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「帝国は良く分からないなあ。実際、あの事件は本当に唐突に起きている。こちらが察知していたら、妨害に出ていたはずだからね。……まあ、王国諜報網が帝国より劣っていた所為で察知できなかった可能性は否定しないよ?」

 男は正直なところを言った。

「魔国の動きは察知できるのに?」

 少年の素朴な疑問に対し、

「そうなんだよねえ。正にそこさ、不思議なのは」

 と、男も素直に頷いた。

 男としても不思議ではあったのだ。自分がまだ国家機密としての帝国の情報を得る立場にいないのかも知れないとしても、不自然に得られる情報が偏っているのだ。

 前世で得ていた情報を加味したとしても、ある種の違和感は覚えていた。

「踊らされている?」

 あまりにも帝国にとって都合の良い状況を聞き、少年は首を傾げる。

「分からない。もしくは、諜報という事に関して、帝国が対魔国に対してはうちほど優れていない、その可能性も捨てきれない。何せ、原作の時点で王国魔道院の方が帝国のそれよりも上だっただろう?」

 少年の端的な問い掛けに対し、男は自分なりに考察した内容を語る。

「確かに。帝国は魔道の発展より科学の発展の方が優れていましたね。結果的に魔族に対してそれが後れを取る要因となる、か。理屈が通る分、逆に怪しいですよね」

 魔力を自在に操る種族だから、魔族。原作ゲームではそうなっていた。

 現実となったこの世界でその理由が通っているかは知らないが、人類種が魔力を扱うために編み出された技術が魔道である。

 一方で、自然を観察し、法則性を見出し技術体系化したものが科学であり、魔力を自在に扱う魔族はそちらの道を一片たりとも見向きもしていないために、人類種だけの技術体系と言えた。

 そして、人類種の中でも魔道に傾倒する王国と科学に傾倒する帝国の二つの流れがあると原作内では設定されていた。

 原作そのままならば、魔道技術の御陰で王国は魔族に対してはそれなりにやり合えるのだが、科学技術で後れを取るためにその分帝国相手だと出し抜かれることが多い。これは諜報部門でも言えることであり、少年はそこら辺の設定からそうではないかと当たりを付けたのだ。

「まあね。ただ、正直云って、今の魔道院にそこら辺を気にして手を回す余裕は無い。ついでに云えば、現在の王国諜報関係の家を見て見ると、防諜に力を入れていても、積極的に情報を収集する方面に強いと云い切れる家門はない。良くも悪くも、魔道院頼りになっている節がある」

 男はお手上げとばかりに苦笑する。

「ある意味原作通りというわけですか?」

 少年はげんなりした口調で言う。

 少年が知っている原作ゲームで、王国が後手後手に回る理由付けとして、諜報機関が弱いこととただでさえ仕事量が多い魔道院に足りない分の負担が更にかかり、魔道院が機能不全に陥っていった。それを解決しようと守旧派と革新派の主導権争いが起こり、より一層魔道院が動きが取れない状況になったのだ。

 話を聞くだけで、それに近しい状況が現実でも起きていると察したのだ。

「ああ、違う違う。アル爺さんとバーニーは和解しているよ。一応、守旧派と革新派の争いは起きていないし、魔道院内では大同団結がなされているよ」

「は?」

 男の言葉を聞き、少年はぽかんとする。

 言っていることは分かるのだが、その意味を理解することを頭が拒否してきた。

 男の言葉が真実ならば、少年が描いていた人生設計が一から崩れて行くのだ。

 即ち、既に原作通りのストーリーラインは崩壊していた。

「そんなに驚くことかい?」

「いやいやいやいやいや。魔道院が強いまでは良いんですよ。ですがね、アルバート老師とベルナルド師が和解していては、どう考えても原作通りの進行にならないんですが?」

「そんなことないでしょう」

「あるんです!」

 男の無理解に少年は切れた。「魔道院の対立が王国の初動の遅れとなり、魔国の侵攻を許し、勇者である王子が覚醒する切っ掛けとなるわけですよ? 魔道院が盤石だと勇者覚醒の流れが怪しくなるわけで、王国が魔国に対して停戦交渉を申し出ても魔王健在ならば応じるわけないじゃないですか!」

「風が吹けば桶屋が儲かるでもあるまいに……」

「もっかいストーリーラインの設定を思い起こせ! むしろ、原作主人公魔道院仲介ルートを思い出せ! ベルナルド師はアルバート老師が殿を引き受けて亡くなった際に、『俺はあの老人を見極めたつもりで何も見ていなかった。あの方に現場を任せられる態勢を作っていれば、このような仕儀にはならなかった。もっと早く、分かり合う働きかけをするべきだったのだ』と述懐していたでしょう? 貴女が読んでいない設定資料集で、そこら辺は更にスタッフが深掘りし、あの二人が手を組んで理想的な運営をしていたら、王国は決して魔国に深く攻め込まれることはなかった。むしろ開戦時の戦線を維持できたとまで公言していたんですよ? 王国が侵蝕されない限り、王子の覚醒は余程計算だって計画しないと起きえないんですよ!」

 少年は早口で捲し立てる。

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