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王都に無事到着して数日後、
「一通り作法は教えたから、夜会に行くよ」
と、クリスが唐突に言い出した。
「……は?」
少年は思わずぽかんとした。
あまりにも唐突すぎる宣言に何を返して良いのか分からなかったのだ。
「いやね、君、ボクの内弟子になるわけだろう? 流石に七大名家の代表者相手に御披露目しないと拙い訳だよ。ボクは全然気にしないけど、魔道院と師匠とバーニーぐらいには話を通しておかないと色々と面倒なわけだ」
「成程?」
少年は短い付き合いとは言え、自分の師匠になるクリスがいわゆる天才肌とでも言うべき思考回路を有する過程はすっ飛ばして結論に至る種別の人間だと理解していた。
従って、前提条件を全て分かっていないとなんでそう結論付けるか分からない言葉を口走るのは嫌と言う程思い知らされていた。ただ、前提を知っていてもどうしてその結論に至ったか分かるとは限らないのだが、そこは一切無視することにしての相鎚であった。
そんな、少年の様子から、ある程度はちゃんと説明しないと駄目だと気が付き、
「どちらにしろ、一度は君の御披露目が必要になるからね。だったら、身内の席で慣らすなり、形の上でも御披露目をした形が必要となる。そこで、バーニーの出番だ。彼が内々でする夜会に僕が君を連れて行けば、君の御披露目は完了したことになる。以降、他で呼び出されようとも、『修行中の身故に、表に出せませぬ』と、君の出席を拒否できるようになるからね。君にとっても損ではないはずだ」
と、クリスにしては分かりやすく説明した。
「ああ、本格的な御目見得までの時間稼ぎも兼ねているってことですか?」
原作知識のある少年はクリスの説明の裏にある事情を酌み取る。
魔導師ともなれば、国家の一大事に関わることが多い。王国でも上から数えた方が早い実力を持つクリスの弟子ともなれば、必要に応じて様々な場に立ち会わなければならない。
そのためにも、自分がクリスの弟子で御座いという顔で動き回ることとなるのだから、その様な場に同席するであろう相手に面通しぐらいは先にしておくべきだという話である。
「然う云う事だね。それと、君と是非引き合わせなければならない人物がいてね。真実、魔力容量が君の遣り方で増えるのならば、色々と問題がクリアされるんだよ」
クリスは少年の言葉に同意する。「兎にも角にも、君がボクの弟子であると少なくとも王都の社交界で認識されている必要があるんだ。魔道院やカノーの家に足繁く通わせるためにもね」
クリスほどの魔導師が自信を持って弟子に取るということは、そのものもまた魔導師になるであろう金の卵であろうから、無礼打ちなどと言った悲劇を避けなければならない。
王国は西に魔族生息圏、北に諸種族国家である帝国、東に大草原に生活する遊牧民と油断ならない隣人たちと接して存在している。その様な厳しい状況下に置かれているからこそ、上に立つ者たちは規律を乱す者を許さない環境にあるのだ。
しかしながら、全くその様な環境に居なかった田舎の農家の小倅が、魑魅魍魎蔓延る王都で自在に泳ぎまくれといきなり野放しにされてもどうにかなるものではない。
だからと言って、完璧な礼儀作法を身に付けさせるまで外に出さずにすむかというと、そうとも行かない。魔力容量を増やす手法が本当であるかどうかを調べるためにも、少なくとも魔道院関係各所には顔を出させなければならない。
魔道院だけならば、クリスが気を付けていればなんとでもなるのだが、何やかんや言って魔道院は王国中枢と密接な関わりがあり、礼儀作法を疎かにするわけにもいかない。
どちらにしろ、クリスは王国の礼儀作法などよりも優先すべきことがあると考えており、それは早ければ早い方が良いと理解していた。
それ故の、時期尚早と理解しつつも無理矢理にでも御披露目をすることとしたのだ。
そうすれば少なくとも七大名家の当主の前で魔道士として認定されるための御目見得までなんとでも誤魔化せると算段できた。
「はて? 何の事やら?」
今生では未だ少年であるとは言え、前世では立派な社畜を務めていたのである。クリスの言っている根回しの部分については設定資料集から知るこの世界における常識やらなんやらも組み合わせればことの重要性は理解していた。
しかし、そこまで焦って自分に何をやらせたいのか、それが少年には理解できなかった。
「君も知っているはずさ。まあ、実際問題、そこまで今は目が行っていないだけだろうからね。仕方のないことさ」
いたずらっけ溢れる表情で片目を瞑り、「会えば思い出すよ」と、笑った。




