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「お姉ちゃんだからだよ!」
「左様でございますか」
がっぷり四つで組んだら根負けすると知っていますので、ここは流します。
「それで弟君。寂しくなかった? お姉ちゃんはそれが心配で心配で夜も眠れなかったよ?」
「久々に安眠できました」
掛け値なしの本当の話を即答する。
実際、師匠が何かやらかして夜中呼び出されるとか、何か碌でもないことが起きて叩き起こされるとか、それを警戒して眠りが浅くなるとかいったね、師匠の元にいた頃は心から休める日々がなかったもので、安眠できていなかったんですよね。
「またまた~」
まあ、目の前の人がそれを信じてくれるとは思っていないので、どうでも良いことなんですけど。
「それで、どうやってここに来たんです?」
質問の仕方を間違えると明らかに違う答えが返ってくると嫌と言う程身に染みているので、僕は正直に疑問点を口にしました。
いや、この質問でも求める答えが返ってくるかは半々……違うな。四分六分ぐらいか?
自称姉は暫く首を傾げてから、
「歩いて?」
と、予測通りの答えを返してきました。
「まあ、そうでしょうね。扉から入ってきましたし」
僕は窓を見てから溜息を付きました。
一応、この人も廊下に罠がたんまりあるのは知っている筈です。
そして、窓から侵入を試みようとしても、特殊な結界による位相の違いで入り込めないようになっています。
ただし、優秀な術者ならば、位相の違いを正しながら侵入できる可能性があるので、何とも言えませんが。
そういう意味では、窓から入ろうとせずに物理的には繋がっている廊下側から正面突破してきたことはある意味で理に適っているのです。
まあ、実際にできるできないは別として、ですがねえ。
「そんな、おじいちゃんじゃあるまいし、窓から入ったりはしないわよ」
「まあ、爺様は人類の極北にいる方ですからね」
楽しそうに言い放つ姉弟子に、僕は何とも言えない表情を浮かべた。
姉弟子にしろ、僕にしろ、師匠の弟子であるため、そのまた師匠であるアルバート老師からすると孫弟子に当たるわけで。特に、姉弟子は娘も女の子の孫もいないアルバート老師に猫かわいがりされています。実の孫より可愛がっているのだから、どんだけ娘が欲しかったんだよと突っ込みたくもなる。なるが、命が惜しいからそんなことは口にしません。
そんなアルバート老師だが、“王国最強”の二つ名に偽りはなく、一般人から見たら想定外の行動を難なくこなせる。それこそ、3階以上の窓から忍び込むなど朝飯前だろう。
姉弟子可愛さに、見守ろうと一応窓に張り付いていないか確認を取ったが、少なくとも見えるところにはいないようなので一先ずは良しとする。
「そんなことより弟くんだよ。本当に大丈夫、淋しくなかった?」
国一番の重要人物をどうでも良い扱いにして、姉弟子は再度確認してきます。
「姉弟子上、流石の僕も今年で学園に入学する年齢ですよ? 流石に成長はしてますとも」
悪意でなく、善意からの言葉ですから、僕もつっけんどんに返すわけにはいきません。いや、まあ、身内に対して悪意を決して投げかけないのが姉弟子の美点だと掛け値無しに思っております。
「本当に?」
「本当ですって。それに、週末は師匠の役宅泊まりですし、なんならどうせ、老師に呼び出されたり、ベルナルド師に呼び出されて魔道院に出突っ張りになる気がしますからね。姉弟子上とは毎日会えるから問題有りませんよ」
自分で言っていてイヤになってきましたが、なんで就労前の学生が学徒動員張りに仕事させられるんですかね?
まあ、師匠の置き土産絡みは姉弟子に任せられないのは確かなんですが。
何せ、前世知識案件ですし。




