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「なんとなく、ですかね。今までの会話から、貴女自身が院長なら、それを最初に告げると思ったものでして」
「……ふぅーん。これはこれで面白い事になってきたかな?」
いささか鼻白みながらも、男は気を取り直したかのように静かに笑った。
「それで、一応確認致したいのですが、この世界は“ブレイブサーガ”シリーズそっくりの世界で間違いないでしょうか?」
少年はここが正念場とばかりに開き直り、長年の疑問を男に問う。
男はもっともな質問だと笑い、
「ボクが知る限りそのようだね。農村で生きていると分からないところもあるだろうが、都市、それも王都となるとはっきりと分かってくるものもある」
と、結論を述べた。
「時代背景を聞いても?」
少年は次なる疑問を言った。
「いわゆる初作が始まる少し前と云ったところかな? ボクとバーニーが同期だからね。それで大体想定が付くのではないかな?」
相手がそれなりに知識がありそうだと判断し、男は重要NPCを愛称で呼んでみせた。
男の返事を聞き、少年は自分が知っている知識と照らし合わせる。その結果、
「あー、幻のブレイブサーガ0の時代ですか? 結局、設定だけで終わった?」
と、前世の記憶と一致する情報を口に出して確認した。
「あれ、そうなのかい? ボクは0の計画が出たあたりで死んでしまったからなあ。それだけが心残りだったのだが、そうか。発売されなかったのか」
少年の言葉を聞き、男は酷く落胆した。
「ええ、そのまま帝国三部作に移りましたね。後から出た、シリーズ全てを網羅した設定集で色々と明らかにされましたが」
「え、何それ、知らない。うわー、やりたかったなあ」
本気で悔しがる男を見て、少年は自分と間違いなく同類であると確信する。
少年は機を逃さず、
「それで、貴女はいつから前世の記憶を取り戻しているのですか?」
と、一番の疑問点を尋ねてみた。
「物心ついた頃にはあった気がするんだよねえ。特にそこら辺で苦労した記憶無いし」
男ははぐらかすことなく、素直に答えた。然程それが重要な情報ではないと認識してる、少年はそう感じた。
「成程。僕も似た感じですから、そういうものなのかな?」
少年もまた、軽い感じで返事をした。妙に拘っていると思われたら、何かしら思考誘導されるかも知れない。情報が出そろうまでは極力世間話と思わせた方が良いと考えた。実際、どうでも良い話である可能性も多大なのだ。重要かどうかが分かるまではどれもこれも適当な感じで受け止めている、そう思われた方が良い。
「サンプル数が少なすぎて、法則性があるかどうかまでは分からないねえ。さっきも云ったかも知れないけど、ボク以外では君が初めて会った転生者だからね。まあ、二人目がいたのだから、まだいてもおかしくはない。ボクと君とで生まれた時期も違うわけだし、もっと過去に転生した者もいたかも知れない。ある意味で調べる価値はあるかも知れないが、そこまで手が回るか怪しいところだねえ」
十年近く早く生まれた経験からか、男はさらりと状況を語る。
少年からしてみても、この男がわざわざ自分を担いだり、引っかけたりしようとしているようには見えなかったので、とりあえずは信じても良いかなと思っていた。
「……このまま、無印の時代に到達する、と?」
故に、少年からすると一番重要な情報の確認をする。
自分が生きようとしてる時代背景がどこなのか、前世知識がどこまで生きるか死ぬかで彼の人生設計は大きく変わる。なるべくならば、楽な道を生きたいと誰しもが願うように、少年もまた、前世で仕入れた知識で厄介事に巻き込まれないようにしながら、やりたいことだけをして人生を謳歌したいと計画していたのだ。正確な情報は必須であった。
「初作か無印かまでは分からないけど、ボクが世の中を眺めてきた限り、そうなってもおかしくないとは思う。むしろ、なるんじゃないかな。魔国の動きが知り得る限り、原作通りみたいだからね」
男は原作ゲームのことを知る者なら分かる符丁を使い、自分が知り得る限りの情報を伝えた。
「……帝国ではなく?」
少年は首を傾げた。
彼が知る限り、物語の発端は帝国が緩衝地帯に手を出したことによる魔国の人類社会への報復から始まる。魔国にとって、王国だろうが帝国だろうがどちらも敵対する人類社会であり、どちらも滅ぼすべき存在である。
ところが、魔国は基本的に外へと食指を向けない。
ヒトなどいつでも滅ぼせるとばかりに、意見の合わない魔族内の他勢力同士で争うのだ。
人類社会に侵攻してくるのは、人類側が魔族に対して舐めた行動を取ったと魔族が捉えた場合と、魔族を全て統一した王が君臨し、大号令により人類陣営へと大攻勢を掛けてくる場合である。
魔族統一王たる魔王を退治する物語とは言え、物語の発端はどちらかと言えば前者の人類側からの挑発が戦端の切っ掛けと言える。原作通りに物語が進んでいるかどうかを見極めるならば、帝国側を注意深く見守っている方が確実だと少年は考えていたのだ。