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ガバチャー奮闘記  作者: 高橋太郎
姉弟子
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12

「カチュアはカチュアだから、君には色眼鏡をかけずに一人の女の子として相対(あいたい)して貰いたいね」

「いやあ、覚えのない状況での敵視はキツイっす」

 素直な感想を少年は口にした。

「まあ、ボクを取られると思っているんだろうね。これまで誰も弟子に取っていないからさ」

「だとしても、最初から強い敵愾(てきがい)(しん)を持たれていますと取っかかりがないので何ともできないんですが?」

 背格好や記憶している設定から推定される年頃を考えればもう少し大人びた反応での嫌がらせをしてもいいものと思うのだが、それこそ分かりやすい幼女のイタズラような反応だったことも何か気になるところではあった。

「同じ屋根の下に住むのだからどうにかしないとねえ。根は優しい良い子だから、気長に付き合って上げて欲しい」

「その前にこっちの心が折れる可能性は?」

「根が優しいからね。意地悪しようとしても、端から見ていたら頬笑ましいものにしかならないよ」

 前世の記憶から根が優しいという人物紹介のある主人公の大半が駄目主人公であったというどうでも良い情報が頭をよぎる。少年は気を取り直し、

「いや、それって、対象になっているとそうでもないですよね? 一応、僕の方が年下ですし?」

 と、問題点を追及(ついきゅう)した。

「まあまあ。そこは人生経験で何とかクリアしてくれたまえ」

「都合の良いときだけ年寄り(あつか)いしていません?」

 半眼(はんがん)で少年はクリスを見る。

「いやあ、だって、流石のボクでも心を半分以上閉ざしている女の子の扱いは得意ではないのでね」

 頭を()きながら、クリスは何とも言えない表情で苦笑した。

「半分以上?」

「云ってしまえば、彼女の両親は毒親でね。彼女をあるときから、聖女にするための素体としか見なくなっていた。そして、それが正しい在り方だと信じ切っていたのだよ。神の教えから()(はな)れているのに、聖職者でありながらね。全くもって、理解不能だよ」

 クリスは首を左右に振りながら大きな溜息(ためいき)を付いてみせる。

「神が実在する世界なのに、何でそうなるんですか?」

 クリスの困惑(こんわく)の理由に心の中で深い同意をしながら、少年は首を捻った。

「さてな。勇者を導くことこそが神の御心に沿()うことだと狂信的に活動する者など理解できないし、理解できるということは同類に違いあるまいさ」

「ああ、理解してはいけないというヤツですね、分かります」

 前世の記憶、深淵(しんえん)(のぞ)くとき深淵もまたこちらを覗いているのだという言葉を思い出し、狂信者の思考をトレースすることをあっさりと諦めた。

「本人は本当に良い娘なのに、なんで血が(つな)がっているんだろうねえ。人体の神秘ってやつだなあ」

 大きな溜息を付き、クリスは静かに首を横に振って見せた。

「クリスさんの云いたい事は分かりました。カチュアさんの態度次第ですけど、なるべく仲良くなれるように振る舞いますよ」

「よろしく頼むよ」

 膝の上でくーくー寝ているカチュアの頭を()でながら、クリスは頬笑(ほほえ)んで見せた。



 その後はこの世界に関する雑談を宿に辿(たど)り着くまで続け、本日分の旅程を終えた。

 馬車を降りて元気にはしゃぐカチュアから邪険に扱われながら、少年は夕食後自分に割り当てられた部屋に入った。

 激動の数日であったなと少年は放心気味に椅子に座る。

 自分の想像していた人生設計とは全く異なる方向に舵を切らざるを得なくなったが、今のところそこまで悪い結果ではない。

 むしろ、同郷の先達がいることは心強いことだと気を取り直していた。

「これからどうなるのかな……」

 ふと思わぬ言葉が少年の口から()れた。

 口に出して少年自身が驚きを覚えたぐらいだ。

 想像も付かぬ未来への不安、初めて迎えた生まれ育った場所以外での生活、基幹(きかん)となっている少年の精神ではそれらのことに重く打ちのめされていたのだ。

 前世の記憶を主体とした自意識はある意味精神の奥深いところで冷静に見る目であり、表層はこの世に生まれて十才になるかどうかの少年に過ぎない。慣れない環境へと急に変化してはこのように落ち着いた瞬間、それまで主導権を握っていた前世の思考から今生(こんじょう)の精神へと切り替わってしまっても仕方のないことだった。

 冷静な精神が何とか落ち着かせようと(あわ)てるも、(さび)しさから流れる涙は止まらない。

 どうしたものかと慌てていたら、

「新入りに(きび)しい(おきて)を教えにやって来てやったのだわ! って、え? え? どうしたの、どこか痛いの?」

 と、カチュアがノックもせずに部屋に入ってきた。

 少年はそうではないとばかりに首を横に振った。

 声も出さずに涙を流し続ける少年に対し、カチュアは直ぐさま顔を胸元で()(いだ)いた。

「大丈夫だよー、何も怖いことなんてないからねー」

 それまでとは打って変わった優しい声音でカチュアは少年の髪を撫でながら囁いた。

 それでも滂沱(ぼうだ)の涙が止まらぬ少年を優しく掻き抱いたまま、カチュアは優しげな声で(なぐさ)め続ける。

 本能の制御を諦めた冷静な精神は、カチュアの有り様が聖女そのものだと気が付く。

 この有り様が作られた物かどうかまでは分からないが、表立ってそのような態度であれば、魔王が恐れを抱いて暗殺に動くのも納得であった。

 そして、この心優しき存在を守りたいなと動くクリスに初めて同意できた。

(ただ……チョロ過ぎん、この女性? (まも)らねば、僕が……!!)

 少年は、強くそう決意した。



 後に少年はこの決断を後悔した。

 確かに、このチョロい姉弟子を護ること自体は後悔など(ひと)欠片(かけら)もない。

 ただ、護ろうとして姉のように(した)った結果、とんでもないモンスターが爆誕してしまい、彼の人生設計が常にガバガバなものとなる一因となったのである。

次章、幼馴染みを予定しております。

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