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「あのさあ、アイツがいくつの時から然う云う絡み方していたわけ、フリッツ?」
流石のパウルも呆れ顔で突っ込みを入れた。
少年との年の差を考えると、パウルでさえそれは身近な年上の同性からのウザ絡みなのではないかと思い当たるのだ。
「まあ、流石に猥談のお兄さんたちと思われたくはなかったので、学院に入るまでは遠慮していましたよ? クリス様からも雷落とされたくはありませんでしたから」
「それより前にベル兄から地獄を見させられているよ」
その後、ふと思い付いたのか、「あと、カチュアちゃんからも詰められるな」と、呟いた。
「あー、過保護ですねえ、彼の周りは」
フリッツは頬笑ましい光景を思い浮かべ、静かに笑う。
「まあ、農家の小倅が貴族に対して変な印象を持つのを嫌っているとも云えるんだが」
「その筆頭である殿はあまり強いこと云えませんな」
今更ながらの言い種にフリッツは吹き出しそうになる衝動を抑えつつ、真面目ぶって言い放った。
腹心の内心を完全に読みきりながらも、
「この俺であっても流石に恐れや身の程を弁えているわけだが?」
と、大真面目な顔付きでパウルは返す。
「何に対しての?」
「そりゃあ決まっている。ベル兄や王国最強様の領域には踏み込めていないってことだよ」
七大名家の当主をして、遙か高みにいる二人を引き合いに出す。
「比べている相手が相手なんですがねえ」
少年が一番見ている高位貴族二人を基準にするのは当然であり、それが王国の高位貴族の中でも途轍もない外れ値である場合、やはり外れ値でありながらもまだマシな自分の主君が謙譲の意を示すのは仕方のないことであった。なるべくならば、その様な位置での争いすら無い方が理想なのだが。
「これでも七大名家の一角の当主ぞ? 王国の頂点を担う存在ぞ?」
幼きときからの腐れ縁の臣下の考えなどお見通しである。声に出さずとも、顔に出ていた。
「だったら全権をいい加減ベルナルド様から引き継ぎなさいませ」
フリッツにとっての悲願、自らの主君がカノーの頂点に立つこと、最早、何度目か分からぬ進言をする。
「えー、俺様が今魔導器開発の第一線から退いたら百年は進捗が遅れるしー」
そして、返ってきた答えはフリッツの想像通りであった。
言わんとすることも分かるから、
「クソッ、事実だから云い返しようがねえ! 何てクソ君主だ!」
と、悪態を吐くに止めた。
それが並列して行えることならば説得のしようもあるが、最悪の乱世が訪れると分かっている今、王国全体の戦力の底上げは必須である。
それが、カノーがやれることならば止めることは許されない。
許されないが、物心ついた頃からの夢を否定されたからには愚痴の一つでも言いたくもなった。
「多少は遠慮してくれても良いのよ、フリッツ君。君たちは本当に主君に対する敬意はあれど遠慮は無いのよねえ」
他の学友たちも同じ反応を絶対にするので、パウルとしては食傷気味であった。
だからと言って、自分に対して距離を置くような物言いをしてきたらそれはそれでいじけるのだが。
「殿、物心ついてからずっと従っているのですよ? 身内だけの場で今更遠慮できると思います? 先行きが無いと知って自棄っぱちになっていた頃も付き従っていたんですからね」
「お前らには頭が上がらないよ。よくもまあ、こんな頼りない主君に付いてきてくれたものだ」
なかったことにしたい幼き日々の記憶の数々を人質にされては流石のパウルも折れるしかない。
事実、もし、自分が彼らの立場であったならば、見捨てられていても仕方ないと思えるぐらいの失態であった。
逆を言えば、よくもまあ付いてきてくれるものだと呆れるを通り越して感心するしかなかったし、感謝以外の感情が思い当たらなかった。




