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ガバチャー奮闘記  作者: 高橋太郎
幼馴染み
32/50

 転生してからこれほど美味(おい)しいものを食べたことがないとしか言いようがない食事をすること(しば)し、食後のお茶を飲み終わる頃にベルナルドはふらりと部屋に入ってきた。

「待たせたな」

 クリスはティーカップを優雅に置いてから、

「何、君に待たされるのはいつものことさ。今日は七大名家に相応しい料理とともに待っていたんだ。暇を感じることなどなかったよ」

 と、(さわ)やかに笑った。

「本来ならば、少なくとも持て成すためにも誰かを付けるところだったのだがな。流石に、宗家(そうけ)主催(しゅさい)の夜会ともならば、手の空く者がいなくてな」

 一方のベルナルドは苦笑しながらクリスの対面に座った。

「まあ、気にしないでくれたまえ。ボクもボクで夜会はあまり得意ではないからね。こっちで待たされた方が圧倒的にマシさ」

「そう云ってもらえると助かる。それで──お前の見立て通りと考えても良いのだな?」

 それまでとは打って変わって、圧力すら感じる強い視線をベルナルドは少年に向けた。

「それ以上かも知れないねえ。正直、ボクでは計り知れないよ」

 (こま)ったかのような表情を浮かべ、クリスは軽く肩を竦めて見せた。

「……お前がそこまで云う領域か。想像も付かないな」

 目を(つぶ)り、静かに首を左右に振る。「しかし、それならば逆に希望はあるということか」

「まあ、一応ボクでも再現は可能だったからね。彼ほど視えないにしても」

「増えたのか!」

 クリスの答えにベルナルドはすぐに食い付いた。

「多少ね」

 びっくりするほど顔を近くに寄せてきたベルナルドに対して、クリスは静かに頬笑(ほほえ)む。「ただ、魔道士として最前線に立つ今のボク達からすると時間に対しての効率は悪いかな」

「では、魔道士ではない者にとっては意味があるという事なのだな?」

 クリスの答えの意味するところをベルナルドは正確に読み取った。

 時間がある者ならばやる意味がある、即ち、仕事に追われていない者ならばその価値はあると言うことだ。

「別に魔道士にとっても意味がないとは言っていないよ? 効率が悪いだけで」

「……試したのか?」

「そりゃあ、人に(すす)める前に試すに決まっているだろう。とは云っても、僕ではなく、この少年が自分の村の友人たちで試したことを調べ直した程度なんだけどね。それはそれとして、君はボクのことをなんだと思っているんだい?」

「まあ、クリスはクリスだな。だからこそ、協力してくれそうな相手が居るものか危惧(きぐ)していたんだが?」

 ベルナルドは呵呵(かか)と笑う。

 人当たりも良いし、友人もそれなりにいるクリスだが、ある種の胡散(うさん)臭さは隠せるようなものではなく、親しい者こそクリスからの要請をあの手この手で避けようとする傾向があった。

「ははは。まあ、然う云うと思って、カチュアちゃんにも協力して貰っているよ? 目に見えて劇的という程では無いが、彼女にもその効果は見える。継続すれば、魔道士の最低下限に至れることは間違いない。……(ただ)、問題は、とても単調だから()きるんだよね」

 クリス自身、自分の人となりを知る親しい者こそ胡散臭いものを見る目で見てくることをよく理解していた。問題があるとすれば、それを理解した上で、そのことに一毫(いちごう)たりとも懸念(けねん)を覚えないところなのだが、周りもそれこそクリスがクリスたる所以(ゆえん)だろうと(あきら)めているので、今のところは大きな問題は起きそうにないのがある意味で救いだろう。七大名家の当主代行や魔道院という後ろ盾あってのことだが、それ以上に本人の働きもその態度を取れる要因でもある。誰も、“大魔道士”の称号を得た相手に対して、周りが問題ないとしている事柄に対して()えて波風を立てようとできるわけがないのだ。

「その程度で魔力容量が増えるのならば恩の字さ。早速でも、明日からやれるのか?」

 何も事情を知らぬ者ならばドン引きしかねないほど食い気味にベルナルドは物事を進めようとする。

「まあ、ここなら魔力溜まりから魔力が吹き上がっている場所もあるから、行けると思うよ。最初は僕たちも見守っているべきだろうけどね。ああ、後、君も試したりするのかな、バーニー?」

 当然事情を知るクリスは平然と答えるが、概要(がいよう)しか知らされていない少年からすると今日はもう帰って休みたいという気持ちでいっぱいであった。

 流石に、王都に来た二日目でこの状況は胃もたれするような内容の濃さであった。

「……まあ、そうしないと不味いだろうなあ。これで色々時を使う立場でな」

 苦笑しながら、ベルナルドは射すくめるような視線で少年を見た。

 少年は怯む様子もなく、自然体のまま見詰め返す。強い意志を感じる視線ではあったが、別段少年を害する何かを感じなかったのと、既に同じ様な強い視線を受けたことがある経験が平常心を失わせなかった要因だろう。

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