【番外】私の初恋は、とても淡かった(2)
ユーイチくんも引っ張られるがままに、私についてきてくれた。
しばらく歩いて、いやかなり山道を歩いて、私たちはハッケ山の奥にある遊歩道までやってきた。
この遊歩道は私が通っていた中学校のすぐ隣にあるもので、中学生の頃は放課後よく一人でここに来た。
ちなみに当時の中学校はその後廃校し、跡地に芸術専門高校が新たにできたので、私としては母校がなくなって寂しい気持ちでいっぱいだ。
『もしかしてユーイチくんはすでにここに来たことがあるかもしれないが、私にとってはここから見た景色は一番の絶景よ。』
ー『ハッケ山の奥までは流石にまだ来たことないな、でもまさかこんないい景色が見れるなんてすごいね、ナオちゃん連れてきてくれてありがとね。』
『すごいっしょ!実はこの隣に私が通った中学校があってね、昔放課後よく一人でここに来たんだ。』
ー『それは羨ましいなあ』
実は、ここに連れてくるまで、本当に津波のことを思い出させてしまわないかとても心配だったが、どうやら杞憂で、ユーイチくんにその様子はちっとも見られなかった。
『実はすぐあそこに売店があってね、いつも売店でおやつを買って、そこの展望台に登って夕陽を眺めたの。特に嫌な気持ちになった日は、気付いたら日が落ちるギリギリまでいたんだ。売店のおばさんがいつも私のことを心配してくれて、早く帰るのよって毎回声かけてくれた。そしたらある日、日が落ちても私がまだそこにいたのに気付いたおばさんは、わざわざ私を呼び止めて、閉店後に私を家まで送ってくれたんだ。』
ー『ははは、ナオちゃんめちゃ迷惑かけたね。』
売店は残念ながら今日休みなので、私たちはそのまま展望台に登ることに。
『そうだよね、今思ったら、なんであの日あんなに遅くまでいたのかは全然理由とか思い出せなかったんだけど、ただ暗くなって初めて怖いと感じたの』
ー『それは子供にとっては怖く感じるもんね、暗い山奥の展望台に1人いるなんて』
『でも今思えば、私は家でも大家族で過ごしたから、中学生の頃は1人になれる時間がとても贅沢だったと思ったかもしれない。いや今も思ってるの、1人の時間が欲しいと。だけど守ってくれる売店のおばさんも欲しいな、暗い山だとやはり怖いんだ』
ー『はははは、確かに1人の時間が欲しいけど、寂しさもあるよね。僕は小さい頃からわりと1人でいる時間が長かったので、逆にいつも賑やかな家が欲しいのさ。』
そう言って、ユーイチくんは今日初めての暗い顔を見せた。やはり隣の芝生は青いよね、私はいつも賑やかな家で暮らしているので1人の時間が欲しくなるけど、ユーイチくんは逆に1人の時間が多かったので賑やかな家で暮らしてみたいのか。
『ユーイチくんは今も1人の時間が多いの?』
ー『そうだね、父の実家だけど、すでに空き家の家に戻ってきただけで、父は事業をしているので、フォルサ拠点を立ち上げるため北のダイバ市によく行くんだ。母は最初は私と一緒にいたけど、私が高校に通い始めてからは、地元の復興のために1ヶ月おきにジッブンとここを行き来しているんだ。今月は、私以外、誰もその家に帰って来ないんだ。』
『そうなんだ、それは確かに辛いだね。』
ふっと思った。ユーイチくんが欲しいものは私なら用意できるんじゃないかって。
『ねえねえユーイチくん、ユーイチくんに一つ素敵なご提案だけど、聞いてみない?』
ー『とりあえず聞いてみるけど、どんな提案なの?』
『今月は、私の家に住まない?』
ー『えっ?いいの?』
『当然だよ、今上の兄がダイバ市で1人暮らししているので、その部屋なら空いているし、うちは叔父叔母の一族を含めてみんな一緒に住んでるから、1人増えるくらいは平気だよ。近所にはおじいちゃんおばあちゃんの親戚も住んでいるし。賑やかな家で暮らしてみたいユーイチくんにはこれ以上最高な条件はないと思うよ。』
ー『すごい大所帯だね、ナオちゃん提案してくれてありがとう、そういえば今日ナオちゃんが
お母さんとおばあちゃんを紹介してくれるんだっけ?』
『そうだよ、私が紹介するよ。じゃあじゃあ行こう行こう』
そう言って、私は再びユーイチくんの手を引っ張り出した。
ハケ山の裏歩道から降りて、大通りに沿って歩くと、10分ほどで家に辿り着く。
いつもみる家だけど、今日は来客を紹介するせいか、いつもより違って見えた。
『ここが私の家だよ、ちなみに反対側が大叔父のお家だ。』
ー『すごいね、本当に親戚のお家が近くにあるんだ』
『そうだよ、ちなみに私の家は庭が一番広いんだ、あとあそこに広場もあるので、子供達はよくそこで遊んでるの。今あそこで遊んでるのは、おじさんの子供とおばさんの子供、つまり私の従兄弟たちなんだ。あそこに座ってみているのがおじさん夫婦なの』
ー『入り口からすでに賑やかな家って、ナオちゃんのお家すごいな』
『ふふ、でしょうね。では我がリビングまでご案内します』
ー『ははは、では、ご案内お願いします』
従兄弟兄弟、そしておじさん夫婦と挨拶を交わした後、早速ユーイチくんをリビングまで案内し、やはりいつも通り、お母さんとおばあちゃんがいた。
2人は仲がよくて、よく一緒に行動するんだ。そして今日も、一緒にテレビを見ながら談笑している。
私とユーイチくんをみると、よほど異常事態に感じたのか、普段ならテレビを見ながらおしゃべりをしながら私に話しかけるのに、今日はわざわざおしゃべりを中断して、テレビも切って、私が話し出すのを待ってくれたのだ。
『お母さん、おばあちゃん、この人、ユーイチくんって言うんだ』
ー『ナオさんのお母さん、おばあちゃん、初めまして、ユーイチと言います。突然のご訪問すみませんでした。』
私は敢えてジッブン語でユーイチくんのことを紹介して、ユーイチくんもそれに合わせてジッブン語で自己紹介をした。
ーー『あら、初めましてこんにちは、ユーイチくんだね、私はナオの母、フミコだ。よろしくね』
==『これは珍しいね、こんにちは、ユーイチくん、私はナオの祖母、ヨウコよ。よろしく』
『ユーイチくんはね、去年の秋に引っ越してきたんだ、お母さんがジッブン人で、お父さんはフォルサ人なんだ』
ーー『これはなんらかの縁を感じるね、で、この制服を見ると、ナオと同じ高校かな?』
ー『そうです、ナオさんと同じ高校に通っています。』
『ユーイチくんとは、今日の授業ではじめて会ったけど、お父さんは忙しくてハン語の読み書きを教えてなくて、今授業で苦労しているんだ。だから連れてきたの。』
ーー『ナオ、もしかして』
『うん、そうだよ、お母さんとおばあちゃんなら、補習授業してくれると思って』
ーー『まったく昔から強引ね、ちゃんと本人の意見聞いた?』
『ちゃんと聞いたもん…、ね!ユーイチくん』
ーー『それよ、それが強引ってわからないの?』
ー『ナオさんのお母さん、心配してくれてありがとうございます。私も一度受けてみたいと思いましたので、ナオさんにつれてきてもらいました。ご迷惑でなければよろしくおねがいします』
ーー『いいの?…分かった。でも丁寧な子だね』
『お母さん、急だけど、今月ユーイチくんもうちに泊まっていい?』
ーー『!?、あんた何急なことを、ユーイチくんのお国の文化もあるのよ、そこはちゃんと尊重してあげないと本人は辛いのよ。』
『だって、今月ユーイチくんは一人でお留守番だからかわいそうだし…』
==『子供を1人一ヶ月も留守番を強いるのは、たしかに辛いねえ…お父さんとお母さんは、仕事?お二人も大変だね、ユーイチくんもよく頑張ったね、辛いねえ』
ここまで話が出てきたら、ジッブン人のおばあちゃんも割り込んできた。
ー『ナオさんのおばあさん、ありがとうございます。子供の頃からのことなので、もう慣れています。』
==『私からみてあんたは今でも子供よ。ここまで聞いたらおせっかいしたくなったね。フミコ、この子の両親が帰ってくるまでうちでみな。』
ーー『わかった。私も流石にこのまま帰すのは可愛そうなので…でも向こうの両親に一度連絡入れないといけない。急に帰ってきたときに我が子が家にいないと絶対パニックるのよ。ユーイチくん、ご両親と一回電話するね』
ー『はい、宜しくお願いします』
それから、ユーイチくんの両親にまず母と祖母が連絡を入れて事情を説明し、両親の了承を得て、来月頭にユーイチくんのお母さんがうちに引き取りに来るまで、ユーイチくんがうちに泊まることが決定した。
ちなみに部屋は、やはり私の寝室の横にある、ダイバで暮らしている兄の部屋になった。もちろん兄にも事前に連絡を入れた。
兄から「普通なら驚くけど、ナオかと思うと何故か納得した」と、変な開き直りを食らったのだ。
その後、一度母が車を出してユーイチくんの家まで私も一緒に行き、ユーイチくんの服や教科書や日用品などを一通り持って帰ってきた。
ユーイチくんの家は、駅よりのほうなので、繁華街はすぐ目の前にある。ユーイチくんからは、自分ひとりしかいない日は、いつも外食か、コンビニ食かってことも聞いた。
急なことで、私も紹介した方の責任として色々と手伝いしたら、すっかり夜になった。
そしてさすが大家族ってことで、夕飯のときには、近所に住む大叔父、大叔母やはとこたちまでうちにやってきて、来客のユーイチくんに挨拶しに来た。
ユーイチくんは、控えめにみても20人前後はいる大家族に囲まれながらも、怯えたりせず、寧ろ今日イチの笑顔で皆と挨拶した。
賑やかな家がほしいって、本気だったんだ…
初めての小説なので、
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