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場の雰囲気を変えるために、クリスは手を大きく打ち、
「今日のところはバーニーのやっていることを見ていると良いよ。ボクも弟子を困らせたいわけじゃないからね」
と、流れを元に戻した。
「では、再度手順を聞こうか、少年。先ずは魔力溜まりから放出されている魔力を体内に取り込むことからだったな」
結跏趺坐のような体勢を取ると、ベルナルドは深く静かな呼吸を取る。「さて、それからどうするのだったかな?」
「少しでも良いですから体内の魔力溜まりから魔力を放出します。魔力溜まりに少しでも隙間を作ったら、そこに体外の魔力を流し込んで自らの魔力に取り込み自分のものにすることを慣らします。これが第一段階です」
少年はベルナルドの意思を酌み取り、新たに来た二人が意図せずに盗み聞きできるよう説明を最初から始めた。
「まあ、魔術を使うものならば、ここら辺は無意識に行っていることだな。これは敢えて意識して行うようにすると云う事かな?」
「第二段階として、放出する魔力を意識して全身に巡らせ、魔力溜まりを空にして体外から意識して魔力を取り込んでいくので、自然回復に任せるのではなく、強制的に魔力を取り込む必要があるので、意識して行うことができないのでしたら多分然う云う事だと思います」
クリスに弟子入りして日が浅い少年としては、魔術を使うと体にどの様な変化が起きるかまでは未経験の分野だったため、ベルナルドの感想に一切触れず、次の段階の説明をするだけにした。
「成程な。魔力が視える手練の魔道士だと、魔力を使い切る寸前に体外の魔力を収集して魔力切れを防ぐからな。自然回復しか知らない者ならば、意識して行えるようになった方が良かろうな。まあ、第一前提として、魔力の流れが視えなくては始まらないが」
少年の反応がなかろうとも、魔道士としての見地からの感想をベルナルドは再び口にした。
「第三段階は取り込んだ魔力を魔力溜まりから体に流し込んで、再び魔力溜まりに戻します」
少年もベルナルドの解説が自分に向けたものだけでは無いと理解していた。
何せ、自分以外は推定魔術を使えるはずなのだ。魔術が使える者が使える者に対してどういう状況になるとの解説でもあろうし、魔術に関して素人である自分に対して魔術の行使がどの様なものなのかを言葉で説明してくれている様な気がしたのだ。
要するに、少年とこの場に居るほかの者との認識の温度差を言語化してくれている、そう感じたのだ。
「ふむ、魔力経路を構築するということだな。体内の魔力を把握する訓練にも丁度良い」
少年がかつて四苦八苦しながら行えるようになった過程をあっさりと行っていく様を見て、才能の差を思い知らされていた。
クリスが才能の世界というのも納得の話である。
「そこまでできる様になりましたら、魔力溜まりが空になった時に魔力を外から吸い上げるようにして、その魔力を自分のものにしながら体内に流し込み続けます。これが第四段階です」
「一時的にとは云え、自分の許容量以上の魔力を体内で動かし続けるのは中々に骨が折れるな」
「慣れるまではほんの少量にするべきかと」
これだけ自在に魔力を体内で扱っているのに心にも思っていないことを言うなと少年は感じたが、顔には出しても口には出さなかった。
多分、自分ではそうではなくとも、後ろで聞いている二人は違うとベルナルドは理解しているのだ。あくまで自分のためではなく、二人のために既に分かっていることを説明させている。その心遣いを理解できたからこそ、後ろの二人には見えない自分の表情を敢えて隠さず、後ろの二人に聞こえてしまう感想は口にしなかった。
「そうだろうな。俺は大魔術の行使やら何やらで慣れているから問題ないが、これから始める者たちはいきなり限度を超えて行うべきではなかろうよ」
ベルナルドほどの者が田舎から出て来たばかりの少年の表情に込められた感情ぐらい読めないわけではなかっただろうが、クリスから聞かされていただろうことを考えればむしろ声に出して感想を述べないだけ圧倒的にマシであるとまで考えていた。
圧倒的な才能差を前にして、動揺しながらも平静を保てるのは恐ろしく肝が太すぎる。
一瞬だけ、ベルナルドはこの少年が本当にただの農家の小倅なのかと疑った。知性と言い、精神性と言い、何も知らない農家の子供にしては懸け離れすぎている。
だが、すぐにその考えを打ち消した。
もし、そうならば、クリスがその旨を密かに自分へと伝えている。それだけは間違いないのだから、少なくともクリスがこの少年をただの農家の子供として認識しているのは確実であった。
ならば、疑う余地はない、ベルナルドはそう信じた。




