパワーに相対的に動かされちゃうところがあるんだね。


だから、ハヤトくんはれいちぇるの声を聞いて、男らしさより幼さのほうが前に出るようになっちゃった。

メッセージでならできる卑猥な話も、通話じゃ恥ずかしさが勝って、できなくなっちゃうし。


けどまあ、ハヤトくんは自分の微妙な変化に敏感に気づける人間じゃないから――生来の彼がそうだってわけじゃないよ。ハヤトくんは、掌の中の世界にのめり込む生活を長年送っているだろう。


それが原因だよ。


親指ひとつで関係性を操作する日々をおくっているとさ、感受性がどんどん鈍ってはいくからね――それにも気づかずいたんだよ。


◇ 

 

駐車場の中だから、電波が悪いのだろうか。

通話ボタンを押しても、コールが鳴る前にすぐ切れてしまう。

ハヤトくんは慌てた。


もしかしたら、れいちぇるは最初から自分と会う気がないんじゃないか。


すっぽかすつもりだったんじゃないか。


これだってもしかしたら、着信拒否の合図かもしれない。


あんなに毎日メッセージしたのに! せっかく仕事を早く切り上げてきたのに!


ハヤトくんは、むしゃくしゃして乱暴に通話ボタンをタップし続けた。

コールは鳴らない。


股間は勃起したままだったけれど、彼はそれを治めないまま車を降りて、スロープを下ると駐車場の外に出て、青空の下で再度通話を試みた。


今度は無事コール音が鳴った。

「呼び出し中」のフォントが掌の中に浮かぶ。


ハヤトくんは、スマホを耳に当てた。すると、すぐに相手が通話に出た音がした。


しかし、聞こえてきたのは、ざらざら鳴るノイズ音さ。

砂嵐に遮蔽された奥のほうから、女の声がするような気がして、ハヤトくんは余計に焦らされた。


通話はすぐに切れた。


着信拒否はされていない。ハヤトくんは少しだけほっとした。


そして再び、ハンターの表情になった。近くにいるらしい獲物を逃してはならない、そう思ったんだね。


    

「もう約束しとるし、すぐそこおるけんもうすぐよ」



ハヤトくんは暗い駐車場に停めたkeiの運転席に再び戻り、そう呟いた。

もちろん誰からも返事はない。自らを鼓舞したんだ。


アプリでの約束はすっぽかしのリスクが高いってことは、君も想像つくよね? 


男は、セックスという明確な目標があるからそうすっぽかしはしない。一方、女性は「魔がさした」って動機がほとんどじゃん。


だから、その日の天気やちょっとした気分で、平気で約束を反故にするんだ。


まあ、それも織り込み済みで男たちはこのガールハント・ゲームを楽しんでいるんだけど、それでもすっぽかしに合うと気も狂わんばかりに腹が立つし、地の底に突き落とされたみたいにがっくりくるよ。


特に、れいちぇるとはほぼ毎日、一日中メッセージしてたからハヤトくんはすっかり心を許してしまっていた。


この人に裏切られたらショックが大きい。

だったら、さっさと明るいところへ車を動かしていって、れいちぇるにわかりやすいように待っていればいんだけど、すっぽかし以上のリスク、「美人局つつもたせ」への警戒をハヤトくんはいつでも忘れなかった。


これは、ガールハントを始めた初期から今に至るまで、彼が対策や警戒を怠らなかったことだよ。

おかげで、一度も怖い目に遭ったことはない。


少しでもその危険を感じる女性からは、どんなにプロフィール写真が美人でも、メッセージのやり取りが弾んでも、手を引くことにしているんだ。


どんなに下腹部の衝動に突き動かされている時も、これだけはなおざりにしない。ハヤトくんはわかっているから。「男にとって、男ほど怖いものはない」ってね。


つづく!

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