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「とりあえず、取り急ぎ知っておくべき事は他にありますか?」

 少年の問い掛けに男は上から下までじっと観察し、

「んー、そうだなあ。君はいくつだい?」

 と、尋ね返した。

「8歳、ですかね」

 この世界での記憶を辿り、家族の言葉を思い出す。

 流石に土地持ち農民とは言え、子供の誕生日を祝うほどの余裕は無いため、自分の年齢がいくつだとかそういう情報はすぐには出て来なかった。従って、丁度分かり易い年齢の兄弟との年齢差を計算した。

 それを聞いた男は妙に納得した表情を浮かべ、

「そうか……、そうなのかー。君にとって朗報と悲報がどっちもありそうなのだが……どうする?」

 と、肩を竦めながら戯けてみせる。

「……どっちも聞きたくないんですけど?」

 非常に嫌な予感を端々から感じ、少年は訝しげな表情を浮かべる。

「端的に云うと、君は王太子と同学年だ。ついでに云っておくと、ボクは一般常識を教えられると周りから思われていない。十中八九、然るべき年齢になったら学園に入学させられるのは確定事項だろう。御目出度う、原作を楽しめるよ!」

「どっちも僕にとっては悲報なんですが?」

 少年はがっくりと肩を落とした。

 彼が望んでいた平穏な暮らしにそのどちらも必要ではないどころか、害悪とも言えた。

 ただ、自分の計画していた人生設計は全部御破算になったのだけは確実だった。

「ハハハハハ、何を云っているんだい? 君の望んだ“メインストリーム”を制御するには丁度良い機会が転がり込んできたんだよ? このままだとどうにもならなくなるのだろう?」

「……一介の農民の子がやることじゃないんですけど?」

「残念ながら、この件に関してはボクよりも君の方が向いているんだ。自然の流れに身を委ねるとか、ボクに全てを(たく)し無関係な場所で生きるというなら止めはしないが?」

「一寸待って下さい……」

 少年は右手で男を制しながら、「いきなり人生の岐路(きろ)に立たされても……その……困る……」と、深く悩み始めた。

 先ず、魔力を持つ者を探す仕事中に“大魔法使い”に素質有りと見つかってしまった。

 これに関しては是非もない。元々、魔力を操れるようになり、十歳の時に徴用される予定だったのだ。二年ばかり早まっただけに過ぎないし、徴用される相手が国から“大魔法使い”に変わっただけである。何とか計画は修正できよう。

 次に、最初の予定とは違って魔導師を目指すことになったことだ。

 予定では魔力持ちとして徴用され、兵学校にて魔術師になるための教育を受ける予定だった。これならば、原作と関わらないでそこそこの生活ができ、なおかつ、この世界のことを知るための情報を得ることもそれなりに可能だと考えていた。折角前世で設定にどっぷりと嵌まったゲームの世界らしき場所で生まれたのだ。どこまでゲームでの設定通りなのか、調べてみたい。それが少年にとっての今生での望みであった。

 ただ、この点に関して言うならば、魔導師になれるかも知れない現状の方が好ましい展開である。王都の極一部の者にしか解放されていない禁書庫にも立ち入れる可能性が生じたのだ。この一点において、少年の心は大きく揺らいだのだ。

 問題は、貴族社会で生きることとなるため、確かにその知識を学ばねばならない。

 男の言う通り、それを確実に学べる場があるとすれば、学園しかないのだ。

 そしてその事実が指し示すものは、絶対に避けようとしていた原作の中枢に関わってしまうという事実であった。

 この一点が他の全ての利点を塗りつぶすほどの面倒事である。

 面倒事であるのだが、今までの会話から積極的にではなくとも、間接的にでもある種の誘導を状況状況で掛けなければ、大きくずれている原作の流れから更なる逸脱を開始し、基本的な原作知識が全くもって通用しない世界情勢になることが確定してしまっていた。

 要するに、目の前にいる人物の尻拭いをしないと、少年の希望である平穏無事な生活はほぼ不可能であるとの結論が出てしまっているのだ。

 何せ、自分が避けた場合、目の前にいる原作ブレイクした人物に全てを委ねることになるのだ。

 それも、弟子として最も近くでガバプレーを見せ付けられるのである。

 やり直しの利くゲームの実況動画ならばともかく、現実の世界でそのようなことをやられたら気が狂いかねない。

 精神衛生上、どう考えても退路のない選択肢であった。

「弟子になることは確定なんですよね?」

「流石にね。同じ転生者をここで取り逃がすわけにも行かない。まあ、ボクから魔道を習うのが不安というなら、アル爺さんやバーニーに任せても良い」

 少年は困惑しながら、

「それはそれでどうなんですかね」

 と、言葉少なに答える。

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