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まあ、どうやって心を読んでいるかの理屈は分かっているので、神器持ちでもない限りは何とかなるんですが、勇者世代の七大名家直系後継者たちは神器を親から譲り受けている場合もあるので、正直、困る。
どちらにしろ、今出来ることを全力で行う。それ以外に回避法はありません。
要するに、彼女の機嫌を損ねずに穏便な方法で田舎公子の群れを救えという話です。
なんで喧嘩売られた側が喧嘩売ってきたバカを助けにゃらなんのだ。理不尽すぎる。
「それは道理だ。ならば、魔道院の代表としてどの様に解決するつもりなのかな?」
「何もしません」
「……は?」
「何もしないのですよ。僕が叱責したり、魔道院に報告すれば、彼らは謝罪する機会が与えられましょう。そうすれば、丸く収まります。収まってしまうのですよ?」
相手の意表を突かなければ、こちらの反応を見て楽しまれます。
ならば、こちらも虚を突き、相手の反応を見て対応します。ええ、種の分かっている手品なら、こちらも真似が出来ますからね。
相手の魔力波動から感情を読み取るなど今の僕からすれば赤子の手を捻るより簡単、だと良いんですがね。感情を読めてもそれを相手の思考に落とし込めるかはまた別の問題ですからねえ。読心術は難しい。
「……許す気はない、と?」
「許すも何も。何も無かったことを“許して”どうするのですか? 僕は別に“恫喝”したいわけじゃないんです。彼らとは全く関わっていない、それだけの話ですよ」
僕は怪訝そうな眼で見てくる彼女に対して静かに笑い方を竦めた。
ちなみに、喧嘩を売ってきた公子を見捨てて、後ろの方でにやにや笑って見学していた公子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていた。いやはや、見事な動きでしたね。
多分、目の前のケブレスには目を付けられるだろうけど、僕は再度関わろうとしてくるまでは気にしないから安心して逃げてくれ。
まあ、取り残されたこの公子は本当に可哀相だが、この種の無知は王国の政治力学の中では大きな罪だったのだから、諦めて甘受して欲しい。嗾けた公子たちも、結局は同罪なんだがね、僕は知らんけど。
うん、どう考えても、僕が無かったことにしても、王都にいない師匠はともかく、老師とベルナルド師が気が付かないわけないんですよね。どう考えても、ベルナルド師は妹の安全を図るためにも手の者を潜ませているでしょうし。
そうなると、ベルナルド師が老師とうちの師匠に秘密にしておくことないだろうからなあ。どちらにしろ、彼らの家の政はお終いってところですかね。僕も流石にフォローする理由ないしなあ。
熟々考えた結論が、僕は関わらないなのだから、僕の言葉を信用せずに読心しようとしても内心も発言も変わりがないのだから、彼女としてはやれることがなくなったはず。なくなっていると良いなあ。
「成程。噂とは頼りにならないものだね」
「噂、ですか?」
いささか予測外の言葉が出て来たので鸚鵡返しにしてしまいます。
いや、だってさあ、僕の噂なんて出回っているはずないんですよ。師匠ならともかく。そう考えると、師匠のおまけ的な噂は出回っていてもおかしくないのか?
だけど、変な噂が飛び回りそうなら、逆にベルナルド師あたりが揉み消しそうだしなあ。
「“大魔法使い”の弟子はものを知らない平民という話さ。とんでもない話だったね」
「いや、ものを知らない平民という事は当たっていると思うのですが?」
「君が知らないというのなら、この学園の生徒は皆物知らずになってしまうさ。フフフ、これからの楽しみができたな、それではまたね」
絵になる姿でこちらに別れの挨拶をし、軽やかな足取りで立ち去っていきます。
後に残されるのは僕と哀れな田舎公子殿。
さてはて、どうしたものかと悩みながら、先ずは公子殿に忠告というか、助言をすることにしました。




