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「頼りないから支え甲斐があるんですよ」
「そうか、能力が足りないことも悪いことじゃないな」
「ちゃんとそこを認識して、こっちに必要だと思うことを最初から丸投げして下さるなら、ですがね。然う云う判断力は完璧ですからねえ、殿は」
仕事を自分で抱え込み、できなくなってから回されるよりも、責任は取ると言質を取らせた上で最初から全てを任されるなら、能力があるフリッツたちならその方が圧倒的に気楽にこなせるのだ。
向いていない仕事を丸投げされるのならば兎も角、人を見る目だけは間違いなくあるパウルがその分担を間違えることはなかった。
「何でもできるベル兄を見てきたからなあ。自分でも何でもやろうとしていたら、アイツが、『立場を考えれば無駄な時間を使うことを許されていないと思いますが? 自分以上にやらねばならないことをやれる臣下がいるのならば、最初から全部任せて責任だけ取るのが上に立つ者の器量だと思います』と云ってくれなければ今でも自分で抱え込んでいたかもしれんな」
「……偶に思うんですけど、あの者は然う云う知識や判断を一体どこで学んできたんですかね?」
少年ならば然う言うだろうなと言う謎の信頼感が主君の言に嘘はないとフリッツに確信させた。
それが故、どうやってその様な助言ができる様になるのかという疑問に行き当たる。正直、ある種の教養が七大名家の跡取りと一緒に教育されてきた自分よりも格段の差があるように感じる瞬間があるのだ。そうと感じるだけでも異常なのに、それが自然としか思えないぐらいに常日頃からの受け答えで感じてしまう。説明のしようが無い違和感を常に覚えるのだ。
その様な臣下の葛藤を知ってか知らずか、
「今の話のことならクリスさんが何でもかんでも丸投げしてくる種族らしくてな。無理なモンは無理だと突っ返しているウチに、理想の上司像を考えついたらしいぞ?」
と、パウルは当然の様に答えた。
「酷い反面教師がいたものですな」
フリッツはあっさりと納得した。
実際のところ、クリスが然う言うことをやるかやらないかと言えば、やると断言できる。それだけの経験をしてきていた。故に、あっさりとそれを納得してしまうのだ。少なくともこの件に関しては違和感を感じる方がおかしいと認識できた。
「これだけ素晴らしい知恵者を他に流すなどあってはならんことだとは思わんかねえ、ンン?」
臣下の反応から、自分の意見を押し通す機会と見立てたパウルは説得を開始する。
「まあ、そうなりますかな。だからと云って、姫君とやって良いぞ、などと云われても普通は首肯できませぬし、正気を持った者ならば距離を取ると思いますが?」
本音のところでは、少年を取り込むこと自体に別段反対するところはないので、常識的に障害となり得る問題を提起した。
「それで第二座に奪われるのを座視することを首肯する、と?」
「極論過ぎでは?」
主の出した結論にフリッツは思わず苦笑する。
「果たしてそれはどうかな? 彼の家ならばアイツの希少性を直ぐに気が付くだろう。当家と同じく魔道を重んじる家故に、な」
どこまでも真剣な表情でパウルは自分の推測を開陳した。
「……殿は心当たりがあるので?」
根拠のない話ではないと察し、フリッツは主君の推測の裏打ちがなんなのかを尋ねた。
「無い訳じゃあないし、アイツの前に現れるタイミングが良すぎたな。最初から狙っていたと考えるべきだろうさ。だから、学院に入る前に勝負を決めろとシェリーには伝えていたんだがなあ」
明らかに少年狙いの動きをしてきた第二座の後継者が最大の敵になるとパウルは確信していた。学園に入れば他の七大名家のいずれかが動くと想定していたが、初日から想定以上の相手が動いてくるとまでは読んでいなかった。
だからこそ、争いになる前に勝負が付いている状態こそが理想だったのだ。




