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「平民風情が短杖を吊したまま学園を練り歩くんじゃねえよ」
ふふふ、いけない、いけない。思わず現実逃避していましたよ。
いや、本当にどこの田舎者だ、この公子は?
まあ、短杖と杖の違いを見抜けないのは、中央に縁が深い貴族でも割といるから仕方なし。魔道士、そこら中を練り歩いているわけではないですからね。
一方で、ローブを羽織って練り歩いている者がいれば、それは魔道士であるという知識はなくてはいけません。ええ、ローブを羽織り、魔道士の杖を佩いているのであれば、ローブの色からどの地位の魔道士であるかを類推できるのですから、これは行けませんよ?
その上、この公子殿の後ろの集団がにやにやしているのを見たところ、どうもどこぞの地方の田舎公子たちの集団らしいです。
ヤベエよ、ヤベエよ。
全員連帯責任だよ。平民がこの公子全員に引導渡すとなれば、もう目立たずに学園生活を送るの不可能だよ。
こういう時に一番頼りになる幼馴染みは近くにいるワケないしなあ。
彼女は勇者である王太子殿下と同じ1組所属。名前ありモブの癖にイベント一枚絵のセンターキャラとして人気投票でも上位に位置する唯一無二の特徴を持ったゲーム本編に一切登場しない存在。七大名家カノー家の姫にして、彼女の兄がカノー家当主の資格を有さなかった場合にベルナルド師が陣代になるようにその婚約者として扱われている人物なのですが……流石にこの時間だと入学式の会場入りしているだろうからなあ。真面目だからなあ。
彼女ならば、カノー直系故の貫目でこの有象無象を解散されたんだろうが、いない者は仕方ない。他に頼りになる心友もいない、この場にいるのは僕一人。
……是非もないよね? ここに居る連中の家名が断たれるのは彼らの無知から出でしもの、僕は悪くない。理論武装完了、攻撃に移ります。
一つ大きく息を吐いてから、啖呵を切るために大きく息を吸う。
覚悟を決めて口を開こうとした瞬間、
「これはこれは。面白いモノを見たねえ。君たち、自分が何をしているのか理解しているのかい?」
と、自分の後ろから愉快そうな声が響いた。
絡んできた田舎公子たちも僕も驚きを覚えてその声の主を見る。
姿形は中性的な美少年だが、魔力の波動やらなんやらの気配は女性的ですらある。それを抜きにしても、男子用制服を見事に着こなしているにもかかわらず、女性的な何かを覚えるのは間違いない。彼に甘い声を耳元で囁かれたら、道を踏み外すモノも数多くいよう。
まあ、この世界、責任さえ果たしていれば、同性愛がちゃんと認められているから、道を踏み外すというのも変な言葉ですが。ただ、責任を果たさずに愛に生きるのを貴族としての道を踏み外すというならば、間違いじゃないかも知れない。
魔性の美少年(仮)、といったところでしょうか?
ちらりと見て見ると、どの公子も見とれている御様子、気分は分かる。
「魔道士殿、同じ貴族出身の学園生の一人として、御身の心を乱したことを謝罪しよう」
「あなたの為したことではないのでお気になさらずに。それに、僕が平民出身なのは間違いないのですから、それを指摘すること自体は彼らの罪というわけでもない」
流れはどうであれ、有耶無耶にする機会が向こうから来たのですから、僕はこの大波に全力で乗っかります。いや、ここでうかうかしていると魔道院からの宣戦布告を僕が宣言しなくてはならなくなるので、それは流石に望みません、本当に。
「成程、私がしたことでは無く、彼らが遣ったことと云う事だね」
おおっと、とんでもないキラーパスを放ってくれたぞ、この若様。
ここでそうですと答えたら、戦争確定だし、違いますと言っても魔道院が芋を引くことになって、僕の立場がなくなります。いやはや、助け船出してくれたんじゃないのか、この方は?




