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「何はともあれ、よろしくお願い致します。あー、えーっと……」

 少年はその時初めて自分たちが自己紹介していないことに気が付いた。

 今生で初めて出会った同郷の人物と話が盛り上がりすぎたため、何年来もの友人のような親しみすら覚えていた。今日、初めて会ったとは思えないぐらいに。

「ハハハハハ、ボクとしたことが名乗り忘れているとはね! 初めまして、幼き魔導師の卵よ。我が名はクリス・キルヒャー。独立貴族系の魔導師の家系に生まれた天才魔導師さ」

「御丁寧にどうも。僕は──」

 少年が自己紹介しようとした瞬間、

「あああああっ、ここにいた!?」

 と、けたたましい甲高い声の主が乱入してきた。

 少年がそちらを見てみると一人の少女が凄い勢いで突っ込んできていた。

「ハハハハハ、カチュア。淑女らしくないね」

 クリスは朗らかに笑いながら、飛び込んできた少女を受け止める。

「だって先生がいつまで経っても帰って来ないんだもん」

 どことなく拗ねた声色でカチュアと呼ばれた少女はクリスに甘える。

 そして、クリスから見えないように少年に向けてあっかんべーと非友好的な態度を見せた。

 状況が分からないため少年はそれをどうでも良いとばかりに黙殺し、当然の様に気が付いているクリスは少年に分かるよう少しばかり肩を竦めて見せた。

「何はともあれ、ここでの仕事を終わらせて王都に帰るとしよう。新しい弟子も増えたことだからね」

「新しい弟子?」

「そうだよ。カチュアも姉弟子になるのだから、ちゃんと年下の弟弟子を助けて上げるのだよ」

 クリスに言われ、カチュアはようやく弟弟子となる予定の少年を真正面から見据える。

 逆を言えば少年も初めてカチュアを真正面から見ることとなり、その整った顔付きに内心驚きを覚えた。

「ふーん。お師匠様が云うのだから、よろしくしてあげるわ。ありがたく思いなさい」

「はい、ありがとうございます」

 他になんと言えば良いのか思い付かなかった少年は素直に答える。

 満足そうな表情を浮かべているカチュアに、

「それでは、先に行って準備をしておいてくれたまえ。ボクの助手を買って出たのだから、それぐらいは楽勝だろう?」

「はい、お師匠様!」

 御機嫌とばかりな足取りで、カチュアは元来た方へと戻っていった。

「さて、それでは、ボクらも行くとしようか。……ああ、そうだそうだ、気になっていたことがあるんだけどね?」

「えっと、僕の名前ですか?」

「あ、それも気になるが、長い付き合いになるんだ。戻りながら聞くさ。今聞きたいのは、君、ボクのことを女性扱いしていなかったかい?」

「そうですけど、何か?」

「一応、男なんだけどねえ?」

「でも、転生前は女性で、今もそちらに引っ張られているんですよね?」

「……どうしてそう思ったか、聞いても?」

「えっと、男ならわざわざヅカキャラを演じませんし、それを考えつきもしません。女性から見た理想の男性像を宝塚鑑賞で学ぶ人も少ないでしょうし。それに、原作通りなら、条件さえ満たせば衆道も堂々と認められる世界ですから、そっちの趣味あるなら別段好き勝手に生きられないわけでもありませんからねえ。そう考えると、前世女性が無理矢理自分の知り得る限りの格好いい男性を演じているのではないかなあ、と思ったまでです」

「そうか、そうか。……後で相談したいことがあるのだが、良いかね?」

「僕で何とかなることならば」

 深刻そうな表情で頼み込んできた物の先達に対し、少年は二つ返事で答えた。

 周りに相談できる相手も居なかった時間が自分よりも長かったのである。同郷人として助けてもらえるのだから、そのお返しに相談ぐらいのるかな、という軽い気持ちであった。

 なお、後々、もう少し考えて答えるべきだったと少年が深く後悔したのは言うまでもないことである。



 かくして、同郷人からの無茶振りのせいで自分の計画が全てガバチャートに強制変更させられ、アドリブでその場その場を凌ぎ、予定通りの理想ルートに戻そうと奮闘する少年の日々が幕を開けたのである。

次章、姉弟子は今少し時間を戴きたく思います。

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