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「雰囲気はそんなに大事かなあ」
「大事ですよ。ただでさえ、師匠と老師の遣りたい放題でしわ寄せが他の魔導師に及んでいるんですから。ここで老師が更に周りの士気が下がるような行動を取ったら、作業効率が落ちて、ベルナルド師の負担がまた増えますからね。そうなったら、何やかんやで僕達が手伝うことになって、面倒な事になるだけですよ。断ったら断ったで、師匠と老師を止めなかった僕らへの風当たりが無駄に強くなるだけですからねえ。だったら、最初からそうならないように動く方が余程良いですし、その上、雰囲気が良い中で仕事できるのですから良い事尽くめじゃないですか」
姉弟子上は基本的に身内以外どうでも良いという考えの方ですから、自分本位の話をした方が話に乗っかってくれます。
問題は、身内の困ることならともかく、自分の負担だったり、完全な赤の他人が苦労する話はどうでも良いと考えることです。
そうは言っても、姉弟子上は本質的に善性の生き物ですから、破滅するとか然う言うことなら完全な赤の他人でもお節介を焼きます。生き死にに関わらないことはドライになれとの師匠の教えを完全にこなしているからこその対応なので、それがなかったらどうなっていたんですかね。
どちらにしろ、今回の問題は身内である“魔道院”の問題なので、ここまで言えば大体想定通りに動いてくれます。姉弟子にとっても、“魔道院”は身内扱いのホームなので。
姉弟子上にとって更なる優先度が高い存在するなら別なんですけど、幸いな事に師匠にしろ僕にしろ老師にしろ、この問題においてぶつかり合う理由はありません。
「んー、然う云うことならお姉ちゃんが一肌脱ぎますか」
よし、乗っかったぞ。
僕は思わず心の中でガッツポーズを決めます。
「ええ。みんな喜びますよ」
そう、誰一人として不幸にならない、最高の選択というやつです。
姉弟子上だけがやりたいことをやれないかも知れませんが、この人は身内の幸福こそが第一ですからね。結局それはそれで幸せなのです。
理論武装完了、後は押し切るのみ。
「そっかあ。それなら、おじいちゃんのところに行くかなあ」
「ええ、ええ。それが宜しいかと。朝から動けば、残業が生じる可能性が減り、それだけでも感謝されるかと。老師が動き始める前に、機先を制しましょう、姉弟子上」
「分かったよー。弟君も学園に気を付けて行くんだよ。何かあったらお姉ちゃんにちゃんと云ってね。その時はお姉ちゃんが頑張るからね!」
「はい、その時はちゃんと云いますから。まあ、魔道院の見習い魔道士に莫迦な真似をする生徒がいるとは思えないですけどね」
余程の田舎貴族でもない限り、魔道院所属の魔道士に敵対する不利益を分からない間抜けがいるとも思えません。何せ、国内でも最優の人材を集めた知識の殿堂なのですから、そのような非常識な方がいるワケ無いでしょう。
まあ、世の中、ごく少数の例外もいないことはありませんが、流石にねえ。
立ち去る姉弟子に手を振りながら、僕は放課後、魔道院に出向いて結界についての確認をせねばと、決意を固めていました。
一応ね、師匠が外回り中に預かっている魔道器やら神器やら呪物といったモノの中には、姉弟子にとって悪い影響をもたらすものもあるので、あえて僕の部屋の方に置いてあるモノもあるのです。
そのような状況で、姉弟子が好き勝手に出入りできるという状況はあまりよろしくありません。この部屋の結界の仕様を確認しておかねばなりません。
ただ、まあ、何と言いますか……姉弟子に甘い老師が意図的に作った抜け穴の可能性も否めないんですが、姉弟子自身の能力に起因する可能性も否めないところがありまして……。
何なんだろうなあ、あの人……。




