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「俺と話が合うのが最低条件ですー。その点彼女たちは凄いね、俺でさえ偶に付いていけないぐらい深く魔道具と向き合っているもの」
「まあ、それは、はい。大人たちもアレっすね、家柄以外は文句云っていないんで、殿の相手に関しては」
主君の惚気に、フリッツはやや引きながらも同意する。
その反応は、ある意味でカノーの家中の評価にも似ていた。
少なくとも、今や魔道具技士になれる者は最低でも見習い魔道士なのだ。カノーの人間ならば、高く評価する点であるし、対外的な問題から反対しているだけであって、正室ならば兎も角、側室としてならば誰一人問題としない相手だとは考えられていた。
ただ、少しばかり手を出している数が節操ないかな、ぐらいは思われているのだが。
「つーか、ウチはカノーぞ? 血筋よりも家柄よりも魔道士であることを良しとする家風ぞ? 何で俺が魔道士になったからと云って掌返す阿呆女に時間を割いてやらにゃならんねん」
煮え切らない反応の腹心を見て、パウルは憤る。
実際のところ、彼の本音はある種の人間不信からきている女性不信にあるのだから、女嫌いになって遠ざけるよりはよっぽどマシな現状と言えた。
「真顔で何てこと云うんですか、殿。本音はしまっておいてください、同感ですけど、マジで」
側で高位の貴族令嬢たちが主君に何をしてきたのかを克明に見てきている者としては、その本音は徹頭徹尾同意するしかないのだが、流石に彼にも立場があった。
「まあ、然う云う訳で、少なくともカノー本家に問題は無くなったのだから、シェリーがベル兄の元に嫁ぐという理由は当人同士が望まない限りなくなっているわけだ。だったら、将来有望な魔道士を引き込むために嫁ぐことに何の問題があるのだ?」
「自由意志を認めておきながら、政略結婚を求めている矛盾ではないですかねえ」
舌の根が乾かぬうちに、前言を撤回するような厚顔無恥とも言える提案をする主君に呆れ気味にフリッツは正直な感想を述べた。
「どうせ我々七大名家の者に余程の理由でもない限りは自分で好きな相手と添い遂げるなどと云った甘い事柄はあり得ないのだ。ならば、それができる相手が政略上の問題は無い相手ならば望んで迎え入れるべきでは?」
至極真面目な顔付きでパウルは反対のふりをしている腹心に問い掛ける。
「理論武装ができていることは理解しました。ですが、それってこちらの勝手な事情ですよね?」
理論武装できてようやくスタート地点に立てる話なのだ。
本気で少年を取り込むとなれば、それだけでは弱いとフリッツは考えていた。
少なくとも、少年の側もそれを望んでいる状況でない限り、どこかで襤褸が出る。
そうなれば、間違いなくどこからか介入されて全てのお膳立てが無駄になるし、大切な姫君の心が沈み込むこと間違いないのだ。失敗は許されない。
「当家は七大名家第伍座ぞ? どうして斟酌する必要があろうか? お互いに悪く思っていない間柄だと分かっているのに」
大上段から切り捨てるかのような他の者が言えば増上慢としか言えない台詞だが、物事の本質を突いてはいた。
少なくとも、少年とシェリーの間には何らかの想いの行き来はあるのだから、脈がないわけではないのだ。
「いやあ、それはそれとして、面倒事が嫌なんですよ、あの者?」
だからこそ、フリッツは最大の問題点を挙げるしかなかった。
何やかんや言って、フリッツも少年のことは弟のように可愛がっているのだ。
できうることなら一門に引き入れたいが、それはそれとして少年の本音も痛いほど理解していた。
カノーの宗家筋の姫君を迎え入れることの重みを。




