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「いやあ、たらし込む相手がエロ餓鬼(がき)であろうとも流石(さすが)にキツいっす。ましてや自制の()如才(じょさい)ない男が相手ですよ? 学院前に勝負を決めろという指示は姫様には()が勝ちすぎでは?」

 この世界における七大名家直系の姫ともなれば価値の重みが違う。余程の莫迦でもない限り、自分の命と引き替えになる博打(ばくち)など打つわけがない。恋は盲目(もうもく)と言うから、(こい)すれば無謀(むぼう)にもなろうが、この場合は、むしろその方が有り難いと手薬煉(てぐすね)引いて待ち(かま)えているのだから、飛んで火に入るなんとやらであろう。

 問題は恋しているのが七大名家直系の姫の方であり、農家の小倅の方がよほどしっかりしているためにその方法が不可能であるということだが。

 それもあっての家族公認の色仕掛(いろじか)けだったが、相手が朴念仁(ぼくねんじん)ではないにしても、色仕掛けする方に現状その才能が無いのだから絶望的な(たたか)いだったのだ。

「では他に手がありしや?」

 否定的な意見しか云わない臣下に、パウルは真顔で尋ねる。

「あり申さず」

 主君の短い問い掛けにこれまた短い返事をフリッツは返した。

「ならば、貫くしかあるまい、己の恋心を。誠心(せいしん)をぶつけて返さぬほど野暮(やぼ)ではあるまいて」

「問題はそれを返すには重すぎる現実がのし()かってくるって事ですかねえ」

 フリッツは溜息を付き、「解決していない方が悪い」と、断言した。

「ベル兄に云ってくれよお」

 にべもない結論に、パウルは泣き言を言った。

「やです、間違いなく、クリス様に(にら)まれる!」

 フリッツはフリッツで悲鳴(ひめい)を上げた。

 役目の都合上、ベルナルドに近しく、それはそのままクリスにも近しい意味を成す。嫌と言う程二人の性質を間近で見続けてきたのである。悲鳴の一つや二つもあげたくなるのも道理なのだ。

「まあ、そうなんだけどさあ。ベル兄にしてもクリスさんにしても、さっさと義務を果たしていちゃつくだけで良いじゃないか」

 パウルは真顔でぼやく。

 別段、血さえ残せば同性同士の恋人関係が認められている貴族階級の感覚からすれば、二人がどんな関係であろうとも問題はなかった。

 むしろ、貴族の義務である血を残す行動に出ていないことが最大の問題であった。

「それ、そのまんま殿にも返ってくる話題ですからね? いい加減(よめ)取ってくださいよ。家中の大人たちから私達が突き上げられるんですけど?」

 首を左右に振りながらフリッツは溜息を付いた。

 魔道士となったからには、カノーの当主となる資格を得たと言うことなのだ。その時点で、貴族の義務を無視して生きることは許されない。

 付け加えれば、(すで)にパウルはカノーの当主なのである。七大名家の当主が血を残す努力すらしないという前代未聞の事態を引き起こせば、最もマシな処分(しょぶん)は当主引退であろう。

 人のふり見て我がふり直せを無視しているのは誰だという話なのだ。

「ベル兄たちと違って、それなりに手は出しているんですけどお?」

「まあ、そこは否定しませんよ。ただ、手を出す相手が魔道具技師にしかなれない令嬢(れいじょう)じゃなければ誰も文句(もんく)云ってこなかったんですけどねえ」

 主君の軽口に真面目な顔付きでフリッツは答える。

 流石に七大名家の当主の家ともなれば、相手が誰でも良いというわけにはいかない。

 何かしら、その地位に見合う何かを持ったものが伴侶(はんりょ)相応(ふさわ)しいと考えられていた。

 今では魔導器の戦略的重要性が高まったため、その技術者たる魔道具技師の地位は上がってはいるものの、だからと言って世間の評価ががらりと変わったかと言えば違う。

 魔道士になれなかった半端(はんぱ)(もの)が仕方なく()く仕事という印象は(いま)だに払拭(ふっしょく)されきっていない。

 理解のあるカノーにしてそうなのだから、他の家門(かもん)ならば猶更(なおさら)であろう。

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