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闇に生きる

闇の世界。それはつまり、真っ暗な世界だ。

闇といえば、聞いた人は何を想像するだろうか?

暗黒…無…他にもいろいろあるかもしれない。

中には絶望の象徴ととらえる人もいるかもしれない。

その絶望から逃れるために、光を追い求め続ける人もいるかもしれない。

しかし、「光と闇は、常に背中合わせである」ことを忘れてはならない。



暗闇の中に、一人の10歳ぐらいの少年がいた。

というより、ほぼ真っ暗な部屋に閉じ込められてしまった。

親の言うことに反発したのが原因だった。

親が少年に将来の結婚相手を紹介したが、少年がその話を断ったことだった。

それだけのことで、こんなことをするか?と誰もが思うだろう。

しかし、少年は親の企みを知っていた。だから断ったのだ。

親は、少年が反発したことよりも、企みが丸つぶれになったことで怒っていた。

そして小さな明かりが一つしかない地下室に閉じ込められたのだが、少年は反省の色一つ見せなかった。

少年は部屋の隅に置いてあるぼろぼろのベッドを見つけて座った。

「・・・」

ほぼ真っ暗な部屋に自分しかいなくても、怯え一つ見せない。

それどころか、このままでいいと思っているみたいである。

「・・・?」

誰もないはずなのに、目の前に気配を感じた少年は顔を上げた。

顔を上げると、真っ黒な長い髪をして、真っ黒なドレスを纏った女性がいた。

わらわとともに来るか?」

女性は聞いたが、少年は断った。

「僕はこのままでいいよ」

「ずっと、この真っ暗な部屋で過ごすというのか?」

「それもいいと思ってる」

「変わった少年だな」

言いながら、少年の目の前に立った。

「お姉ちゃん、誰?」

「(お姉ちゃん…)妾はジェラ。闇の女神だ」

これを聞いて、普通はぞっとするだろう。

なぜならジェラは、絶望と恐怖を司る邪悪な女神だからだ。

しかし、少年はそれを知りながらも、特に動じなかった。

「さぁ、妾と共に来るか、ここで死ぬかを選べ」

そう言って、巨大な鎌を少年に向けたが、少年はそれを見ても顔色一つ変えなかった。

「さっき言ったでしょ?僕はこのままでいいって」

「お前に選択の権利はない。もう一度問う。妾と共に来るか、ここで死ぬかを選べ」

そう言ってジェラは少年が少しでも動けば切り裂くぐらいの距離に鎌を近づけた。

だが、少年は怯え一つ見せなかった。

「みんなそうやって、僕から今の気楽な生活を奪うの?」

少年が聞くと、ジェラは苛立ちを隠さずに少年に詰め寄った。

「黙れ。妾の聞いたことに答えろ!」

そう言って、魔力で少年を浮き上がらせ、身動きが取れないようにした。

「お姉ちゃんこそ、それしか言うことないの?」

少年は全く動けなかったが、何とも思わないみたいだった。

「なに?」

「お姉ちゃんの好きにすればいいよ。こんなことをされても、何とも思わない僕を殺しても面白くないだろうけどね」

「くっ。お前は…」

ジェラは更に苛立ち、魔力を解いて少年を落としたが、少年は何とも思わないように立ち上がってベッドに座った。

「僕はここに入れられる前から決めてたんだ。“闇に生きる”ってね」

「“闇に生きる”…だと?」

闇が怖くないのか?とジェラに聞かれても、少年は「暗闇は静かだから居心地がいい」と答えた。

「こんな何もない暗闇の中で、生きることができるものなら生きてみるがいい」

そう言って、ジェラは少年の前から姿を消した。

「そのつもりだよ。そして、誰にも邪魔はさせない」

そう呟いた少年を、真っ黒な霧のようなものが包み込んだ。

だが、少年はその霧の中でも、何も感じないかのようにじっとしていた。

1日3回、少年の母親が食事を持ってきてそれを食べる以外の動作を見せず、話しかけても返事以外しなかった。

「あんなことをしておいて、全く反省してないみたいね?」

「・・・」

「反省しない限り、ここから出さないから!」

「・・・」

母親に何を言われても、少年は何も返事しなかった。

そんな少年の態度に何を言っても無駄だと思った母親は、それ以上何も言わずに戻って行った。

少年が一人になったのを狙っていたかのように、少年の体から真っ黒な霧のようなものが溢れ出し、少年の全身を包み込んだが、少年は特に何も思わなかったみたいだった。


「っく…暗黒の霧に包まれても、全く動じないとは…」

水晶玉越しに少年の様子を見ていたジェラだが、何も変わらない少年に手を焼いているみたいだった。


「あいつ、少しは反省したのか?」

「それが全く。それどころか、何を聞いても返事もしないの」

「あいつなりの抵抗か?」

「さぁ…いつまであの部屋にいるのかしら…」

少年の両親がリビングでこんなやり取りをしていた。


しかし、ある日。

母親がいつものように少年に食事を持って行った。

「もう2ヵ月も経ったんだし、そろそろ戻りたいんじゃないの?」

声をかけながら様子を見ようとした。だが、

「あれ?どこに?」

ベッドどころか、部屋のどこにも少年の姿がなかった。

「そんな…どうやってここから!?」

母親は慌ててリビングに戻り、父親に話した。

「なに!?どこにもいないだと!?」

「そうなの!壁に穴をあけた感じもないのにどうやって…」

「とにかく探すぞ!」

父親が言って動こうとしたときだった。

「僕はここだよ」

少年の声が窓の外から聞こえた。

「お前、どうやって!?それにその恰好は何だ!?」

少年は頭から真っ黒なローブをかぶっていた。しかも・・・。

「どうして浮いてるの!?」

そう。少年は地面に立っておらず、浮いていたのだった。

「僕は魔王になったんだよ。闇の女神様の力でね」

そう言って窓から入ってリビングに降り立った。

両親はそれを見てぞっとした。

「何もしないから心配しなくていいよ。僕は二人の企みを知ってたから、あの結婚の話を断ったんだ」

少年の結婚相手の家はとんでもなく裕福な大金持ちで、少年を結婚させて家族になり、家の金を自分のものにしようとしていた。

それを少年は偶然という形で知り、そんなことはさせないと、結婚を断ったのだった。

「お前は…」

「また取り合おうとしても無駄だよ。結婚を断った時に、二人の企みを話しておいたから」

「な!?なんてことをしてくれたの!?」

「僕の話は以上だよ。僕はもうここからいなくなるし、ここには二度と帰ってこないから」

少年はそう言って浮き上がり、リビングの窓から飛び立つように家を出て行った。

「そ、そんな…」

両親はがっくりしてしばらく動かなかった。


この出来事から半年もしないうちに、家は多額の負債を抱えて潰れてしまった。


それから数年が過ぎたある日の夜。

「な、何なのよ!?あんたたちは!?」

高校生ぐらいの女性が、数人の男たちに追い掛け回されていた。

「待てよ!いいところに連れてってやるからさぁ!」

「行かないって言ってるでしょ! あ!」

女性は必死に逃げたが、追いかけてくる仲間の一人が前にいて道を塞がれた。

「もう逃げられないぜ?」

「そ、そんな…」

女性はもう終わったと思った。だが・・・。

「何やってるんだ?」

そう言って、真っ黒なローブをまとった男が、女性を庇うように降り立った。

「何だお前は!?」

「あ、こいつまさか!」

仲間の一人があることに気づく。

「知ってるのか?」

「数年前から聞くようになった“夜の魔王”だ! こいつに会ったら、その翌日の朝日は地獄で拝むことになる!」

「よく知ってるな。今ならまだ、彼女を置いて失せるなら、こっちは何もしない。ただし、ちょっとでも危害を加えるようなら・・・」

そう言って右手に、鋭利な刃をした巨大な鎌を持った。

「この死神の鎌が、お前たちを確実に地獄に落とす」

男達は今までにない恐怖を感じて震え、顔を真っ青にして逃げた。

残った女性も、腰を抜かしている。

魔王は振り向き、右手を開いて鎌を消した。

「い、いや…来ないで…」

「この時間に、一人で出歩くのは危険だ。早く家に帰れ」

それだけ言って、女性に背を向けて飛び上がった。

「え…もしかして、助けてくれたの…?」

女性は、魔王の行動に呆気に取られた気分になりながら、家に帰った。

「そういえば…何となくだけど、どこかで…?」


『くっ…あいつめ…毎度のことながら、魔王らしからぬ行動を…』

水晶玉越しに魔王の行動を見ていたジェラは、苦虫を嚙み潰した表情だった。



数年前、ジェラは少年を自分の仲間にしようとしたのだが、それを少年が拒み、しかも暗黒の霧で包んでも全く動じなかった。

それでもジェラは、少年を自分のものにしようと闇の力を与え、魔王に仕立てた。

しかし、少年は真っ暗闇の恐怖に全く怯えず、しかも孤独な中での絶望もものともしなかったために、心まではジェラのものにならなかったことで、ジェラは地団太を踏むしかなかった。

それどころか、魔王となった少年に力を奪われた上に魔界で拘束されてしまい、人間達の前に姿を現せなくなってしまったのだ。

そのため、目の前に置かれた水晶玉で魔王の行動を見ることしかできないのである。



魔王は町の一番高い鉄塔の先端に降り立って空を見上げた。

「ジェラ、俺に魔王としての力をくれたことには今も本当に感謝してるぜ? おかげで、こうして“闇に生きる”ことができてるからな」

『おのれ…』



その数日後。

夜の町で一人の女性が、数人の男に捕らえられた。

「な、何なのよ!?」

「いい加減、俺様の女になれよ!」

「嫌だって言ってるでしょ!? 私はあんたのことなんて、顔も見たくないぐらい大嫌いなんだから!!」

捕まえられながらも、必死にもがきながら言った。

「調子に乗ってんじゃねぇぞ! 俺様が本気で怒ったら、どうなるか思い知らせてやる!!」

言いながらポケットからナイフを取り出し、女性に突き付けた。

「ここで殺すって言うの? そんなことしたら、私を本当に自分のものにできなくなるけどいいの?」

女性はナイフを見ても怯えなかったみたいだった。

「この…!!!」

怒りのあまりに女性を刺そうとしたが、そうならなかった。

その直前に、横から伸びてきた手が止めたからだ。

「な、何だ!? あ!!」

伸びてきた手を辿って顔を見ると、男たちは驚いた。

「またこんなことやってるのか…どうやら、本当に地獄に落ちないとわからないみたいだな」

「お、お前、は…」

「夜の魔王!?」

男たちは怯え、女性を離すと蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げた。

「あ、その…」

「この前のあんたか。夜の一人歩きは危険だと前に言っただろ」

「ほんの数分だから、大丈夫だと思ったのよ!」

「あいつら、その“ほんの数分”を狙ってたんだな…とにかく、もう家に帰れ」

魔王はそう言って飛び上がろうとした。が…

「もしかして、ロウマ?」

女性に聞かれて、足が止まった。

「なぜ、その名を・・・?」

「私はヴェイラ。この名前に聞き覚えない?」

女性は聞きながら歩み寄った。

「ヴェイラ…?」

魔王は女性の名前に聞き覚えがある気がした。

「将来、あんたと結婚するはずだった女よ」

「!!!」

魔王は驚いた。

「そうか、あの時の…でも、もう終わったことだ。それに俺は、見ての通りの魔王だ」

「ずっと、気になってた。婚約破棄をしてから、何も聞かなくなったから…」

魔王は、あれから幽閉されたことを言い、そのときに現れた闇の女神の力で魔王になったことを言った。

これを聞いたヴェイラは、驚くしかなかった。

「普通は魔王といえば、世界を闇に変えて支配する存在なのだろうな」

しかし、魔王はそんなことをせず、むしろ夜のこの街を支配した感じだった。

「普通なら、光も支配するのに…」

「普通はそうするんだろうな。けど俺は、幽閉された時から“闇に生きる”って決めてたからな。だからあんたは、俺のことは忘れて光に生きろ」

魔王はそう言って空に飛んで行った。

「ロウマ…ありがとう…さようなら」

ヴェイラはつぶやくように言って家に帰った。

「幸せにな」

魔王は誰に言うわけでもなくつぶやいた。


数年後、ヴェイラは結婚して男の子を授かった。

その子供には、明るい世界で生きてほしいという願いを込めて「ライト」と名付けた。

自分が光に生きることができるのは、ロウマのおかげだと思っているみたいだ。


ロウマはその後も、魔王として人々から恐れられながらも、闇に生きるものという立場にありながら、それらしからぬ行動をしていた。

そして“闇に生きる”とはどういうことなのか…今も答えは見つかってないみたいだが、いつかは魔界の王になろうとしているみたいだった。

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