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【番外】私の初恋は、とても淡かった(3) -完-

その日の夜、お風呂から上がった私は、ユーイチくんのお部屋にお邪魔した。



『ユーイチくんごめんね、寝る前なのにお邪魔して』


ー『大丈夫だよ、僕はまだ準備することがあるので』


『そか、で、どう?うちの家族、ユーイチくんが欲しがっていた賑やかな家を満たしてる?』


ー『うん、とても賑やかで、とても楽しかったよ。ナオちゃんありがとうね。ナオちゃんじゃなければ僕はこんな経験多分一生できないかも。』


『ははは、それは紹介した側としてはめちゃ嬉しいことだ。よかった。夜ご飯のときに、ユーイチくんが引いてしまうじゃないかとずっと心配していた。』


ー『ナオちゃんの親戚は皆とても親切だね、この一ヶ月は楽しみだよ。』



満面な笑みを見せてくれたユーイチくんを見ると、やはりさっき夜ご飯のときに皆に見せた笑顔は偽りのないものだと分かった。


そしてユーイチくんと今日の出来事を色々しゃべると、だいぶ遅くなった。



『あっ、もうこんな時間だ。ごめんねユーイチくん、まだやることあるのにこんなにしゃべちゃった…』


ー『ううん、僕はとても嬉しかったよ。夜は一人しかいない事が多いので、こうして一緒に夜に話ができる人がそばにいるととても楽しいんだ。』


『ならよかった。あっ、明日何時に起きる?うちの朝食時間は7時だけど、大丈夫?難しかったら調整してもらうので』


ー『うん、大丈夫だよ、僕もだいたいその時間に食べるので、ありがとう。』


『おっけー、じゃあ明日7時に朝食、その後一緒に登校だ』


ー『ははは、そういえば確かにそうなるんだね。』


『ここはユーイチくんちより学校寄りだから、家を出るまではもう少し余裕があるはず。じゃあそういうことで、おやすみ!ユーイチくん』


ー『ナオちゃんおやすみ』



ユーイチくんの部屋から出て、私は隣にある自分の部屋に戻った。


昔兄がまだあの部屋にいたときは、ほぼ毎晩のように妹と邪魔してたが、兄が大学受験で忙しくなってからはさすがに相手にしてくれる余裕はなくなった。


それからは陣地が私の部屋に変わり、妹が毎晩私の部屋に来ることになった。


今日はユーイチくんのことで忙しかった私のことを考えて、妹はここに来るのを控えてくれた。


まあ私的には全然平気だし、なんなら二人揃ってユーイチくんの部屋にお邪魔してもいいくらいだ。


まあ、妹の性格からしたら明日から通常運転に戻るんだろう。


さあ、そろそろ寝よう。















翌朝、ユーイチくんは7時ぴったりにリビングに来た。制服に着替え済みで、朝食済ませればすぐに出られるよう準備したらしい。


対して私はまだパジャマのままだけど…まあユーイチくんのお家からの距離だと確かに朝食の時間が掛かると遅刻しちゃうから、事前準備を先に済ませるのが普通だね。



『おはよう、ユーイチくん』


ー『ナオちゃん、おはよう』



大家族のうちだけど、朝食は、それぞれの家族単位でそれぞれ専用のリビングで食べるのが普通だ。


ってことで、昨日の夜のように20人に囲まれないで済む。まあ昨日はあれでも急遽だったためあんまり集まらなかったための通常運転、本来は歓迎会ならその倍以上の人数に囲まれるはず。


今リビングには、祖母と母、私、妹、弟、そして珍しく父もいる。



ーー「おはよう、ユーイチくんだな。遅くなったが、ナオの父だ。話は聞いた。どう?まだ一夜しか過ごしていないが、慣れた?なんか必要だったらナオでもナオの母でもいいので、言えば用意してくれるので、遠慮せずに」


ー「ナオさんのお父さん、はじめまして、ユーイチです。昨日から急遽お泊りするになり迷惑をかけました。皆さんが暖かく歓迎してくださったのですぐに慣れました。」


ーー「ならよかった。じゃあ、私はこれから仕事に行くので、ナオ、あとは頼んだよ、人を連れてきたんだから世話の責任はちゃんと持ってな。」


「わかってるよお父さん。じゃあ気をつけていってらっしゃい。」



父は、昨日の夜、急遽だったってこともあって、仕事の関係でどうしても参加できなかった。


その代わりに、今朝はいつも7時前に出かけたのにわざわざユーイチくんがくるまで待ってくれたのだ。


父を見送った後、ユーイチくんは私の隣の席に座った。その席には、先程父が挨拶するときに用意した朝食の品々がセットしてある。


うちは一週間の間に日替わりで朝食の品が変わる。


今日は洋風朝食の日、用意されているのは、ウィンナーではなくソーセージ、スクランブルエッグ、パン、コーンクリームスープ、シーザーサラダと、ドリンクは牛乳だ。



ー『すごいだね、こんなに豪華な朝食が食べれて、嬉しい。』


『そういってくれて私も嬉しいよ。うちはいつもこのくらいの量だけど、多かったり足りなかったりしたらちゃんと言ってね。』


ー『うん、ありがとう。いただきます。』



ジッブン人の母に育てられたユーイチくんは、自然と「いただきます」と口にしてから食べ始めた。


もちろんうちも祖母はジッブン人で母はその子供で、さらにその孫が私達だから、全然違和感なかった。


朝ご飯を食べながら、ユーイチくんはすっかり慣れた様子で私の家族と打ち解けていて、会話を楽しんでいた。



『そういえば、ユーイチくんは、ジョンホアはもう慣れた?』


ー『ううん、恥ずかしながら、家と近所、そして学校周辺以外はあんまり…』


『そうなんだ、…大丈夫、任せてー、色々連れて行くから。』


ー『本当?僕ももっとこの街のことが知りたいから、助かる』


『うん、ただね、私は決めたら完璧にこなすタイプなので、休日も忙しくなることを覚悟してね』


ー『ははは、頼もしい。』


ーー『えー、お姉ちゃん、ダイディオンとかダイバとか行くときは私も連れてってよ』



妹が会話に割り込んできた。



『それはどうしようかな〜』


ーー『ええええええ、お姉ちゃんずるいよ。』


ー『ははは、ナオちゃん意地悪いだね、僕は全然大歓迎だよ』


『むうう、ユーイチくんがそういうなら私は反対しないけど……』













今までの日常に、ユーイチくんが加わったことで、全く新鮮な日常に生まれ変わった。


朝は一緒に朝ごはんを食べて、一緒に登校し、授業こそあの選択科目以外は別々だけど、昼もわざわざ教室から抜け出して一緒に食べた。


放課後は、私が町のあちこちにユーイチくんを連れ回ってから家に帰り、そして当初の約束通り母と祖母がジッブン語でハン文字の補習授業を受けて、一緒に夜ご飯を食べて、寝る前の会話も妹ときに弟も加わって皆で楽しんでた。


どこに連れて行ったんだろうか、数え切れないぐらいだった。



『ここはもともとジッブン時代の神社だったところだよ、今は大仏だけど』


ー『そうだったんだ、知らなかったー』



ときにはハッケ山の大仏を紹介し、




『ここはコーシ廟っていうお寺だね、割と歴史のあるお寺だよ』


ー『よく通るけど、そんなに古いんだ…』



ときに町で古いお寺を紹介したり




『ここは扇形庫。ジッブン時代に作られて、いまはフォルサで唯一現存でかつ現役の機関車格納庫だよ。まあジッブンにはまだ複数残っているけどね』


ー『ナオちゃん詳しいーー。僕はそもそも扇形庫って単語自体今日初めて知ったんだけど…』



ときには鉄オタのように、鉄道のことを紹介したり




『ねえねえ、ユーイチくんは流石にここの名物のバーワンは食べたことあるよね?』


ー『うん、ここに来たときは、父が一回連れててくれた。』


『一回ってことは、やっぱあの交差点のところのお店かな。実はそこから入ったところのほうに本当の発祥店があるんだよ。』


ー『へえ、そうなんだ。それは知らなかったな』


『じゃあじゃあ、今日はそこに行こう。その後はニャウチアミーを食べよう』


ー『ニャウチアミー?』


『そか、知らないのか。ハン文字で書くと意味が猫とネズミの麺になるんだけど、猫もネズミも入ってないよ。安心して。ただのスープ麺に鶏つくねと肉団子とキノコ団子が乗ってるだけだ。』


ー『はは、すごいネーミングだね、いいね、行こう。』



そしてせっかくなのでジョンホアの名物料理を食べに行ったりもした。













『ユーイチくん、今度の土曜日、ダイディオンに行こう。』


ー『うん、いいよ』


ーー『お姉ちゃん、私との約束、忘れてないよね』



夜寝る前の会話で、私が提案したら、その場にいた妹はすかさず反応した。



『分かってるよ、だからわざわざここで言ったんだもん。隠したいなら二人きりのときに言えばいいし。』


ーー『やったー、じゃあどこ行こうかな、やっぱミヤハラガンカに行きたいね。タピオカミルクティーの発祥店も行きたいな。後はイッディオン夜市かな、でもホンガー夜市のほうがでかいけど』


ー『ミヤハラガンカ?』


『あっ、ジッブン時代の眼科だった建物をスイーツ店に改装して、昔の店名をそのまま流用したからガンカだよ。』

ー『へえ、そんな店があるんだ…面白そう。』


『私はせっかくだからセーヒン書店寄りたい、あそこでしか買えない本があって…』


ー『セーヒン書店なら僕も聞いたことがある、たしか店内がおしゃれで本の在庫量も充実しているとこだよね?』


『ユーイチくん珍しく知ってるんだ。そうだよ。』


ー『はは、僕本が好きだから。』


『これは私との相性がいい趣味だね、今度ダイバの本店に連れてってやるよ。』


ー『じゃあ任せようかな、ナオ様。』


『おお、任しとけ』


ーー『えー、そのとき必ず私も連れてってよ。お姉ちゃん』




結局ダイディオンにもダイバにも妹付きの旅行になった。ダイバのときは弟まで付いてきて、ダイバにいる兄も合流した1泊2日の週末旅行に変わった。

















そうした日々が充実しすぎて、あっという間に過ぎていた。


その間に、母がユーイチくんの両親に更に頼まれて、結局半年間も我が家に滞在することになった。


なぜそうなったのか、母から聞いた話では、ユーイチくんの両親は、やはりもう一度ジッブンでの生活基盤を整えたいみたいなので、どうしてもユーイチくんのことをちゃんと見れないとのこと。


正直、この話を聞いた時、私の心は寂しい気持ちでいっぱいだった。


かならず訪れる別れのとき、しかも距離の離れた異国にユーイチくんが行かないといけない。


この話を聞いてから、やっと分かったけど、



私の心は、いつの間にか、ユーイチくんのことでいっぱいになった。



きっとこれは、恋ってことだと、私は気付いた。



最初は地元民としてもてなしとおせっかいの気持ちから始まった同居生活。



いつの間にか私はそれがこれからも永遠に続く生活だと期待した。たとえ最初から幻想でしかないとしても。










『ねえねえ、ユーイチくん』



いつの間にか週に何回か必ず放課後に立ち寄ることになった、あの展望台で、売店のおばちゃんから買ったおやつとドリンクを食べながら夕日を二人で眺めていると、私はずっといいたかったことを、やっと勇気を出していうことに。



ー『どしたの?ナオちゃん』



ユーイチくんは、優しい笑顔で私のほうを向いた。



『…ユーイチくんに、…ずっとうちにいてほしいんだ…』



淡い希望だけど、やはり言わなかった後悔よりは、私は言った後悔を選んだ。



ー『…ナオちゃん……』


『分かってるよ、これは私のワガママでしかないんだけど…、でもやっぱり言わないと、きっと後悔する…だから言ったんだ。』


ー『……』



ユーイチくんは、微笑んだまま、私の言いたいことを聞いてくれた。



『いつの間にか、私の中でユーイチくんのことが、とても大切に思うようになった。その気持ちを伝えたかった。ユーイチくんが私のことをどう思っているかはわからないが、それでもこの気持を受け止めてほしかった。』


ー『…ナオちゃん…』


『ごめんね、私、決めたことをすかさずやるタイプだけど、でも、こういう気持ちになったのははじめてで、どうしていいか分からなかった。』


ー『ありがとう。ナオちゃん。ナオちゃんにそう思われて、僕、とても嬉しいんだ。』


『ユーイチくん…』



気付いたら、私の視界は涙でよく見えなくなった。



ー『僕は、これからどこで生活するのか。正直僕一人で決められることではないんだ。』


『うん、…知ってるよ…』


ー『だから、僕は、ナオちゃんの大切な気持ちを、ぞんざいに扱いたくないんだ。』


『…うん…』


ー『僕も、実はナオちゃんと同じくらい、ナオちゃんのことを大切に思ってる。それでも、今の僕は親の選択に従う必要があるんだ。』


『……ユーイチくん』


ー『でも、仮にお互いの気持がこれからも変わらなければ、いつかは、そのときは、ナオちゃんの希望を叶えてあげたいと。僕は思うんだ。』



ユーイチくんは、やさしく、そしてやんわりと、彼の気持ちと、直面しなければならない現実を、私に伝えた。



『…ユーイチくん、私のわがままだけど、もし可能だったら、一つ私からのお願い、聞いてくれない?』


ー『うん、いいよ』


『ユーイチくんがジッブンに帰るまでの間でいいから、私の恋心を叶えてほしい…』


ー『…別れるときは、かえって辛くなるけど…』


『それでもいいの。将来のことは誰にもわからない。だったら今目の前のこと、精一杯こなしたい。後悔のない毎日を私は送りたい。』


ー『…ナオちゃん…。』


『お願い、ユーイチくん…』


ー『……うん、分かった。』



そう言って、ユーイチくんは優しく私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。


私は、悲しい涙と嬉しい涙で頬を濡らした。














それから、残りの少ない日々、私はユーイチくんとたくさんの思い出を作った。


今まで一緒にやったことも、行ったところももちろん。


今まで一緒にやっていなかったこと、行っていなかった場所も、できる限り叶えた。


そしてユーイチくんから聞いた。両親は新しい生活基盤を、ユーイチくんの母の親戚がいるセンダイに決めて、ユーイチくんはそこの高校に転校することになったことも。



『じゃあ、私がジッブンに遊びに行ったら、案内してね。絶対だよ』


ー『うん、分かった。僕に任せて。』


『ジッブン三景のマツシマはその近くだよね、行ってみたい。あと牛タンも食べたい』


ー『ナオちゃん決めるの早いな』


『私はそういう性格だからね』


ー『ははは、来たときに案内するよ。』



いつもの展望台で、ユーイチくんと、必ず守れるかも分からない約束を交わした。














そして、いよいよ別れの日がやってきた。







『うぅぅぅ、ユーイチくん…ユーイチくん…』


ー『ナオちゃん…』



朝、ユーイチくんと一緒に、荷物をまとめたあと、私は湧き上がる寂しさを我慢できずに、ユーイチくんを強く抱きしめた。昨夜から既に何度も濡らしては乾いた頬が、決壊した涙腺で再び氾濫した。


必ず訪れる別れ。その後のことは誰にもわからない。だったら最後の一秒まで、私は手放さない。


ギリギリまで私はユーイチくんの胸の中で、ユーイチくんの温かい体温を独り占めた。


そしてユーイチくんは、迎えに来たユーイチくんの両親と一緒に、車に乗り込んだ。



ー『ナオちゃんのお母さんとお祖母ちゃん、半年間大変お世話になりました。僕、とても幸せです。』


ーー『ユーイチさん、また来るときがあれば、いつでも歓迎しているよ。』


==『この家は、いつでも貴方のために部屋を用意しているから。』













トーエン空港。



私の最後のわがままを聞いてくれたユーイチくんと彼の両親は、トーエン空港まで私を連れてきてくれた。



『ユーイチくん、ありがとう。半年間、とても楽しかった。ジッブンに帰っても元気でいてね。』


ー『うん、約束だよ、ナオちゃんも元気でね。』


『うん、約束だね。遊びに行くときはまた連絡するよ。ラインメッセンジャーでもいっぱい連絡してね。』


ー『はは、分かったよ。』



ーー『ナオさん、私達からのお礼ですが、この度長い間、ユーイチのことを大変お世話になりました。』


==『私達がずっと与えられなかった家族の温かみを、貴方がユーイチに与えたことに、とても感謝しても感謝しきれません。今度センダイに遊びに来たときは、ご連絡ください。目一杯お礼をさせてください。』



ユーイチくんの両親は、私に頭を下げて、感謝の気持を伝えた。



『ユーイチくんのお父さん、お母さん、私こそ、ユーイチくんがうちに泊まってくれた日々のことがとても楽しかったので、ありがとうございました。遊びに行くときは必ずご連絡します。』




その後、ユーイチくんの両親は、先に出国ゲートに入って、私達のために最後の時間を与えてくれた。




『ユーイチくん、短い間だけど、私の希望を叶えてくれてありがとう。私とても幸せでした。』


ー『ナオちゃん、僕こそありがとう。そしてごめんね、これからのことを約束できなくて』


『ううん、遠距離の恋は不確定要素が多すぎるのは私も分かっているので、仮にラインメッセンジャーがあっても同じだし、寧ろこのほうがお互いに負担がかからないことくらい、私も分かってる。』



最後に、ユーイチくんを抱きしめた私。



そして、これからできるか分からないが、今確定した時間の中での、確実に最後の口付けをした。





さようなら、ユーイチくん。





さようなら、私の初恋。









初めての小説なので、

言い回し、誤字脱字、文法の誤り、表現の改善などがあれば、

感想や誤字報告に書いていただくととても助かります。

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