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「どちらにしろ、そこまで視えているなら、並の術者では教導できないからねえ。ボクかアル爺さん、もしくはバーニーぐらいじゃないと変な癖が付いて才能の無駄遣いとなる。それは流石のボクでも看過できないからね」

「……やはり、魔導師の数は少ないのですか?」

「まあ、原作を知っているなら云うまでもないけど、この世界で魔道具の力を借りずに自力で術式を発動できるものは少ない。魔力の流れを視て、自在に操り、術式を回す者ともなると驚くほど少ない。このうちの一つや二つをどうにかできたとしても、全てを兼ね備えていないと術式は発動しないからね。補助具である魔導器を用いれば術を使い熟せる魔術師(メイジ)はいくらでもいるんだけど、こればかりはねえ」

 男は静かに首を左右に振りながら苦笑してみせる。

 少年も真面目な顔付きでそれを見る。

 設定資料集を読み込み、数多の攻略動画を見てきたからこそ分かることもある。

 この世界において、術の威力は絶対的なものがある。

 原作での設定では、魔導器を使い熟せる魔術師ならば雑兵百人分の戦力に相当するとされていた。残念ながら、少年の周りには魔導器なんて言うものはなかったため、それが大袈裟なのか本当なのかは分からないが、雑兵として徴兵経験のある村の大人の話を信じるならば、そこまで間違いの無い事実だと思われた。

 人同士の争いならば、術を使える使えないなど問題ない。ただ鉄と血の量が勝敗を決する。

 しかしながら、魔族は違う。肉体強度が違う、魔力の順応が違う、環境への適応が違う。生物としての在り方があまりにも違いすぎた。

 従って、個と個の争いで考えた場合、人が魔族に勝てるとしたら、人より弱い種族を相手にしたときであり、そのような種族はたいてい数で圧してくるためにやはり人の不利は否めなかった。

 その差を少しでも埋めるために編み出したのが魔道であり、術式である。

 ただ、それを十全に扱える魔導師の数がどうしても足りなかった。

 そこで考え出されたのが魔導器である。

 術式の制御をしながら魔力を回すことができないのならば、最初から術式の制御を他のモノに補助させれば良い。最初から作られている術式に魔力を回すだけならば必要な工程は1つであり、2つの工程を同時に行う必要がなくなる。幸い、術式というものは不変であり、毎回違った形を見せるわけではないのだから、最初から術式が存在していれば魔力を回すだけで術が発動するという寸法である。

 これを形にしたのが魔導器であり、魔導器を用いて術を使う者を魔術師と呼んだ。

 魔導師がありとあらゆる自分が知り得る限りの術式を使いこなすならば、魔術師は魔導器に刻まれた術式だけを使いこなす。

 例えそれだけであろうとも、並の魔族相手ならば立ち向かえるようになった。

 強力な魔族には更なる工夫が必要であったが、人が魔族に対してやり合えるようになった偉大なる一歩だったのである。

 そして、魔族と互角ということは、魔術師と雑兵の戦力差も大きなものであり、人同士の戦争からも雑兵を使うという方策が消えた。戦慣れした魔術師が百人もいれば一万の軍勢など赤子の手を捻るが如し、である。

 魔導師はその活躍が期待される魔術師の更に上を行く。

 一人前の魔導師ならば、魔術師百人分の価値はある。

 当然、戦場で魔術師百人相手に魔導師が一人でどうにかできるわけはない。数は力であるし、決まり切った術式しか使えない魔術師と言えど、魔導師と同じく術使いではあるのだ。同じ威力の術を互いに使い会えば、数が多い方が優勢となるのは世の中の摂理である。

 では、何が百人分なのか。

 膨大な知識と応用力こそが魔導師の胆である。

 同じことの繰り返ししかできない魔術師に対し、魔導師は術式を自前で用意し、相手の弱点を的確に突く手札の多さを武器に場面に応じての行動ができ、それを活かすための知識こそが最大の得物であると理解している。

 これこそが魔導師の強みである。

 そして、それは魔族相手の戦いでも活きてくる。

 魔導師の数を用意できないために代用品である魔術師の数を揃えた。それでも尚、他国に、魔族に対抗するため、人類側諸国は魔導師を求めるのである。

「ただまあ……」

 男は意味深に少年を上から下まで眺め、「魔力量の問題で魔導師になれない人材も割といるわけだ。今までは、ね」と、にやりと笑った。

「何か?」

「君の在り方が世の中を変えると思ってね」

「……はぁ?」

「ま、世界を革新する力(ブレイクスルー)をもたらした者ほどそれに気が付かないものだからね」

 男は怪訝そうな顔付きで自分を視る少年に対し、高らかに笑いながらそう宣言した。

「……良く分かりませんが、どちらにしろ魔導師になるしかないみたいですからね。お世話になります」

 男が何を考えているのかは理解できなかったが、少年は致し方なく結論を出した。

「何、悪いようにはしないよ。初めての同胞だからね」

「それを云われるとこっちとしても何も云えませんよねえ」

 少年は観念したかのように溜息を付いた。

 男が言う通り、少年からしてみても初めて出会った同郷の相手との縁を絶つ意味が無かったからだ。

 それに、一抹の不安はあれど、いかなる方向に世界が向かっているのかを直接知ることができる立場に近いのは悪いことではない。自分が望む生活のためにも、原作知識を生かしやすい方向に誘導できるかも知れない。そうするためにも、一人よりは二人の方が良い知恵も出ようと言うものだ。

 ただ、今までの会話から、原作知識は原作未プレーでプレー動画を見ていた自分の方が詳しそうなのが本当に少年からしたら不安でならなかったのだが。

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