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「……無意識だからこそ、魔力容量の増加に繋がる君の遣り方を必要としない。その上、魔力の枯渇がほぼ無いから、魔力容量を増やしたいという意欲に欠けるようになっているのだろう。それが、君が毎日行っていた日課の瞑想に我々が辿り着けなかった要因だと思う。魔力が薄い地域で住んでいたからこその着眼点だったのだろうな」
ベルナルドは感心した目付きで少年を見た。
(学ぶ環境がないと思われる農村の出ながら、僅かな受け答えで自分なりの答えに辿り着く為の考察をするだけの機転、学ぶ環境のある王都で生まれ育った者でもここまで己の知性を磨き上げている者はどれほど居るだろうか? 素晴らしい拾いものをしてきたな、クリスは)
「面白いだろう、ボクの弟子は」
ベルナルドの内心を完全に読みきったかのように、クリスは自慢気な顔を見せた。
「そうだな。見事だ。【魔力視】が後天的才能であることをその身で立証してみせるとは、大魔法使い以来のことだろうよ」
「はーっははっはは! やっぱり、バーニーは流石だねえ。魔力容量を増やす程度では本質を誤魔化せなかったか」
クリスは楽しそうにそれはとても楽しそうに笑った。
「大魔法使いの生い立ちの謎は幾つかあれど、俺が思うに最大のものは今で云う魔道士として必要な資質を全て持ち合わせていた点だ。【並列思考】、【魔力容量】、そして、【魔力視】。どれもこれも先天的な才能であると云われ、魔導師の数が増えないのもそれが原因。ならば、かの大魔法使いは無名の市井の生まれであったというのに、その3つを最初から持ち合わせていたというのか? 否、大いに否。あり得ない話だよ。うちの人間ですら、生まれつきその3つを併せ持つ者など皆無だ。それほど希少な存在が、いきなり涌いて出る可能性などどれほどあろうか? 大魔法使いを見出した師と云われている存在が後天的に必要な才能を育て上げれば不世出の魔導師になると考えたからこそ作り上げられたと考えるべきだろう。ならば、必要な才能の内、いずれかは後天的に身に付ける方法がある筈なのだ」
自分に言い聞かせるかのような口調で、ベルナルドはパウルとシェリーを見る。(そうでなくては、そうでなくては、救われないではないか!)
カノー家は七大名家の中でも特殊な家柄である。
七英雄の中で唯一の魔法使いだった英雄の末裔であり、当主となる者は魔道士であることが求められていた。
他にいかなる優れた才があろうとも関係無く、ただ魔道士であることが求められる。
いくら嫡流の血筋であろうと、魔道士でなければ当主にはなれない。
それによって人生をねじ曲げられた者は数多い。
(俺は弟妹をその様な目に合わせはせぬぞ)
そのためにも、目の前の少年を確実に取り込むことが求められていた。
「ま、難しく考えることはないと思うんだよ、ボクとしては。要するに、この少年が爺さんに認められたらそれで良しって話だからねえ」
「……成程、今宵の招待を受けたのは、外堀を埋めに来たのか」
ベルナルドは道理ですんなりと夜会にやって来たわけだと納得した。
普段は様々な理由を付けて夜会に参加しないクリスが、自分から打診してきた時点で何かがあるとは考えていた。
それが、かくも凄まじき一手を見舞いしに来たとは想像だにもしなかったが。
「別に、君は反対することないと思っていたよ、バーニー。でも、納得していない場合、爺さんと一緒に問題点を論い続けるだろう? だったら、最初から納得していて貰った方が手っ取り早いからね」
「ふん、この問題に関してはあの爺さんも俺と同じく渇望している話だからな。それは根掘り葉掘り聞かれるだろうよ」
ベルナルドは思わず笑う。
魔力容量という魔道士にとって絶対的な命題を前に、どこの誰とも知れぬ馬の骨が解答を出したのならば、誰であれそれが真実なのか心行くまで突き詰めるのが当然なのだ。
それを面倒だと嫌うがために、クリスはらしからぬ根回しをしたことがいかにも面白かったのだ。
クリスにとって夜会の方が自分とクソ師匠の追究よりマシだと思っていると分かったことが何よりも笑えた。




