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ガバチャー奮闘記  作者: 高橋太郎
幼馴染み
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「君ほど(くわ)しくはないが、原作での説明程度にはね。それだと、出来る者は出来るが、出来ない者には出来ない、そんな感じでねえ。云ってしまえば、バーニーとボクには目に見えた効果があり、彼やシェリーちゃんには全くと云って良いほど結果が見えなかった」

 クリスはそう言って肩を竦めて見せた。

 原作ゲームでは設定集ほど詳しい手順が説明されているわけではない。“魔力を上げる”と言った命令を実行するだけで上がるのだ。どの様にして上げるかはゲームの雰囲気を盛り上げるためのフレーバーテキストに書かれていた内容を覚えているに過ぎない。(したが)って、クリスのやっていることは感覚では分かるが、言語化したり理論化することは本人ではできない行動だったのである。

 幸い自分自身を(きた)えることとベルナルドのようなクリスの感覚的表現を受け入れて再現できる才人(さいじん)には通用したが、そこの領域に(いた)っていない者に対しては意味がない修行となってしまっていた。

 だからこそ、クリスはこの若き同郷人に対して大きな期待を抱いているのだ。

「僕に対して云った、“魔力が視えている”状態なんですよね?」

 そんなクリスの胸中を分かっていない少年は不思議そうに首を傾げた。

 彼個人の経験則によれば、“魔力が視えている”者ならば多少なりとも魔力容量が増えるはずなのだ。正直、クリスの言っていることの意味が分からなかった。

「少なくとも、体内での動きは(つか)んでいるようだったけど、外から入れるという感覚が掴めていないんじゃないかな」

「……?? いや、体内で動かせたら体外から簡単に引き込めるでしょう。こんなに魔力が濃い(ところ)なら?」

 クリスの答えに少年はより一層(いっそう)困惑(こんわく)した。

 “魔力が視えている”のに生まれ故郷に比べて怖ろしい程魔力が濃いこの場所で体内に魔力を引き込めないということが有り得るのだろうか?

 少なくとも、少年が知っている者たちならば、これほどまでに濃ければ王都のどこでだって魔力容量を増やす瞑想(めいそう)をやれるはずである。

「……ふーん。成程なあ」

 少年を興味深そうに見詰め、「僕よりも君の方が魔力を“視る”事に関してはやはり圧倒的に上みたいだねえ。これはいよいよもしかして、だな」と嬉しそうに笑った。

「??」

 全く以て意味が分からないとばかりに少年は首を(かし)げた。

「前にも云ったかも知れないがね、魔力の流れを“視る”ことができるのは希少な能力なのだよ。魔力の濃さを何となく直感できることはできても、直観できる者は少ない、といったところかな」

「それに何の違いが……」

 少年が(くわ)しく聞こうとした時、

「待たせたな」

 と、クリスに深みのあるバリトンでいつの間にやら側に来ていた男が話し掛けてきた。

「やあ、バーニー。無理を云って悪かったね」

 満面の笑みでクリスはバーニーと呼びかけた男に即座に答える。

 少年は伏せ目がちに辺りをうかがう。

 狙って壁の花に徹していたクリスに対し、急激な注目が集まっていた。

 クリスというよりも、壇上で挨拶をしていたベルナルドが話し掛けたという事実に対しての注目、そのように感じられた。

 誰しもがその一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)にそれとなく注意を(はら)っている様子であった。

「俺の方こそ無理を云ったようだな。お前からの報告書の事実確認がしたくてな。それで、この少年が(うわさ)の?」

「ああ、そうだよ。既に魔力容量だけで云えば魔道士級の逸材さ。ただ、まだまだ礼儀作法を仕込むには時間が足りなくてね。無礼な物云いになっても許して欲しいな」

「全く、お前は俺のことをなんだと思っているのだ? その程度のことも許せぬ男だったら、今頃お前を斬っているわ」

 苦笑しながらベルナルドは軽口を(たた)いた。

 成程、この二人はここまで気安いのかと少年は感心する。

 原作の推しキャラを追っかけていただけではこのような人間関係を築き上げることはできまい、今生を現実として認識し、しっかりと地に足を付けた生活を送ってきたのだな、とクリスに対する評価を上方修正する。

「さて、申し訳ないが、軽い挨拶(あいさつ)をする時間しかなくてな。詳しいことは奥で聞くから、いつもの部屋に先に行っててくれ。案内は付く」

「別にどこにあるか分かっているから、頃合いを見計らって抜け出しても良かったのだけどね。要するに、彼が目立つ前にさっさと行けってことかな?」

 クリスはにっこり笑いながら、少年を指し示す。

「まあ、用心のし過ぎだとは思うのだが、事が事だけにな。食事も用意してあるので、そっちでゆっくりしていてくれ。魔道院の務めから戻ってきたばかりで顔を出しただけと説明しておくから、後のことは俺に任せて問題ない」

 どことなく人好きのする笑顔でベルナルドは気安(きやす)気安(きやす)()()う。

 その反応に思わず(おどろ)きの表情を浮かべそうになるのを少年は慌てて()えた。

 少年が知る原作のベルナルドが決して浮かべない表情で彼が言いそうにもない台詞を飛ばしてきたのだ。無表情(ポーカーフェイス)咄嗟(とっさ)(たも)った少年こそ驚嘆(きょうたん)すべき精神の持ち主と言えよう。

「ははは、君のことは信じているから気にもしていないさ。ボクも今日のところは詮索(せんさく)されるのはイヤだからね。君の好意に甘んじるとさせて(もら)うよ。では、また後でね、バーニー」

 ベルナルドに対して右手の人差し指と中指だけ伸ばしたまま、耳の後ろあたりから軽く振ると、「それでは、抜け出すとしようか、我が弟子」と、クリスは少年に向けてイタズラっぽい笑みを浮かべた。

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