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「王国の決め事は知ったことではないという態度(スタンス)ですかね?」

 主君の態度から王国上層部も帝国の真意が那辺(なへん)にあるのかを苦慮(くりょ)していると察し、常識的な判断を提示してみる。

「その程度の認識ならば、まあ、よろしくはないが良いのだがな。あの国もアレで内部はゴタゴタというかドロドロとしている。せめて紛争地帯をどうにかしてからこっちに取り組んで欲しいところだが……広大な領域を領有すると、紛争している地域と王国方面の貴族では温度差があるのだろうなあ。魔族の怖さを知らぬが故の火遊びだな」

 パウルは大きく溜息(ためいき)を付いた。

 入植を決断した帝国上層部の考えなどは分からないが、魔道院が受けている仕事の一つに防諜(ぼうちょう)対策がある以上、魔道院運営に大きく関わるカノーもそれに対してはそれなりに力を入れることとなる。

 相手の思考を読み取るために、帝国の文化、風土、政治、派閥(はばつ)、流行などを調べ上げ、その上で国境付近の情勢や帝都の情勢の温度差を無理ない範囲で入手していた。

 他の防諜関連の組織や家と情報交換し、慎重に帝国の情勢を見極め、“勇者”が立ち上がった際の妨害(ぼうがい)となり()るかどうかの検討(けんとう)までした。

 その結論が火遊びなのだから救い様がないなとパウルはげんなりとしたものだった。

「まあ、手に負えないことはとりあえず(たな)()(いた)しましょう、殿。喫緊(きっきん)の問題は、当家の影響力の(かげ)りについて、でありましょう」

 よろしくない方に主君の心が向く前に、フリッツは話を元に戻した

「つまるところはそこだよなあ、そこ。俺というより、カノーが舐められているから、魔道士見習いに手を出すバカが現れたんだよなあ」

 深々と溜息を付いてから、パウルは天を(あお)いだ。

「それに輪を掛けて(まず)いのは、あの者が平民出身であるということが知れ渡っていることでしょう。学院に上がった年齢の者の中にはまだまだ常識に(うと)い者も多くいます故」

「別に平民だから何しても良いってワケじゃねえんだがなあ。少なくとも、学院には入れる領域(レベル)(いた)っている平民なんて、どいつもこいつも何かしらの芸に(ひい)でている者ばかりだぞ? それを()している家次第では戦争だろうが」

 (なご)やかな表情なれど、明らかにパウルの機嫌はあまりよろしくない方へと急速に(かたむ)いていった。

 自分で言っていて、カノーに喧嘩を売られたことを再確認したが故の激怒(げきど)であった。

「学院には入れたという才能に裏付けされた若さから来る増長(ぞうちょう)と万能感は厄介(やっかい)ですからなあ」

 とりあえず、主君の機嫌を取り成し、自分でつい先程決めたことを朝三(ちょうさん)暮四(ぼし)させないように少しずつ怒りの方向性を変えることにフリッツは専念する。

「別に無理矢理ねじ込んだわけじゃねえんだがなあ。アイツは実力で入学したってのによお」

 パウルは剣呑(けんのん)な瞳で睥睨した。

 あの田舎伯爵が退出していて良かったなと思いながら、

「まあ、云っても分からぬバカが意外といるものですよ、頭の良い莫迦(ばか)が」

 と、主の視線を(やなぎ)に風とばかりに流し、フリッツは(わら)う。

「頭の良い莫迦か。云い得て妙だな」

 ふっとパウルは殺気を()いて笑った。

「まあ、ただのバカを入学させるほど、学院に余裕(よゆう)は無いでしょう。その様なものがあれば私めも楽だったのですがねえ」

 自分の入学試験を思い出し、フリッツは大きく首を横に振った。

 学院と王国で呼ばれる(まな)()は複数存在するが、ただ“学院”と呼び(なら)わすものはたった一つである。

 一クラス当たり二〇名程度を一学年につき五クラス、そのうち上位二クラスのみが通う校舎こそがただ“学院”と呼ばれる原初の学び舎である。

 王国肇国(ちょうこく)当初から存在し、初代の学長は“大魔法使い”だったと伝えられる。

 王国を支える人材を育成するために七大名家に伝わる技術の伝承(でんしょう)や対魔王戦で(つちか)われた経験を後世に伝えるために創立したのだ。

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