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「君の村は古い村だからね。ある意味で長閑だよ」
「それもあって安定しすぎていて、農家の次男坊以下が成人後も暮らして行くにはどうやってかして開拓村に入り込むしかなくなるんですよねえ。僕の下の兄が徴兵でも下働きでも良いから軍に入ろうとしていましたもの」
「君のお兄さんは実に現実を見ているのだね。その日暮らしが多い青少年がそこまで先を見やるとは中々見所がある」
クリスは感心したかのように首を縦に振る。
「前世よりも生きていくことに関しては貪欲でも、将来のことを深く考えて生きようとする人は少ないですからね」
少年も今まで見てきた村の知り合い達を思い浮かべながら同意する。
義務教育もなく、純粋に労働力として期待されているのがこの世界の子供達なのだから、刹那的に生きる者が多くなるのは致し方ない。
そのような中、前世知識などないのにも関わらず、将来餓えずにどうやって生きていくかを考えて、その準備をするまでとなると地頭の良さが生まれに対して破格であると断言できた。
「何かそう考える切っ掛けがあったのかい?」
「うちの叔父さんがどうも徴兵された後、何かあって魔力の発現から最低限の魔導器を使えるようになったらしくて。そのまま無事に徴兵期間を終え、功績から開拓が完了していた村に土地を貰い、世話人になっているみたいでして。その話を聞いていたから本気で軍に雇われようと考え始めたみたいですね」
「おや、それは運が良い御仁だ。君とは違って、戦場で魔力を使えるようになった口だろう? 体に溜まった魔力を垂れ流しにし続けるだけの調整が利かない魔術師擬きだろうに、よくもまあ、生き残ったものだね」
感心したかのようにクリスはうんうんと頷きながら笑った。
体内にある魔力溜まりとは物理的に存在する器官ではない。魔力が集まるあたりをそのような機能がある部位と見立てて称しているものである。そうは言っても、同じ種族ならば大体似通った場所に集まる傾向があることから、そこにあるものとして扱われる。
この魔力溜まりに溜まっている魔力を自在に使いこなせる者が魔道士であり、限定的に使う者が魔術師である。どちらも魔力溜まりから魔力をとりだし、必要な分だけ使うための回路と魔力溜まりからその回路にだだ漏れし続けないための蓋とか栓みたいな機能を編み出すことに成功しているから、魔力を使いこなせるのだ。
一方で、魔力を使いこなせていないのに魔力を使う者もいる。
使いこなすことが魔力溜まりに穴を開け、それを使わないときは塞げることを言うならば、魔力溜まりに穴が空いてそのまま垂れ流しの状態であるが故に魔力を使える状態にある者のことを魔術師擬きと呼んでいる。
魔力は生命力とも密接に関係があると言われており、事実、魔力溜まりから魔力が失われると命を落とす者も少なくない。
命の危機が訪れた際に、何らかの理由で魔力溜まりから魔力を放出し、信じられないような力を発揮した後に魔力が尽きて命を落とす者も戦場ではそこそこいるのだ。
そこで生き延びたとしても、魔力溜まりに魔力が流れ込んでくる端からできてしまった穴を通って魔力が即座に抜け落ちていく危険な状態となる。
この状態から何らかの理由で生き延びた者は、自分の意思で自由に魔力を使いこなせなくとも、魔導器に魔力を流し込めるようになる。魔導器が発動するのに十分な魔力を流し込めれば魔術師、発動できなければ魔術師擬き、王国での扱いとしてはそうなるのだ。
そして、発動できるぐらい魔力を垂れ流している者の寿命はたいてい短い。
逆を言えば、その状況下でそれなりに寿命を保っているのならば、魔力溜まりから抜け出る魔力より溜まる魔力の方が上回っているのである。
外から魔力を得やすい土地柄か、それとも自然と魔力溜まりから流出する魔力量を絞る能力を身に付けたのか、はたまた他の要因か。いずれにしろ、運が良いとしか言い様がないのは確かなのであった。




