(3)
すみません。うっかり二話目を二回投稿してしまった汗
こちらが正しい続きです!(三話目)
よろしくお願いします^_^
そんなハヤトくんが「れいちぇる」と接点を持ったのも、日々のルーティーンの中でのことだった。
プロフィールでは、32歳となっていたかな?
ハヤトくんも正確なことはよく覚えていないよ。
まずは、30歳から50歳までの間の女性、広島県在住ってとこで検索をかけて、あとは絨毯爆撃式にメッセージを送っただけだからね。
ハヤトくんはめんどくさいやりとりが苦手だから、最初っからストレートにこう送ることにしているんだよ。
「Sな歳下は、好きですか?」
うん、ハヤトくんが長年のガールハントの経験からひねりだした、最初の一手さ。
まともな紳士淑女ならこう思うだろう。
「いきなりそんな露骨なメッセージ送って、返事する女の人なんかいる?」ってね。
いやいや、ごもっとも。
でもさ案外、ありえるわけない非日常の異世界なんて、手のひらの中に誰もが持ってる道具の奥にひっそりと広がっているものなんだよ。
まるで何気なく毎日通り過ぎている樹木のふしあなの中で、人知れず催されている妖精たちの宴みたいに。
誰もがすぐ側にあるんだけど、誰もが気づけるわけじゃない、秘密の入口があってさ。
ハヤトくんはそういう場所を見つけるのがうまいんだ。
信じるも信じないもあなた次第だけど。
少なくとも、ハヤトくんは、こうやって数々の女性と会ってセックスに漕ぎ着け続けた実績を持っているわけだから。まごうことなき数字さ。
◇
話題をれいちぇるに戻そう。
ハヤトくんはいくつかのアプリを使い分けているけど――いや、渡り歩いていると言うべきか。つまり、焼き畑農業だね。――アプリ内でとにかく片っ端からメッセージを送り、新しく送れる女性がいなくなったらまた次のアプリ。
そしてまた時間を空けて元のアプリへ……。
アプリってのは不思議なもので、しばらく時が経つとメンバーが入れ替わっているんだ。
ハヤトくんが畑から畑へと移動するイナゴなら、喰われても喰われても月日が経てば再生する田畑があるようなものだな。
いくつかアプリを巡回しながら、ガールハントに励んだ結果、知り合ったのがれいちぇるさ。
メッセージの内容が一番ハヤトくんの理想とする「歳上のお姉さん」に近くて、返信のテンポもよくて、もったいぶったところもなかった。
だからハヤトくんは、何人かメッセージが続いた女性のうちから、れいちぇるの一本釣りに照準を合わせた。
女性を複数キープしようとするハンターも多いけど、ハヤトくんは一度に色んなことが考えられない性格だったし――だから、いつだって目的もひとつなわけさ。竹を割ったようにさっぱりとシンプルな脳みそをしているんだね――、案外さみしがり屋でもあったからさ。
一日中、すぐに返信をくれるれいちぇるのことがすっかり気に入ってしまったんだね。
仕事中もご飯の時も、ずうっとれいちぇるからのメッセージが気にかかってさ。お風呂にまでスマホを持って入る始末だよ。
「ああ、早くこのお姉さんとセックスしたか。楽しみすぎるけん!」そんな気分になっていた。
◇
ここで、れいちぇるとハヤトが会う約束をするまでに、どんなメッセージのやりとりをしていたか教えようか。
とは言っても、手のひらの中を通じた彼らの会話は、そりゃあ露骨で卑猥で俗悪でとても口に出せたようなもんじゃないよ。
俺だって恥ずかしいし愚かしいし、憚られるじゃない。
だからざっくりとしかお知らせしないけど、まあ、お互いどんなセックスが好きで、異性の身体のどんなところが好きで、こんなアブノーマルな体験をしてみたくて、とか。さらに踏み込んで、キスはこんなやり方が好きとか、体位は何が好きとか、こんな服装をしてきて欲しいとか。
それはもう、欲望のままにストレートにお互いの裡を開示し合ったわけ。
ハヤトくんはいつも、女性が日頃隠している性の願望をこじ開けることをめざして必死でアタックするわけだけど、れいちぇるの場合はちょっと違った。むしろ、開かされたのはハヤトくんのほうだったかもしれないね。
れいちぇるから届く、オープンな質問メッセージに、ハヤトくんは理性が弾け飛んじゃうくらい舞い上がって、これでもかってくらい卑猥な本音を告白しまくった。
自分に興味を持たれて、自身の話をしている時って、人間の脳内ではアドレナリンがぶしゅぶしゅ噴射して、非常に大きな愉悦が伴うらしい。
その快感を与えてくれる相手がれいちぇるだったから、メッセージになかなか既読がつかないとか、返信が少しでも遅いとかなれば、ハヤトくんはめちゃくちゃ慌てた。
――正直に答えすぎやけん、引いちゃったかな?
不安になって、数秒おきに手のひらの中の光をスワイプしては、つかない既読に心臓はバクバクさ。
居ても立ってもいられず、「ごめんなさい! 引いちゃいましたか?」と、悲しい絵文字を入れて追撃メールだよ。
右手の親指で光る画面をスワイプ。スワイプ、スワイプ。それでもメッセージは開封されない。
ハヤトくんは長年の経験から、こういう場所で知り合った男女は、どれだけ親密で濃厚な会話をしていても、親指一つであっさり終わってしまうのを知っていた。だから未読がおそろしい。
「もうダメかも……」
ハヤトくんが絶望しかけた時に、ポケットの中がぶるんと震える。ハヤトくんの心も、揺り起こされたように眼をさます。
「引いてないよ、好きだよ!」
れいちぇるからの返信。ハヤトくんはほっとすると同時に、天にも昇る心地になった。
つづきますーおたのしみに!