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「さて、とりあえず本題に移ろうか」
クリスの声色と台詞から少年はようやくお互いの身の上を確認するのだと察し、居住まいを正す。
「ボクが知りたいことはただ一つ。君が持っている情報はどれほどのものかということだ」
「平たく云えば、設定資料集に載っている情報ならば大体分かります」
「え、本当に? 凄くない?」
「と云っても、本当にこの世界と我々の知るゲームの知識に等号が成り立つのか、検討しないととてもじゃありませんが、安心して使えたものではありませんがね」
年不相応な冷静かつ慎重な言葉とともに少年は首を横に振る。
「んー、少年。一つ良いかな?」
「なんでしょうか?」
「前世の享年いくつぐらいだい?」
クリスは不思議そうに首を傾げる。「ボクよりも年上なのは想像が付くのだが、どうにもしっくりこないんだ
「1970年代生まれの40代ですよ。昭和って感じですね」
顔に見合わない老成さを感じる笑顔で少年は答えた。
「ボクの前世は元号一つで終わった感じかな。やはり前世の分を足すとボクより上か。場合によっては、君の前世の寿命だけでボクの合計を上回りそうだ」
「そうは云いましてもね、前世は前世でしかなく、僕達は今生を生きる者ですよ。拘りすぎるのもどうかと思いますがねえ」
少年は苦笑しながらクリスに答える。
今生の経験上、前世に重きを置きすぎると今生の生活レベルとの差で精神的に参りそうになる。故に、少年は前世の記憶は重んじても感覚はなるべく利用しないようにしていた。
要は、あまり前世に引っ張られないように立ち回る事を習い性としていたのだ。
「ボクの場合はそうも云っていられない事情があってね。自分から脇道に話を振っておいて何なのだが、訊きたい事は一つなのだよ。課金アイテム以外の性転換の方法について、詳しく覚えているのかい?」
「課金アイテムが一番楽なのは確かですよ?」
少年は大真面目な顔付きのクリスに対して困った表情を浮かべた。
彼らが原作と呼んでいる前世で知ったゲームは元々は男性向け18禁ゲームであった。
それ故に、主人公は本来下級貴族階級出身の男性であった。
ところが、マニアックな人気でプレー動画が乱造された御陰か、一般向けコンシューマーゲームとして移植されることとなった。この際に、男主人公だけではなく、女主人公も選べるようになったのだ。
ただ問題は、男性向けゲームであった頃からクリア後の主人公の強さをそのままニューゲームで引き継ぐというある種の周回前提と言っても良いシステムを採用していた。このままでは、男主人公で始めたゲームで女主人公でしか起きないイベントを見ることができないし、逆も又然りである。
そこで、いつでも自在に主人公の性別を変更できるアイテムをDLCとして販売することになった。いわゆる課金アイテムである。
「当然探したとも。金に飽かせて競り落とす覚悟も持っていたとも。だがね、見つからないのだよ」
この世の終わりとばかりにクリスは顔を顰めた。
「存在しないのでは?」
ゲームであった原作と違って、この世界はこの世界の森羅万象により運営されている。そうである以上、均衡を崩すとも言える魔法の品は存在しないのではないか、少年は前々からそんな風に考えていた。
「いや、調べたところ、課金アイテムで売り出されていた物と同じ様な効能のある存在は間違いなく存在している。この世界では課金すれば無限に存在するゲームとは違い、あのレベルの伝説の品となると余程の豪運でもない限り見掛けることも稀という話だよ」




