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「今日はここかな」

 まだあどけなさが似合う年頃の少年が何かを探るような表情を浮かべてから、大樹の根元に座り込む。

 両手を大地に(かざ)して、

「うんうん。多分、良い感じに流れている。この上にいれば、良い感じに溜まる(はず)

 と、満足げに頷きながら、何かを探り当てた様子であった。

 そのまま、目を閉じ瞑想を始める。

(世界を循環する魔力の塊であるいわゆる龍脈から吹きこぼれた魔力溜まりを見つけて体内に練り込む。少しずつでも体内保有魔力量を増やさないと魔力の発源など夢の又夢だからなあ)

 幼い少年とは思えない理路整然とした思考を巡らし、一部知識層ですら知り得ぬ世界の法則をさも当たり前の様に執り行う。分かる者が見れば、明らかに異常な状況である。

 人の内心を知る方法がない限り少年の思考は外からは見えないが、魔力溜まりを探し出して、体内含有魔力量を増やすということを理論的に実践している姿はそのような行動を知らない家柄に生まれた者がやれるはずがないし、思い付きようがない。

 むしろ、魔力溜まりから体内に魔力を取り込む術を体系的に理論だって確立させている時点でおかしいのだ。

 現在この世の中で行われている経験則がある。大きな魔力溜まりの上に城を築き上げ、魔力を吸い上げる機構を組み込み、礼拝堂に強く集まるように(しつら)える。その礼拝堂に週に一度集まり、神々に感謝を捧げることで体内魔力が幼少期より練り上げられていくという一つの仕組み(システム)である。このうち、魔力を吸い上げる機構は昔からそのように造られていたという長年の慣習で伝えられてきているものであり、理屈を理解しているものはまずいない。

 従って、現在の貴族達は古の賢者が編み出した秘奥を今に伝えているだけに過ぎない。

 この少年はその秘奥を独力で(よみがえ)らせたことになる。そのような知識の伝承が一切無い田舎の農村で、だ。

 額面通り受け取れば、天才としか言い様がない所業なのだが、世界の常識から鑑みれば、異質極まりない。異端として排除されても仕方のない存在だ。

 当人もそれを理解した上で、己に(まつ)わる秘密を隠し通し、平穏無事に生きようと人生設計を組み上げていた。

 今日、この時までは。

「ふーん、成る程ねえ。野生の天才とはいるものだなあ。ボクほどじゃあないけどね!」

 高笑いとともに、いつの間にか少年の(かたわ)らにこの世にこれほどの超絶美形が存在しうるのかと目を疑いたくなる偉丈夫が見る者を思わず引き込んでしまう姿勢で立ち尽くしていた。

「?!」

 突然のことに少年は素早く男から距離を取る。

 少年に気配察知の心得がないと言っても、流石に指呼の間とも言える距離まで近寄られて気が付かないという事態はあり得なかった。

「そこまで警戒しなくとも問題ないとも。ボクが本気なら、君の命は()うにないのだからね。要するに、危害を加える気は一切ないってことさ」

 芝居がかった仕草と声色で女ならばそれだけでころりといきそうな立ち居振る舞いを男は見せた。

「……ヅカキャラ?」

 少年は思わず脳内に蘇った言葉を呟いてしまう。

「ハハハハハ、君、分かる方だねえ。僕以外にも転生者がいたとは驚きだよ!」

 男はさも楽しそうに歩みながら、少年の前に滑らかに移動した。

「何の事やら……」

 完全な失言だったと少年が気が付き、誤魔化しに入るが既に遅い。男は流し目で、

「ああ、今日は何と良い日だろう! 若者たちの魔力の有無を調べる不毛な作業の日にこれほどまでの逸材を見つけ出すなんて! ああ、ボクの天に愛されし運気が恐ろしい!」

 と、唄うが如く男は両手を広げ高らかに宣言する。

 少年はある意味で圧倒されながらも、洒落にならないヤバい奴に捕まったと途方に暮れた。

 何せ、一片たりとも隙が無い。先程から逃げようと試みているのだが、常に動きが読まれているが如く、少年の機先を制する位置に男は立ちはだかっていた。

 彼らを客観的に見ると、男が浮かれて回っているようにしか見えない。その実、間違いなく少年の行き先を理解した上での立ち回りなのだ。無駄に洗練された無駄のない無駄な動きとは正にこの立ち回りだろう。

「この世に存在する万物には魔力が宿る。ここまでは良いかな?」

 男は少年に向けて(にこ)やかに言った。

「まあ、なんとなく?」

 前世の記憶から、この世界が何となく知っているゲームの世界に似ていると少年は察していた。魔力を使いこなさなければ何の価値もないと考えられている世界に似ていると直感したのだ。

 だからこそ、魔力を少しでも増やそうと設定資料集に載っていた遣り方を試していたのである。

「魔力量の有無を量るというのはね、要は魔術を発動できるだけの力があるかどうかを見極めることに過ぎず、別段本当の意味での無魔力症状の存在を見つけ出すための行為ではないのさ。誰しもが魔力を持っているのだからね」

 先程までとは打って変わり、真面目な顔付きで男は少年に教示する。「要するに、だ。察してはいるだろうが、魔道士(ウィザード)ならば体内の魔力容量を見る術を持つ。別段、これは人相手だけという意味ではないよ? 如何なる生物であろうと見極められる。だからこそ、魔道士が国内中の住民の魔力量を調べて回るのさ。ま、若手魔道士の義務なワケだ、辺境ドサ回りは」

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