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「クリス師に師事することになった以上、どう考えても面倒事から逃げられるわけがないのだが?」
「あの者はアレですよ。石橋を叩いて渡るのではなく、石橋を叩き割って渡らずにすむ理由を探すタイプですよ? その上、きちんとした形で調査した上で石橋が勝手に割れました、仕方ないですねえ、と云い切りますよ? その犯行がバレていても、結果的に陣営の得に成るから見逃さざるを得ないという流れをどうやってかして作り出すヤツですよ? 面倒事の塊たる七大名家に連なる事なんて避けるべき最大の懸念事項でしょうよ」
至極真っ当な客観的な見地を示した主君に、彼が今日まで見てきた少年の本質を論う。ある意味で、恋だのなんだのを自分の理性で抑え付けられる正真正銘のバケモノである。間違いなく一筋縄ではいかない、そんな相手に生半可な考えでは足下を掬われるだけだとフリッツは理解していた。
「それって全て無駄に終わっていますよね?」
思わず丁寧な言葉遣いでパウルは確認する。
「終わっていますねえ。終わっていますけど、今でも足掻いていますねえ」
主君の問い掛けにフリッツは素直に答える。
付き合いが長い分、主君の心情は手に取るように分かる。
合理性を重要視するカノーだからこそ、感情だけで判断する相手のことを完全には理解できないのである。
(まあ、アイツの場合はむしろ理性だけで判断しているから、一周回って自由気侭に感情の赴く儘に周りから見えてしまうだけなんだろうがなあ。ヒトは感情の生き物だ。物事を合理的に考えれば、逆に自分や相手方の感情も織り込んで決めなければならない。ところが、それを一切合切無視して、恰も最初からそうなると決まっているとばかりに全て理性だけで決め打ちしているのがアイツだ。別に人に配慮していないわけじゃねえのに、感情は先ではなく、後から来るモノと、結果がそうなるからそう思うようになると分かり切って動いていやがるんだよなあ。それこそ、先のことが分かっているから決め打ちしているようにしか見えねえからこそ、余計な事をしたくない、面倒事を嫌う、なのかも知れねえが……。だとすると、どうやって先のことを知っているのかって疑問が湧いてくるんだよなあ)
「もう諦めてうちの子になれば良いじゃん」
臣下の心中の悩みを知る余地もなく、パウルは自分なりの結論を言い放つ。
「なってくれると楽で良いんですけどねえ。ですが、わが道に固執するヤツですからねえ。まあ、そんなヤツだからこそ、第二座(ケブレス)に靡くとは思えないんですが、殿?」
「靡く靡かないじゃない。第二座相伝の術を甘く見るな。心が読めるという事は、相手にとって理想の対応を取れるわけだ。印象は良くなるよなあ?」
腹心の進言を渋い表情であっさりと棄却する。
「それ程の物なのですか?」
主君が大袈裟な物言いを余程のことがない限りしない男だと知り尽くしている身としては、それ程の物なのであると即座に飲み込まなくてはならない。故に、フリッツはそれがどれ程の脅威なのかを知る必要があった。




