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 その境界線の一つが、クリスの弟子たる少年に対する態度である。

 魔道士であることを第一と()すカノーで、その価値を理解できない者は必要しない。

 少年がもたらしたものを尊重できない者も()らない。

 その上、自分に対して面従腹背(めんじゅうふくはい)ならば処理する他に(すべ)はない。

 今はその()()()の時間であった。

「なんだ、見当付けているのではないですか」

 意外そうな顔付きでフリッツは(おどろ)く。

 彼の知り()る限り、彼の主君は面倒くさがりではあったが、仕事が遅いわけではない。

 むしろ、地獄耳で手が速い男である。今の今まで何もしていない方が驚きに(あたい)した。

「証拠がねえと面倒なのよ。まあ、ベル兄と情報共有しているから、アイツが卒業するまでには終わるかなあ。それまでは爺さんに庇護(ひご)して(もら)わねえとなあ。……爺さんに貸し作るのも面倒だけど、必要経費かねえ」

 七大名家の当主であろうとも、何でもかんでも家中で専制できるわけではない。

 分家の中には本家よりも声望有り(あま)る家もあるし、何代も(わた)って仕えてきてくれる臣下に対して強く言い出せないときもある。

 ここ(しばら)く本家(すじ)から当主を出せていないということもあり、カノーの本家の発言力は近年然程(さほど)強くはない。

 周りからは見習い当主とみられているパウルでは、魔軍が攻めて来るであろうという未来展望がある状況下で家中の統制をなくすような豪腕(ごうわん)を振るうだけの貫目(かんめ)が今のところなかった。

 魔王が攻め込んできたときに家中の統制が効かないようでは七大名家としての格が(うたが)われる。

 パウルとしては隠忍(いんにん)自重(じちょう)が求められる状況であった。

 従って、現状、強制的に何かをしようとしたら、自分よりも発言力がある相手の威を借りる必要に(せま)られていた。

「“王国最強”に借りを作れるだけでも十分なのでは?」

 フリッツは首を(かし)げる。

 王国魔道院とカノーはお互いに強い影響力を与え合っている。

 歴代の当主が魔道士であることが条件であることから、家中で魔道士であることは何よりも重んじられていた。当然家の外の人間相手でもその対応に変わりはなく、基本的には魔道院関係者に敬意を払う家風であった。

 原作では、仕事の容量限界(キャパオーバー)に達していた“王国最強”と険悪だったベルナルドだが、政策上ぶつかり合う他の家の政敵に対してと比べれば圧倒的に紳士的対応でぶつかっていたことからも魔道士への敬意はいつどんな時でも忘れはしない。

 それが、当代最強の魔道士ともなれば一種の信仰に近い感情を(いだ)く。

 原作と違い、“王国最強”とぶつかる理由のない現状、カノー家中に置ける“王国最強”への憧憬(しょうけい)の念は非常に強い。

 従って、“王国最強”の太鼓判を得ることは、大きな意味があるし、“王国最強”その人に対して借りを作れるだけの関係を(きず)いていること自体が一目を置かれる状況であった。

「返す当てがないから嫌なんだよ。魔導器作るのは構わないんだが、他に何もできなくなるのは流石にキツいんでな」

 “王国最強”に何事かを頼んだ見返りが、新型魔導器の量産を()し進めることを求められると分かり切っているため、パウルは尻込(しりご)みをしていた。

 流石のパウルも魔導器作りは好きであっても、なんの工夫もなく量産し続ける事は苦痛であった。

「おやまあ。てっきり、それを口実に当主の仕事をベルナルド様に押し付けるものかと」

「何事もモノには限度ってもんがあるんだぞ、フリッツ。流石の俺でもベル兄に押し付ける仕事量は考える。……王太子の(うわさ)が真であればあるこそ、な」

 机の上で手を組み、パウルは思案顔をする。

「殿は魔軍が動くとお考えで?」

 側近として与えられている情報から、主君の悩みを即座に言い当てる。


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