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その後、学院だけでは王国を運営する人材を育てるには器が足りなくなったために、幾つかの専門的な学校を設立することとなったが、“学院”とだけ呼んだ場合の意味は創立当初以来大本の学び舎を意味する言葉であった。
当然、学院の中核をなす二つのクラスに入るとなれば相応の実力を求められることとなり、今では怖ろしい程狭き門と化していた。
創立の理念である七大名家の技術の伝承というお題目があるため、七大名家の継承者たちには保険として多少の下駄を履かされることとなるが、それを支える側近候補にはその様な配慮は与えられない。
従って、フリッツを含むパウルの学友候補はそれこそ血の滲むような努力の上に魂をすり減らすほどの重圧を周りから掛けられ、パウルの側近くで学ぶことを期待されていたし、当人達もそれを叶えるために日夜勉学に励んだ。
結果、上位二クラスに滑り込めたのはフリッツだけであったが、配慮というものがあれば、少なくともあと一人ぐらいは上位二クラスのいずれかに潜り込ませていただろうし、フリッツの負担も相当に減ったはずなのである。
それでも、見込まれていた学友候補全員が少なくとも学院卒業の資格を得たのは驚くべき成果ではあったのだが。
「お前たちは良くやった。他の家では良くて一人という時もあるのだ。全員が少なくとも学院に合格したのは十分な成果だったと俺は誇りに思う」
心からの讃辞をパウルは告げる。
彼が他家から軽く見られない理由の一つが、学友たちの奮闘もあればこそなので猶更だ。
「そうは云っても、二組までに引っかからなかった者たちはそんな風には思えないでしょうからねえ。こればかりは当人が折り合わないと行けない問題ですし」
狭義の学院卒業生であるフリッツだからこそ、そこに入れなかった者たちとの壁は大きく感じる。本気で凄い偉業であると思っていても、思われた側からしたら嫌味かと感じてしまうのは致し方ないことである。
「そう考えるとアイツは本当に優秀だな。恐れ入る」
「学院合格者の体験談を聞いて、どうやったら上位二クラスをぎりぎり免れる順位で合格するかを研究し尽くして、結果二組に滑り込んでしまったのは思わず爆笑してしまいましたがね。いやはや、あの時の点数計算は芸術的だった」
フリッツは当時のことを思い出し、思わず爆笑した。
何せ、嫌味か貴様と言われようとも諦めずに体験談を聞き出し、絶対に上位二クラスに入りたくないと力説し続けた結果、大魔法使いの弟子として恥ずかしくない成績を叩き出しながらも、惜しくも上位二クラスからぎりぎり外れる芸術的な点数をどうやって叩き出すかという計画に最終的には全員が一丸となって取り組んだのだから、フリッツとしては有り難い話だったのだ。
学院卒業後から多少ギクシャクしていた仲間たちと、心の底から笑い合えたのは本当に嬉しかったのだ。
「実に一人分だけ間違えたからな。逆を云えば、あと一人アイツより優秀なものが入試に参加していたら叶ったことを考えれば、計算自体はそこまで間違っちゃあいなかったんだがな。運がなかったな」
くつくつと笑いながらパウルは少年の詰めの甘さを評した。
「いやはや、殿を合格点の確認だけに一生のお願いで扱き使ったのは語り草ですな。その権利を与えていたとは云え、自分が三組に合格していないことを抗議するためだけにその権利を使い切るのは余程の豪の者でしょうよ」
「まあ、実際のところ、疑惑の採点の可能性も高かったからな。俺としても三組に合格して貰う方が都合が良かったから乗ったが、アイツの計算が一問正解分間違いだったのは本当に恐ろしいよ」
「ええ、二組合格水準点の計算がそこだけ間違いでしたからね。よくもまあ、あらゆる手段で情報を集め尽くし、そこまで計算しきったものです」
声色は呆れてはいたが、フリッツは心底肝を冷やしていた。




