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 原作知識を持つクリス師弟ではなくとも、これまで積み重ねてきている歴史を知る者ならば、与えられた情報さえ正しいものならばある程度の推論はできる。

 未来予測と言っても良いぐらいの先読みができる原作知識持ちには(おと)るやも知れないが、自分たちの世界であると認識してできることをしている者にしかない強みもまた存在した。

 派閥や人脈と言った原作にはデータとして存在しないが現実には存在するものや、過去から脈々(みゃくみゃく)と伝えられてきた経験則などと言った積み重ねられてきたこの世界の歴史そのものである。

 パウルの推測は王国が成り立って以来、七大名家が集めてきたその様な事柄を背景とした知識の賜物(たまもの)であった。

「情報が確定し次第、遊牧民も動きそうですけどね」

 当然、主を助言するために存在する七大名家の家臣団の上位層にもそれらの知識は伝授されている。当意即妙(とういそくみょう)とばかりに、間髪(かんはつ)入れずに主君の発言を補足(ほそく)できるのは彼の出自を(あらわ)してすらいた。

「アー、やだやだ。政治なんてめんどくさいことより、俺は好き勝手に魔道具を設計してえ」

 大真面目(まじめ)な顔でパウルはぼやいた。

 現在の王国における魔道具の革新的進化の大本がこのパウルの設計にあるとあれば、この放言もある意味でこれから来たる動乱への下準備に貢献(こうけん)するものと言える。

 むしろ、私事にかまけるより魔道具開発に(いそ)しめと王国上層部は推奨(すいしょう)するだろう。

「……今はしていないとでも云われるのですか、殿?」

 胡乱(うろん)な者を見る目で側近は主君を(なが)める。

(ライン)超えているぞー、フリッツ。俺だから許すが、他の家だとこれだぞ、これ」

 手刀で首をぺしぺし叩きながら、パウルはカラカラ笑う。

「他の家に(つか)える気はないので必要ない知識ですな」

 さらっとフリッツは自分の不敬すら流し、己の忠誠を暗に強調する。

「ま、お前に逃げられても俺が困るか。ベル兄とアイツを抜けば、お前ぐらいだからなあ、俺に付いてこられるの」

 首を左右に振りながら、「もうちょっと砕けても良いんだけどなあ、他の連中も」と、フリッツ以外の学友を思い起こした。

「さて、ベルナルド様や私は兎も角、彼をそこに(ふく)めるのは如何(いかが)なものかと。むしろ、含めるのならばさっさと取り込むべきでは?」

 至極(しごく)真面目な顔付きでフリッツは進言する。

 ただ、その表情はなんでやっていないのですかともやれるものならやって見なされと言った主君を(ため)すような色合いも含まれていた。

「そうだよなあ、お前も魔道士資格得られたの、アイツの御陰(おかげ)だもんなあ。デカい顔できる恩人を捨てるほどお前は恩知らずじゃないもんなあ」

 臣下の分を(わきま)えていないととらえられても仕方のない態度を不問にし、その底にあるフリッツの心情をパウルはあっさりと読み取った。

「恩云々(うんぬん)以前に、あれだけの男を要らないという見識こそマズいのでは?」

 早々に見切られたのが気まずいのか、フリッツは照れ隠しに本音交じりの意見を()べた。

「マズいに決まっているだろう? アイツの価値を理解できねえ連中がヤベエ。さっさと粛清(しゅくせい)したい。でも、それやると俺が家のこと差配しなくちゃいけなくなって面倒いんだよなあ。折角、まだベル兄に押し付けていられるんだから、今の内に要らねえジジイどもをさっさと全部あぶり出さねえとなあ」

「まだ、あぶり出しきっていなかったのですか?」

 呆れた口調でフリッツは首を横に振る。

「頑固なシミ汚れが取れないのと同じよ。本当にしつこいヤツは目立つ奴の後ろに(ひそ)んでいるからなあ」

 肩を(すく)めながら、パウルは苦笑する。

 人間なのだから、想定が崩れて(てのひら)返しするのは許せた。

 カノーの流儀からして、魔道士になれるか分からないパウルを(かつ)ぎ上げる胆力(たんりょく)を求めるのは(こく)だと幼心で理解はしていたからだ。納得はできなかったが。

 故に、魔道士になれると見込みが付いた時点で心を入れ替えて忠誠を誓った者たちは許した。許したが、その後の行動次第で粛清すると心に決めた。


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