14
「爺様にしろ、バーニーにしろ、納得いくまで突き詰めるからねえ。時間の無駄までは云わないけど、本当かどうかを検証する時間に回した方がボクとしては効率が良いと思うからね。時間制限がある訳だし」
それまでのどこかちゃらけた雰囲気から一転して、真面目な声色でクリスは言う。
「まあ、カノーの方が締め切りが近いのは否定できないな」
ベルナルドは真剣な表情で一つ頷く。
カノー宗家の継承がかかっている以上、長く見積もってもパウルの学園卒業までが期限であろう。もう、数年先に迫っている絶対的な時限である。
「そうそう。だからね、先に話を持ってきたのさ」
軽い調子でクリスは言うとにやりと笑った。
誰が最も説得しやすいかを分かり切っているぞ、表情がそれを如実に現していた。
「……お前は偶に恐ろしく計算高くなるな。だからこその【大魔法使い】なんだろうが」
大きく溜息を付きながら、ベルナルドは降参とばかりに両手を挙げた。
「お褒めに与り恐縮だよ、バーニー。とりあえず、明日はよろしく頼むよ」
慇懃な態度でクリスは華麗にベルナルドに向けて一礼して見せた。
「やれやれ。爺さんの追及を抑えながら納得させるなどと云う無茶振りはいつ以来だ、おい」
カラカラと笑いながらも、クリスがなぜか急いでいることに多少心中でベルナルドは疑問を覚えた。
自分のために急いでいるだろう事は分かっているのだが、それでも何か引っかかりを覚えた。
クリス自身が急ぐ理由があるとすれば間違いなく自分であるという確信はベルナルドにはある。あるのだが、そうだとしても、昨日の今日で明日クソ爺を説得しに行くというのは流石に普段のクリスからしてみても急すぎる。
ならば、急ぐ理由があるとするのならば、
(この少年のためか?)
と、傍らで静かに佇む少年を見る。
居場所がないとばかりに挙動不審になるのならば兎も角、ベルナルドの注意がクリスに向いた途端にそこにいない者と扱えとばかりに自己主張を消し去る。片田舎の生まれの農家の小倅がする処世術とは思えぬ身の処し方に疑念を抱く。
本当にただの農家の小倅なのか、と。
そうは言っても、この場でそれを追究するわけにはいかない。
後ろに控える弟妹の好奇に満ちた視線が少年に集中している以上、それをすれば後々面倒な事になるのは確定である。
クリスにネチネチ言われ続けるのは業腹であるし、場の雰囲気が読めない男と認識されるのもお断りである。
(もう暫く見届けた後でも問題ないか)
そう腹を決め、ベルナルドは皆の意識を己に向けるため大きく一つ手を叩いた。
「では、今日のところは解散しよう。クリス、明日魔道院で良いんだな?」
「それでよろしく。パウル君とシェリーちゃんとはまた別の機会を作るから、今日のところはバーニーの指示に従ってね」
興味津々と弟子を見詰める二人に、クリスは和やかに告げる。
その様な場において、少年は全てにおいて無関心のように見えた。
疲れ切っていて早く家に帰りたいと思っていた少年を深読みしまくる周囲の人間が後々面倒な事案をひっさげてくるようになったのはこの時の所為だと気が付くのはまだ先の話である。
なんであの時と失敗を悔やむことの多い少年が、この件に関してはどう足掻いてもどうにもならないと諦めの境地に至ったのも、旅疲れと幼さ故の体力の無さはどう足掻いたってどうにもならないと分かっていたからである。
ただ、第一印象を考えずにこの後周りの人間を勘違いさせる行動をし続けたことに関しては、浅はかだったと後悔するのだが。




