初日の締めということで、歓迎会に参加した
実験が終わったところ、タイミングよくタナワスさんが入ってきた。
ー『神の代理人様、大長老からの伝言です。「歓迎会は準備できたので、どうぞお越しくださいませ。」ということです。』
『わかった。じゃあ、タナワス団長、ドバくん、行こうか。』
ー『承知しました』
『そうだ、タナワス団長、用意してほしいものがあるんだ。』
ー『はい、お伺いします。』
『手に持ちやすいような大きさの竹炭を、とりあえず桶一つ分くらい用意してほしい。あと草紙、樹液、水、空のコップ、動物の毛の束か大型鳥の羽、なるべく真っ直ぐで丸くて指くらいの細さと手のひらの長さのある枝、そして染料、小刀も用意してほしい。用意できないものがあれば教えてくれ、また考える。』
ー『畏まりました。早速団員たちに用意してもらいます。』
『よろしく。』
タナワスさんが団員に指示を出し終わったあと、私達は神の祭壇から出て、集会所の近くにある広場にやってきた。
『大長老、待たせた』
ー『神の代理人様、いいタイミングでした。では皆、始めよう。』
大長老は、私を出迎えたあと、広場に向けて大声で合図を出した。
そして、素早く近くの人が、私のところに、丸太の椅子とテーブルを用意してくれた。
広大な広場のところに、全部で6箇所ある焚き火のところでは既に何人かが、料理を用意している。
当然私のところにも酒と食べ物が運ばれた。
近くのところでは、私の前方の左側に、複数人の男性が鼻笛、口琴、蘆笛、弓琴などの楽器を手に持ち、中央にいる初老の男性が合図を出すと同時に演奏をし始めた、
その初老の男性が、今度は、歌い始めた。
♫『ジカプカブナン〜ディビジンハダ〜ビリマルカゴ〜ボムムギアサマシカゴ〜』
これは、文献に数少なく残されたボアスア集落の飲み会の歌だ。研究者としては生で聞けて感無量だ、ありがとうよ〜神。
一回目の歌が終わったあと、今度は私の前方の右側で、控えていた複数の男女のグループがそれぞれ手を繋いでいくつかの輪になり、さきほどの歌を歌いながら踊り始めた。
これも現代の文献にはほぼ記載のなかった舞踊なので、こうして生で見れて私、めちゃくちゃ学者冥利に尽きてるな…
私が一人で感無量なときに、大長老が話しかけてきた。
ー『うちの歓迎会はこんな感じです。部族ごとに違うことは知っていますが、神の代理人様のいた未来はどんな感じかはわかりませんので、失礼なことがありましたらお許しください。』
『いえ、心配しなくて良い。私はあんまり歓迎会を経験していないので、そこまで違いが変わらないのだ。』
ー『であればよかったです。』
まあ、歓迎会の冒頭でいきなり歌ったり踊ったりするのは流石に現代ではあんまりやらないが、現存の先住民族の祭りのときならまだその習慣が残っている。
そういえば600人いるって聞いたけど、そこまで集まっていなさそう。
『ここには流石に全員は集まっていないよな』
ー『そうですね、中央集落は規模としては大きめなので、全員が集まるような広場は持っていません。ただし皆様はひと目神の代理人様ご尊顔を拝見したいとのことで、申し訳ございませんがこれから数日間はお付き合いいただけますでしょうか?』
『す、数日間!?分かった。私は問題ない。ちなみに普段の食事はどのようにとっているのか?』
私が知っている情報によれば、この時代では、食事は家とは別のところで、複数の世帯で一緒に取るのが主流のようだ。
ー『そうですね、ここ中央広場や、集落のあちこちにある空き地や広場にそれぞれ近くの人達が集まり食事をとっていますよ。』
『やはりそうですか、私が知っているのと同じですね。』
ー『そういえば神の代理人様が色々お詳しい方なのはご神託にもありましたね。私は理解のある方がこの部族を率いてくれることをとても嬉しく思っております。』
大長老はよっぽどうれしかったのか、もっている酒を一気に飲み干した。
『大長老は、酒に強いの?』
ー『少しですね、このぐらいなら明日まで残りませんので、明日はまたよろしくおねがいします。』
少しとはいえ、この飲みっぷりはかなりの酒豪のようだ。まあ本人は心配いらないと言ったので私としてはこれ以上の心配をするのも余計なお世話になるのだ。
そういえば、ダネブさんはいないな。
『そういえば、ダネブ戦士団長はいないようだが』
ー『はい、こういうときに限っていつもより集落の安全を心配しだすので、今は集落の周辺を巡回しています。』
『真面目で頼りがあるね』
ー『ははは、この部族最強のダネブですから、それはそうですね。あと、強さで言えばドバもこの集落のトップ3ですからたくさん頼ってください。』
『ドバ団長、褒められてるよ。』
ー『は、はい、恥ずかしいですが…、が、頑張ります。』
『そうだ、タナワス団長、そういえば私の自己紹介まだだよね、私はナオ・エ・ジャヴァイアンナ・ネ・ジョンホアだ。公の場以外ではナオって読んでくれて構わない。』
ー『承知いたしました。公の場以外ではそのようにいたします。』
とりあえず直属の団長である二人への自己紹介はこれで終わりだ。
あとは、この場で、大長老が私のことを皆に紹介するのを待つのみ。
私も一回酒を飲み干して、再度用意してもらった。
料理は、現代で言うジビエ料理に近いのか。いのししや鹿など、狩猟で取れた肉に、小米と野菜、そして果物などを中心に調理した、部族料理だ。
味は、調味料がそんなに入ってないので、少々淡白というべきか、素材の本来の味を存分に生かしたというべきかって感じ。
ただ、私は嫌いではない。
再びコップを空にした。
三度に酒を注いでくれたあと、大長老は立ち上がった。
ー『皆、今日はこちらにいらっしゃる神の代理人様の歓迎の会だ。神の代理人様はこれから我々一族を導いてくれる大事な方なんだ、今後集落で会うたびに失礼のないよう、しっかりとご尊顔を覚えてくれ。では、引き続き食事を楽しもう。』
そして大長老は再び座り、何度目かわからない酒を飲み干した。
私も紹介してもらったので、ほっとしたのか、普段より酒が進んだ。
途中に、今回集まった区域の中の町内会長的な立場の人達が挨拶にやってきたり、今日午後訪れた製鉄所の所長的な立場の人が挨拶に来たり、これから粘土を取るためにその指揮を任された人が来たり、料理長的なポジションの人が来たりと、とりあえず覚えておこう。
そういえばまだ図面をダネブ団長に渡していなかったな、後で炭の用意ができたら早速書いて渡そう。
そういえばのそういえばだけど、酒結構飲んだのに全然酔わないし、なんなら先の人達の顔もそうだけど、やたら今日一日のこと鮮明に覚えているよね。ってか詳細まで覚えている…。
……
……
あっ、あれか、「外部要因としての酒が体に対するダメージをすべて除外した。」だったのか、じゃあ記憶力が上がったのはなぜだ?
……
……
……こ、これはまさか「脳の内部要因として忘却による脳へのダメージを除外した」ってこと?いや、忘却の仕組みがわからん…どうだろう?現代でも脳科学分野ではまだまだ未解明なことが多いような話は聞いたことがある。まあいいや、私脳科学は専門じゃないし、今は歓迎会を楽しもう。
酔わないけど、本日何杯目なのか既にわからない酒を飲み干した。
6時開始で8時まで続いた歓迎会が終わり、私はタナワス団長とドバくんと神の祭壇に戻ってきた。
そして事務団員のシャーマンがタナワス団長に声をかけた。
ーー『団長、必要なものはすべて用意しました』
ー『ありがとう。ご苦労』
タナワスさんとともに祭壇内に移動し、用意したものを確認することに。
ー『こちらがご指示にあったものです。ご確認をお願いします。』
すごいな。2時間しかない中で、こんだけの注文を短時間で用意できたとは、うちの事務員、おそろしい。
『ありがとう、タナワス団長、それに短時間で集めにくいものもあるはずなのに、団員の皆とても優秀だね。』
ー『お褒めの言葉ありがとうございます。幸いご希望のものにつきましては、私達は在庫として普段持っておりますので、特に新たにかき集める必要がありませんでした。』
『それは意外だね。でもともかくありがとう。助かった。』
ー『いいえ、では今必要なものがあれば一緒にお運びしましょうか。』
『ありがとう。じゃあドバくんも、一緒に運んでくれる?』
ー『はい、承知しました。』
私はとりあえず全体的に細い竹炭を2つ、すでに草紙以外のすべてのものを、タナワスさんとドバくんに手伝ってもらい部屋に運んだ。
『じゃあ、今日はこれで終わりにしよう。二人とも疲れただろうから。ゆっくり休みな。』
ー『お気遣いありがとうございます。では私はしばらくしたら夜のものと交代します。』
ー『ありがとうございます。僕は向こうの部屋にいますので、必要であればいつでもお呼びください。』
二人を見送り、一旦今日残りの仕事を仕上げることに。
まずは、ペンを作って、ダネブ団長に渡す新しい製造所とレンガ窯の設計図を描くのだ。
私は大型鳥の羽毛を取り、カッターナイフのような刃物を取り出して、先端を削り始めた。
そう、羽ペンを作る。動物の毛の束、枝、炭や水、樹液は毛筆と墨を作るための材料だけど、時間がかかるので、まずは羽ペンで重要なことを先に終わらせたかったからだ。
まあ炭だけでも出来なくはないが、細かく描きたいので。
綺麗に先端を削り取ったあと、一旦羽ペンを置き、スマホを取り出した。
設計図を見るためだ。
残念ながら、何度も繰り返すが私の専攻は言語と先住民族の歴史文化なので、他の学問に関してはそこまで詳しくない。
また、レンガの製造に詳しくとも、レンガ窯の製造は全く別物なのだ。
だが、この一族の繁栄を導くプロジェクトを引き受けた以上、専門外だから勉強しないのは単なる甘えで、プロジェクトオーナー、プロジェクトマネージャーとして明らかに失格なのだ。
なので、禁忌の地で一度製造所と窯関連の本を生成し、軽くかじりながら、そこから使えそうな図面をスマホでパシャリした。
スマホに写る図面を見ながら、私は羽ペンの先端を染料につけて、草紙にかき始めた。
草紙に染料がうまく馴染み、とても書きやすかった。そしてすらすらと設計図の一式を書き終えたあと、一つに丸めた。
設計図を持って私は一度部屋の外に出て、ちょうどタナワスさんが交代の団員と話し終えたところだった。
『タナワスさん、ごめん、これ一式を、明日でもいいのでダネブ戦士団長に渡してもらえる?』
ー『畏まりました。では私の方でお預かりします。』
設計図をタナワスさんに渡したあと、ちらっとドバくんの部屋を覗いたら、既に爆睡しているようだ。
まあ、ドバくんは今日の途中からほぼ私についてあちこち回ったし、いくら体若くて強いとはいえ、いきなり集落のトップの人達と単独で接することになったので、それは肉体的にも精神的にも疲れるよな。
まあ私の今の肩書だと、ヴァティカーノのパパ様みたいに偉いのか?いやパパ様はあくまで人間だから比較できないのか。
それに、さすが神の力。どんなエナジードリンクよりも効いて、全然眠れないな。
部屋に戻り、ドアを閉めた。
さあ、あともう一息。
チャルマウセ:「ここに来てやっと初日が終わったね、ナオちゃんお疲れさま。」
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初めての小説なので、
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