先代巫覡の家族を、紹介してもらった
念じた直後に、黒い霧状のものが現れた。外から入る時は白霧だけど、おそらくそれと区別するため、もしくはこの空間はデフォルトで白いので白いままでは識別ができないためか、神はあえて黒いものにしたかも。
ともあれ、黒い霧状のものに手を触れると、一瞬で景色が変わり、目の前に大長老と護衛の戦士たちがいた。
『アクワヌさん、ただいま』
ー『えっ、ナオ様、おかえり、一瞬でしたね。』
『ええ、知ってるかもしれないが、中ではだいぶ長く滞在しましたけどね』
ー『そうでしたか、そういえば確かに先代の巫覡からは、軽く時間の流れが異なるようなことを聞きました。』
『その通りです、では早速集落に戻りましょう。そして、アクワヌさんから色々集落のことを聞きたいです』
ー『はい、ではまたご案内しますね。ナオ様。』
『あっ、そうだ、集落に戻ったら、まずアビンさんのお家に案内してもらえませんか?アビンさんに頼まれて、彼女の子孫に会うためです。』
ー『先代巫覡のアビン・シナワナン様のお家ですね、承知しました。確かに今は長女一家が住んでいるはずです。では集落に戻りましたら先にご案内しましょう。』
よかった、アビンさんの子孫はまだそこに住んでいる。とりあえずアビんさんに頼まれたことを先に済ませよう。そういえば長女一家のみんなは今何をしているのか。
『ちなみに今アビンさんの長女一家は皆何をしていますか?』
ー『アビンさんの長女の旦那は、今はこの部族の戦士団長として活躍しています。』
おっ、これはいい接点だ、これから部族の武力を上げるためには、戦士団長と早い段階で会いたい。そもそも私から出す指示なら拒否することはないが、やはり個人としての付き合いもあったほうが色々やりやすい。
ー『そしてお子さんは確かに娘が2人と息子1人いて、長女と長男は成年して、次女はまだ成年していません。長女が一番年上で、確かに何人かの旦那さんがいます。そして長男はまだ結婚していなく、今は戦士団にいて、戦士団長見習いをしています。』
母系社会のバブサ族では、一人の女性に複数の男性が通い婚をしていることが多いことが研究でわかったので、どうやら支族であるボアスア族も同じようだ。私がいる時代のチョ族など一部の先住民族はすでに父系社会に変貌して久しいが、その先祖に当たるであろうボアスア族のいるこの時代では、先住民族は皆母系社会である。
そしてこのアビンさんの孫娘も、すでに何人かと結婚している。子供はいるのだろうか。まあ実際に会ってからわかると思う。
また、長男はまさかの戦士団長見習い、戦士団長は世襲ではないはずなので、相当武勇であるに違いない。これもまた今後のことを考える上で素晴らしい縁である。アビンさんありがとう。
『ちなみに、アビンさんの長女の旦那さんは一人ですか?』
ー『いいえ、元々は2人いましたが、一人は病死しましたので、今は一人です。』
『それは大変悲しいことですね…』
ー『はい、でもすでに亡くなってからしばらく経っているので、おそらく今はもう普段の生活に戻ったはずです。また、子供は生まれてから成年するまでは、病死するのが多くて、アビンさんの長女には元々5人も子供いましたが、そのうちの二人は生まれてから短い間に亡くなりました。』
『…』
確かに、子供の死亡率が高いのは、この時代ではどの民族でも割と普通に見られることだけど、どこか他人事のように思えた。とはいえ、百聞は一見に如かずというべきか、こうして実際に耳にすると、その痛ましさは全く違った。
『アクワヌさんはそれを「普通」と思うかもしれないが、私の時代ではすでに普通ではなくなりました。』
ー『そうですか、やはり未来というべきか、希望が持てますね。実は、私も何人かの子供を幼い時になくした胸が裂ける経験をしましたので、これからお母さんになる者には、できればそんな経験をさせたくないなと常に思っています。しかし、今の私には成すすべがございません。』
『私は、禁忌の地では、すでに色々考えています。子供の死亡率を避けることも、寿命を伸ばすことも、とにかくどうすればこの部族が繁栄するのか、そのための施策をいくつか考えました。これからはアクワヌさんに色々案内してもらい、見て回って、話しましょう。』
ー『はい、私も、もちろんこの部族の皆も、総力を挙げて動きますので、どうかお願いいたします。』
『一緒に頑張りましょう。アクワヌさん』
話をしながら移動すると、あっという間に集落に戻った。そして早速アビンさん長女一家のお家までアクワヌ大長老が案内してくれた。
大長老が先に入り軽く事情説明したあと、一度出てきて私を屋内に招いた。
ー『紹介する。こちらが我が神の代理人様だ。神の代理人様、こちらにいるのが先代巫覡アビン・シナワナンの長女、イスル・シナワナンで、左側にいるのがイスルの長女タタです。』
ーー『神の代理人様、お越しいただき大変恐縮です。イスル・エ・シナワナン・ネ・ナムゴと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』
ーー『神の代理人様、お目にかかれまして大変光栄でございます。タタです。どうぞよろしくお願いいたします。』
『イスル、タタ、よろしくね。アビンから頼まれてここに来た。元気で何よりだ。これも一つの縁だと思うので、私にできることがあれば遠慮なく言ってね。』
ーー『母の願い事を叶えていただき、大変ありがとうございます。』
ー『神の代理人様、イスルの次女は今隣の集落の親戚のお家にいるそうですので、申し訳ございませんが、この場でご紹介することができません。また、旦那と長男に関しては、戦士団の集会所にいるので、後ほどご案内します。』
『うん、わかった。』
そして私は少しイスルとタタと雑談をした。
アビンさんもイスルさんも、ボアスアではなくナムゴという南の集落の出身で、今でも親戚が向こうにたくさんいるので、よく交流しているとのこと。今回イスルさんの次女はまさにそのナムゴにいるとのこと。
また、アビンさんは次代の巫覡を神託によって指名されたため、若くして当時まだ子供のイスルさんたちを連れてボアスアに移り住み、巫覡としての仕事を始めた。
もう少し話を聞きたかったが、これからの予定が詰まっているので、一旦切り上げて、大長老の案内で戦士団の集会所に向かった。
集落の中にある私が呼ばれた神の祭壇のすぐ裏に、その建物があった。
この時代の先住民族では高床式住居が基本なのに対し、この集会所は普通の平地建築。確か、外敵が現れた際に素早く出動するためだそうだ。
大長老は先に入り、イスルの旦那と息子を呼び、外に連れてきてくれた。
ー『紹介する。こちらが我が神の代理人様だ。神の代理人様、こちらにいるのがイスルの旦那、戦士団長のダネブです。隣にいるのが、イスルの息子、戦士団長見習いのドバです。』
ーー『神の代理人様、お目にかかれまして光栄でございます。戦士団長を任せられたダネブです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。』
ーー『神の代理人様、お目にかかれまして光栄でございます。戦士団長見習いのドバと申します。まだまだ勉強の身ですが、これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。』
『ダネブ、ドバ、よろしくね。これからこの部族のことについて、色々と力を貸してもらうことがあるので、頼りにしているよ。』
ーー『神の代理人様のご指示とあらば、この身を持ってどんな任務であれ必ず完遂して見せます。』
ーー『ぼ、僕も、団長見習い以上の働きをして、必ずお応えします。』
親子はそこまで似ていないので、ドバくんはもしかしてイスルさんのもうひとりの旦那さんの子供かもしれないが、この時代では父親がだれかは気にしないので、こうしてみんなで育て上げる。
ダネブさんは流石に団長というべきか、見た目からしてまさに歴戦した大将軍のような雰囲気を纏っている。
ドバくんは若くして団長見習いまで上り詰めたので、相当実力はあるはず、それもまた頼もしく感じる。ただやはり年の功というか、まだ緊張しやすい感じ、まあそれはそれで可愛くて微笑ましい。
そこから、少し立ち話をして、そしてこれから長老たちも含めてこの集落のことを色々話し合うので、団長と見習いの息子にも祭壇に来てもらうことにした。
団長は一旦集会所に戻り副団長に業務の引き継ぎをして、そして私たちと一緒に神の祭壇まで移動した。
神の祭壇に入って、おそらく私が呼ばれた時の他の長老やシャーマンたちも集まり、私の意向で皆で円になって話をスタート。
初めて書く小説なので、大事に育てたいと思います。
そのため、言い回し、誤字脱字、文法の誤り、表現の改善、他に気になった点などがあれば、
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