二日目の朝は、皆で朝ごはんを食べた
西暦1620年12月25日
朝5時
フォルサ島、ボアスア族中央集落
神の祭壇
私の部屋
はい、起きましたよ
昨日結局あれこれやることを思い出してやっているうちに0時を回っていた
しかしながら、案の定、神の力によって改造されたこの壊れないからだの影響で、元気いっぱいで全然眠くもだるくもならなかった。
ただせっかく大長老アクワヌさんのご厚意でわざわざハン族から調達してくれたこの高級布団を、無駄にしたくないという思いにかられて、エネルギッシュな心身を抑え込んでなんとか横たわった。
半ば実験的な気持ちで寝てみたら、案外普通に出来た。
いやいや普通は赤ん坊でもできるやん…
自分へツッコミしつつ、昨日最後の「実験」について、私は結論を出した。
つまり、
今の私にとって、睡眠とは、「必需品」ではなく「嗜好品」であると…
……
うううつっこみたいけど、めっちゃつっこみたいけど
とりあえずアクワヌさんのご厚意が無駄にならずにすんだのはとても心嬉しい。
となれば、禁忌の地でも、寝室を設けたい。
睡眠自体は必要でなくとも、難なく取れることが分かったら、私は寝室の快適さにこだわりたくなった。
どうせ禁忌の地でいくら寝ても時間が流れないなら、定期的に長期休養するのもいいかもしれない。
いきなりプロジェクトオーナー兼プロジェクトマネージャーを押し付けられたからな、当たり前の権利だ。な、神。
……
もうやめようナオ、誰もいないとはいえ、こんな一人芝居はとても見てられないんだ。やめよう。
そういえば今日の会議は、昼からなので、それまでは何をしようかな。
何もせずゴロゴロしても別に誰にも止められないが、復興の大任を任されたし、単純に先住民族研究者としての興味もあるし、できれば集落内で見学したい。
よし、やることが決まったらあとは実行するだけだ。
私は、かばんから鏡を取り出し外見をチェックしたが、やはり神の力は裏切らないな、起きたばかりなのにまるで美容院から出たばかりのヘアスタイル、寝癖一つもなくツヤツヤで、全く直す必要がない完璧な状態だ。
まあお手入れ不要ならとても楽だから最高。
部屋を出て、すぐ目に入ったのは、やはり私をここに呼んできたあの神託剣なんだ。
まだ日が昇っていなく、焚き火の炎を映してより神秘的に輝いた。
うん、光ってはいないけどね。
そういえばこの剣はずっとここに突っ立ったままでいいのか?まあ今度思い出したら神に聞いてみよう。
神託剣の前まで移動して考え事をしてたら、奥の方であぐらをかいて談笑している事務団員のシャーマン2人が、私を見かけて慌てて立ち上がった。
ーー『おはようございます。神の代理人様。』
『あ、おはよう。』
ーー『なにかお手伝いすることはございますでしょうか?』
『いえ、特にまだないな。いいよ、私のこと気にせずゆっくりしな。必要なときは呼ぶね』
ーー『はい、承知しました。では必要なときにいつでもお呼びください。』
公の用事がなければ、ここは今の私にとってはリビング。つまり、プライベート空間である。
だったら、私はゆっくり寛ぎたい。昨日一日中ずっと「神の代理人様」と呼ばれて、しょうがないとはいえ、逆にその肩書のせいで皆との心の距離が一気に離れてしまったように感じた。
だから早いうちに、アクワヌさん、ドバさん、タナワスさんに名前で呼ぶように頼んで、心の距離が近い人間を意図的に作った。
そうだ、事務団員と近衛団員も専属だから、近いうちに全員に頼もう。
と思いながら、神託剣を周り、反対側にあるドバくんの部屋にやってきた。
ドア全開だったので、そのまま入った。
床にしゃがみ込み、覗く。
まだ寝ているドバくんをだ。
最初にアクワヌさんに紹介されたときに、自然と親近感が湧いたので、なんだろうと思ったら、ドバくんの顔はあいつに似ているからだ。
もちろん仕草はぜんぜん違う。ドバくんのあの幼さが残った仕草はあいつではなく、昔の弟とそっくりだった。
つまり、ドバくんは、あいつの外見と昔の弟の性格を持ち合わせているので、初対面からずっと気楽に接することができた。
もちろんドバくんはあくまでドバくんであり、この時代はそもそもあいつも弟も、そしてうちの家族、誰一人生まれていないし。
うん、ここまで考えるとなんだか虚しくなった。
そして目の前ドバくんが目覚めた。
ー『うぅ……っ!!!!!!!、あ、ああああ』
『おはよう〜ドバくん、なんか幸せそうに寝ているからつい見入ってしまった。』
ー『あ、お、おはよう、か、神、あっ、な、ナオ様』
寝起きのドバくんは飛び上がり、通常運転より一段高い非常時運転でパニックになった。
まあ100%私のせいだけど、でもその様子は非常に可愛くて、さっきまでの虚しさがまるっきり消し飛ばされた。
『ちゃんと寝れた?いっぱい寝れた?』
ー『はい、昨日はお別れしたあと僕すぐ寝てしまったようで、おかげさまでたっぷり寝れました。』
『それはよかった。ってさ、私、ちょっと朝の集落を散歩したいんだ。付き合ってくれる?もちろんプライベートだから無理なら断っても構わないよ。』
ー『い、行きます。』
『やったー、ありがとうねドバくん。じゃあ私祭壇の出たところで待つので、ゆっくりでいいから準備できたら来てね。』
ー『わかりました。』
半ば強引に、予想通りノーが言えないドバくんを拉致…連行…うーん、勧誘できたので、満足気味の私は一度部屋に戻りリュックを背負って祭壇を出た。
ーー『おはようございます。神の代理人様』
『おはよう。警備ご苦労。』
入り口の警備を担当した二人の近衛団員と挨拶を交わし、周りを見ると、戦士団の集会所に複数人が集まっている。何かを話しているようだ。
『聞いてもいい?戦士団はこの時間帯はいつも何をするの?』
ーー『はい、そちらの集まりのことでしょうか?今はちょうど勤務交代の引き継ぎをしています。このあとは設備点検、環境整備を行い、そして朝練をします。』
『朝練か、具体的に何をするの?』
私が興味津々な様子で近衛団員に戦士団のことを聞いたら、ちょうどドバくんが出てきた。
ー『お待たせしました。』
『お、ドバくん、はやいね。じゃあ行こうか。』
ー『えっと、どこに行きますか?』
『あ、そうだよね。どこに行けばいいだろう。』
頭の中では、研究者である私が色々考えているけど、欲張りすぎて決められないままなので、どうしよう。
『ドバくんは、なにかおすすめがある?』
ー『うーん、おすすめですか…』
『あ、じゃあさじゃあさ、ドバくんが普段あさやっていることに私も参加するということでいいじゃない?』
ー『あ、たしかに、わかりました。ナオ様が構わなければ案内します。』
『よしっ、じゃあ、ガイドさん、よろしくね。』
ー『わ、わかりました。』
ドバくんに連れられ、祭壇から少しだけ歩くと、とある家の前に止まった。
この家、見覚えがある。
ー『ナオ様、つきました。』
『ドバくん、ここ、あ、ドバくんの実家だね』
ー『はい、いつも朝は家族で一緒に御飯を食べるので。』
『なるほど、じゃあ、私ご一緒してもいい?』
ー『はい、大丈夫と思います。』
そう言って、ドバくんは先に入り、私はその後に続いた。
ー『ただいま、おはようお姉さん』
ーー『ドバおはよう、あ、神の代理人様?お、おはようございます』
イスルの長女タタと、その夫たちがいた。私を見てみんな慌てて立ち上がった。
『はい、タタさん、これは公事ではないので、お寛ぎのままで結構だよ。突然お邪魔してごめんね、ドバくんにお願いして連れてきてもらったの。あと、正式な場ではないので、私のことをナオって呼んでね。』
ー『はい、お姉さん、ナオ様は僕は朝どのように過ごしているのか知りたいとのことで、連れてきたんだ。』
ーー『あ、そういうことだね。ナオ様、わかりました。充分におもてなしできないと思いますが、ありのままの我が家の朝食風景をお見せします。』
『ありがとう、急に押しかけて迷惑かけた。』
私は、タタに案内されたところに座り、ドバくんも私の横に座った。向こうにはタタの旦那たちが座っていた。
奥のほうにあった部屋から、イスルとタタが料理を運んできた。
イスルたちが作ったのは、米と雑穀とさつまいもを蒸した…芋雑穀ご飯?のようだ。ちょうど一人分ずつ用意してくれた。
イスルたちも座ったので、さっそく皆で食べ始めた。
あっ、うまいなこれ、食材全部いっしょに蒸したので、さつまいもの甘味が雑穀米に溶け込んでいて、とても朝にいい優しさである。
研究資料の中にも少しこの雑穀米飯の紹介があったのを思い出したが、しかしこうして目の前に実物があって、実際に食べれて、実に幸せである。
あっ、ついつい研究者目線で見てしまった。これはいけない…のか?うーん、私は研究に生涯を捧げるつもりだからいいのか。あっ、いかんいかん、また脱線したよ。
ーー『ナオ様、いかがでしたか?お口に合わなかったら遠慮なくおっしゃってください。』
イスルが心配そうにこちらを見ていたが、私は幸せな顔で微笑んだ。
『イスルさん、これ、とても美味しい。とても朝にいい食事だ。私の分まで用意してくれてありがとう。』
ーー『よかったです。まだ少しありますので、もし足りなかったら仰ってください。』
しばらくの間、私はご飯に夢中だった。
初めての小説なので、
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