ダデイでの采配
北のダデイ集落
黄昏の日差しが集落を照らし、集落を囲む塀や茅葺屋根の竹造高床式建築が、少々赤みを帯びた鬱金色に煌めく。
中央集落とは作りが異なり、私が本来思っていたこの時代の先住民族の集落形式により近い雰囲気に包まれつつも、しかしながら原始的な移動農業の性質からは既に脱しており、かといって定住をはじめてそんなに経っていないような、過渡期の様子を呈している。
襲撃を常に念頭に置く必要性があるためか、集落を囲むのは一段高い土盛りと、その上を太い丸太が突き刺さり、内側から補強用に更に板で固定した、とても堅牢な作りの「城壁」である。
もちろん石やレンガ造りよりは劣るが、それでも中央集落の刺竹林と比べて充分に現時点の外敵から守れる。
北東方向には、恐らく3階建て以上の高さを有し、今も3人ほどの戦士が監視に努める望楼が聳え立ち、その姿は南西門にいる私でも簡単に確認できた。
複数の戦士による警戒態勢を敷いた南西門を潜り、ドバくんの案内に従い、私達は門の近くにある集会所に立入った。
薄暗い集会所の中には複数の戦士と事務方が慌ただしく動き回り、戦場ならではの緊張感がより一層伝わってきた。
規模が小さいとはいえ、戦いであることには変わりない。
奥のほうには、既に到着して久しい戦士団長ダネブが胡座をかきながら、配下の戦士たちに次から次へと指示を出している。
私達は、それが終わるのを待つことにした。その間に、ドバくんは配下の近衛団員たちにしばらくの休憩を取らせた。
そしてさらに少し待ったところで、やっとすべての指令を出し終わったのか、ダネブ団長が声をかけてきた。
ーー『神の代理人様、大変お待たせしました。』
『いえ、ご苦労様。一段落付くところですまぬが、現状報告を頼む。』
ーー『はい、非戦闘非生産要員の全員をひとまず中央集落に避難させました。また、非戦闘の生産要員に関しては、戦士団が守りやすくなるよう、全て南西方面の大広間に集めました。』
『こんな短時間の中で、とても素晴らしい。』
ーー『お褒めの言葉恐縮です。私としては神の代理人様のご指示通りに戦闘の準備を整える次第です。』
『頼もしい。ちなみに団長は勝利に向けてどのような策を考えているのか聞きたい。』
ーー『はい、第一段階は、相手の部隊を集落に誘い込み、そこから包囲すると考えております。』
『そんなに簡単に引っかかるんだろうか?』
ーー『前の戦力なら、敵にとってもそこまで難しくない相手だったはずです。私が敵なら、たとえ集落に入っても余裕で逃げられると思って、敢えて相手の罠に自ら引っかかりに行こうとします。』
『つまり、現在の戦力なら、相手を誘い込んだ上で、逃げさせないぐらいのことができるってことだな?
ーー『はい、また、捕虜になったリーダー格の戦士から吐き出させた話では、今回はバロッチだけの戦力で、すでに最寄りの集落に向こうの戦士団長が率いる本隊が構えているとのことです。』
『それって、どのくらいの規模なのか?』
ーー『具体的な人数は推測ではございますが、私がここに来て得た最新の情報では、バロッチは更に東側の部族と不安定な状況にあるので、少なくとも東方面の防衛に戦力を割く必要があります。そのため、最寄りの集落に来るのは多くて70人で、直接対決に来これのは多くても50人前後かと思います。』
なるほど、こちらではもともといた50人だけなら、予備団員がいるとはいえ、非戦闘要員などを守るためにあんまり戦闘に参加できないから、たしかに敵が50人が入り込んできても引き上げもそんなに難しくないはず。
ただ既に昨日と今日で、追加で20人ずつが編入し、非戦闘要員が大幅に減ったので予備団員も一部は攻撃に回れる。更にいざというときに私の近衛団も加わらせれば、大体120人位動かせる。
そうすれば倍以上の戦闘力を持って敵を降伏させられるし。殲滅も可能だ。
『団長、目的は降伏なのか、殲滅なのか?』
ーー『私は、まず降伏を目指すので、第二段階では、敵の戦士団長をここに誘い込めれば第一案、誘い込めなかったら第二案、そもそも向こうから出てきてなかったら第三案、それぞれ用意しました。』
そして、団長はそれぞれの案について私に大まかな流れを説明してくれた。
第一段階では、先攻隊を派遣して向こうの集落への攻撃を仕掛ける。もちろん深入りせず、適宜なタイミングで敗走という形で、上手に距離を保ちながら集落に誘導する。
そして第二段階では、仮に敵をうまく集落内に誘導できた場合、門を閉め、深入りさせずに入り口のところで足止めさせるよう、包囲隊の弓隊と縄槍隊が高所から構え、攻撃隊の刀隊は四方向から素早く包囲する。
その際に、敵の団長がいるかを確認し、敵の人数と合わせて報告してもらい、そこで第一案から第三案のどちらを実施するか判断する。
もちろん囲まれた敵が抵抗する場合は容赦なく打ち取り、そうでなければ武器を捨てさせて束縛すること。
もし敵の団長が名乗りだしたら、第一案として敵の数を確認し、50人ほどいれば、恐らく別働隊はいないと判断できるので、その人だけ集会所に連行する。50人よりかなり少ない場合は、詐称の可能性もありうるし、恐らく別働隊も近くにいるはずなので、団長の連行はせず、一旦全員束縛したうえで報告すること。
もし敵に団長の人が名乗っていないのであれば、第二案として同じく最初は人数の確認を行い、50人ほどいれば、恐らく敢えて名乗らなかった可能性が高いので、集会所へ報告し、こちらから確認しに行く。仮に人数が50人より全然少ないのであれば、確実に本隊ではないので、素早く報告すること。
第三案は、人数が極端に少なく、かつ別働隊または本隊の動きも確認できない場合は、翌日にこちらから向こうの集落への総攻撃を仕掛ける。
上記3案と並行して、団長は複数の予備案も考えており、その都度の戦況によって柔軟に変更するようだ。
さすが歴戦した実績を持つ人は違う。
この日の夜は、本来なら中央集落で歓迎会が開かれるはずだったが、あいにく戦時体制になったのでお預けになった。
まあ早期決着が出来たら、祝勝会代わりにまた開かれるはずだな。
で、ダデイ集落では何をやっているかというと、普段どおりに、集落内のあちこちに炊事を行い、戦士団員と事務方、そして生産要員の皆で夕食を取ることにした。
あえて別々で取るには、団長の案にもあったとおり、敵の偵察にこちらの異変を気付かせないためだと。
炊煙が普段通り何筋も立っていれば。向こうもこれまでの判断に従い次の選択をするのだ。
そして夕食が終わった後、事務方と生産要員を全員再び大広間に避難させ、ダネブ団長は次の指示を出した。
ーー『先攻隊、整え次第進攻』
ーー『包囲隊、弓と縄槍を準備して第一案の布陣に取り掛かれ』
ーー『攻撃隊、刀、盾を用意し、包囲隊と同様に第一案に着手』
どうやら団長は、第一案が一番可能性の高いと判断したようだ。
『団長、第一案が一番現実的だとお考えなのか?』
ーー『はい、これまでの交戦経験を分析すると、向こうの戦士団長が実際に来た場合十中八九自ら率いる事が多いです。もちろん向こうとしては情勢が有利と判断したときに限りますが。』
『そんなことやる長って本当にいるんだ…』
ーー『はい、噂によれば相当な目立ちたがり屋で武闘派らしくて』
これは意外だったな。大体三国志演義とかの物語では一軍の将たる指揮官が、自ら一騎打ちに挑み無双する情景がよく描かれているが、実に誰にでも分かる真っ赤のウソで、実際に前線に立つのは常に無名の下級兵士であり、指揮官は陣幕から出ることはめったに無い。
しかしどうやら歴戦しているはずのバロッチの戦士団長は、聞いた情報では本当に無双したいようなのだ。確かにこの時代では既に「三国志演義」という物語が完成しているが、絶対こんなところまで行き渡るはずがない。
でも本当に武闘派だけで、一指揮官がただの脳筋みたいに己の命を蔑ろにでも平気にやるのかな…なにか裏がないのか?本当の狙いはなんだろう?
私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱい埋め尽くされたが、時間はそれを考える余裕を許してくれない。
静けさが漂う集会所、篝火で作られたいくつかの影が舞い踊り、次の一歩を決める知らせをひたすら待つ私達。
ついに、遠いところから騒ぎの音が耳に入った。
騒ぎの音が暫く経つと落ち着きを取り戻し、タイミングよく、ひとりの戦士が入ってきた。
ーーー『団長、バロッチ戦士団系30人ほどを包囲しました。』
ーー『向こうの団長いるのか?』
ーーー『いいえ、いません。』
ーー『ご苦労。別働隊、直ちに第二案』
ーーー『は!』
やはり物事はそんなに単純じゃないんだよな。なんとなくなんだけど、向こうも歴戦なら、敵であるこちらの戦士の雰囲気や仕草から読み取れる情報が多いはず。
ーー『君、包囲した30人を降参させ、全員束縛しろと包囲隊に伝えてくれ。』
ーーー『は、直ちに伝達する』
ーー『神の代理人様、残念ながらうまく誘い込めませんでしたが、30人もいるということは、恐らく向こうの団長はこの集落の近くにいると思うので、これから第二案に移ります。』
『そうだね、10人とか20人とかだと微妙かもしれないけど、30人もいるなら確実に来そうだね。』
私達は、集会所から出ずに、次の結果を待つことに。
更にしばらく待つと、今度は別の戦士が入ってきた。
ーーー『団長、予想通り北西方面に向こうの部隊が近づいてくるの確認できました。』
ーー『よし、迎え撃とう』
『団長、私も行くわ。』
ーー『承知しました。安全が確保できるまで、なるべく後方にいらしてください。』
ダネブ団長は私の同行を受け入れて、集会所から戦士たちと出ていき、私もドバくんたち近衛団員を率いて、団長の部隊の後方についていった。
北西方面には、既にこちら側の団員が総勢80人ほど集結して、向こうの部隊と対峙している。
こちら側から更に団長と私が連れてきた人数で、合計100人に上る。
対して相手は、多く見積もっても最初の部隊と同じ30人しかいない。人数的には圧倒的にこちらが優勢だ。
私達が来たのに気付いたのか、向こうから一人が先頭に出て大声でこちら側に呼びかけてきた。
=『おい、たしかにダネブだよな、ボアスアの戦士団長の名は。いるんだな。どこだ?』
ーー『俺だ。』
=『お前がダネブか、無敗の戦士ダネブ。俺はアリマン。今日は俺と決闘だ。逃げるなよ』
ーー『…』
ー『…』
『…』
結局ただの脳筋か
初めての小説なので、
言い回し、誤字脱字、文法の誤り、表現の改善などがあれば、
感想や誤字報告に書いていただくととても助かります。




