荷物を整理して、ドバくんとちょっと実験をしてみた
ーー『ではナオ様、私はこれで一旦失礼しますね、歓迎会の開始前にお呼びしますので、それまではゆっくりとお寛ぎください。』
部屋の案内が終わり、大長老アクワヌさんは一旦歓迎会の準備をするためここで別れた。
私は、歓迎会が始まるまでの間に、とりあえず予定はないので、一旦部屋の中で休憩することに。
まあ「疲れ」という筋肉と精神への損傷が排除されたので、ぜーんぜん疲れないのは、つい昼までごく普通の人間だった私にとって、予想に反したこの感覚は少々もどかしく思わなくもないが…
それに、せっかくここに呼ばれて初めて与えられた「無」の時間だから、ありがたく受け入れよう。
そういえば、ずっと背負ってたな、このリュック。
「無」になってから初めて気づいたリュックの存在、やはり神の力の影響で、重さを感じられず、背負ってることすら忘れてしまった。
まあ、だったら背負ったままのほうが、何かを取りたいときにいちいち部屋に戻らずに済むし。でもせっかくだからちょっと色々整理しようか。
女子だから常に持ち歩いているものはもちろん、学生・研究者・学者だからの必要品を含めて、私はすべて持ってきた。
禁忌の地においてくることも考えたが、ここから少し離れているのと、その場で整理するのが面倒くさかったので、かばんを入れ替えるときはそのまま放り込んだのだ。
とりあえず、ここ私の部屋で分別しようか。
香水はいるかな?虫とかよってきそうだけど……いやどうだろう?……「精神」に損傷を与える外的要因として排除されるんじゃない?実際に今日歩き回っていたのになんにもなかったから持っておこう。あれ、ひょっとしたら現代技術の産物だから、私がつけてもこちらの生き物にはわからないとか?うーーんどうだろう、あとで実験してみよう。
目薬は?これは絶対にいらないな、乾燥という外敵は神の力でオールシャッドアウトだからね。よし、こいつはいったん棚においといて、今度禁忌の地に行くときに持っていこう。でも化粧ポーチにはファンデやカラーリップ、ペンシルなどが入ってるので引き続き必要だ。
手鏡は、いる。
歯磨きセットは…今までの理屈だと、恐らくいらないよね。神の力って便利だな…
学校と家の間の通学定期券も、いらないね。サングラスも紫外線による影響を除外したからいらないか、ファッションアイテムとして私は使わないし。
紫外線によるダメージを受けないなら、必然的に日傘と日焼け止めもいらないね。
財布は、中身は確実にいらないけど、今後こちらの通貨を持ち歩くときは必要かな。
あれれ、そういえば、もし今後私がこの時代のものをリュックや財布に入れたら、リュックと財布だけが見えず、私の体と同じように丸見えになるんじゃないかな?神に聞くのが一番早いけど、今すぐは無理だし、後でまとめて実験してみよう。
スマホ、イヤホン、ノートパソコンは要るけど、鍵はそのうち帰れたら必要かもしれないが、今はいらない。
手帳とノートは、何かを書き残すために必要なので、ついでにペンもそうか。
あっ、そういえばこの集落に紙ってあるかな、もしくは布?このペンでちょっと実験してみたい。
名刺は、いらない、確実にいらない、私はここでの肩書は、ダイバ首都大学の学生ではなく、神の代理人だからね…いつかここで作る時が来たら相当インパクトのある名刺になりそう…そのときは、中二病と思わなれないかな?いや一部の異民族にとっては抹消したい存在かもな、こっちのほうがこわい…いや私死ねないから心配いらないのか…。
ハンカチ、いるかな。トイレに行くのは必要でなくなったけど、水を触ったりしたら拭くためにいるはず。
そういえば化粧落としは持ってきていないけど、でもあれか、禁忌の地で念じれば一気に消えるし、それまでは化粧しっぱなしによる皮膚へのダメージも神の力で発生しないことになった。つまりここですっぴんをさらさずに済むのだ、すごい。
まあ学校に行くときは割と面倒くさくて日焼け止めだけで時短化粧すらしないこともあるけど、今年に起きたパンデミックでマスクをすることが普通になったあとは、ますます化粧しない回数も増えてきた…。
お風呂は恐らく入らなくても、代謝による皮脂の発生とその皮脂を分解する際に発生する匂いも一切ないので、無理にこの時代の入浴方法に従わずに済む…当分は禁忌の地での楽しみってことで。
そのうちハン族の沐浴文化を導入しないとな、ジッブン族の沐浴文化もいいな。あ、そういえば、この時代はジッブン族はまだ鎖国前だから、たしかに割と海外のあちこちに拠点を持っているはず…ロッコの港かその近くにないのかな?
ジッブン国は鎖国後、海外のジッブン人町も母国との交流が途絶えたため現地の民族と同化して消滅したので、あんまり後世まで情報が残らない。今度ロッコの港に行くときに聞いてみよう。
ジッブン族の沐浴文化といえば温泉、フォルサの温泉ですでに噴出しているところは北部か東部に集中している。少なくともここボアスアの集落には自然噴出のものがない。
まあ温泉の定義とは、地熱に温められた25度以上の特定物質が一定量以上含まれた液体や気体なので、正直地下に深く掘れば、場所はどうであれそれに当たる地下水が大体湧き出るので、ボアスアでも粘り強く掘れば出る。ただその場合は殆どがいわゆる単純温泉に分類される。
去年ジッブンの東北に遊びに行ったときは、ほぼ毎日入ったな…温泉。そして、あいつと更に親睦を深めるチャンスを作りたかったのに結局うまく行かず、あーくやしいーーーーーー。
あ、いかん、この旅の回想を続けるとまた長くなりそう。一旦ストップ
とりあえず今の沐浴とトイレの場所を視察しよう。ひょっとしてお風呂はハン族の影響の中ですでに集落内でも持つようになったのかもしれない。じゃなければ基本的に近くの川で入浴すると思う。この集落の北には小さな川が流れているので、恐らくそこを利用しているのかな。うん、これは聞いてみよう。
トイレは、公共衛生と関係するとても大事な場所なので、できれば行きたくないが、今後のためにもやはり一度は視察しないと。まあ見たところで恐らく神の力の影響で臭わないし気持ち悪くもならないけど…
あといくつかを分別したあと、私は立ち上がり部屋を出た。
ちょうど反対側の少し斜め奥の部屋を覗いたら、ドバくんがものを整理している。あっそか、今日転居すると決めたけど、流石に私がくるまでに全部のものを持ってこれないから、やっと今は整理の時間があったもんね。
私はとりあえず神の祭壇にいる近衛事務団長のタナワスさんに声をかけた。
『事務団長、紙、もしくは布は用意できる?このぐらいのサイズの』
私は両手でA3ぐらいの大きさを示した。
ー『物を包むための草紙でしたら用意できます。』
『じゃあそれを何枚かもらいたい。』
ー『畏まりました。すぐに用意いたします。』
そう言って、事務団長は私から離れて、入口近くの事務団員に指示を出しに行った。
そして私が再びドバくんの部屋を見ると、整理が一段落したのかちょうど立ち上がったドバくんと目があった。
『ドバくん、整理、終わった?手伝おうか?』
ー『あっ、い、いいえ、神の代理人様に手伝っていただくなんて恐れ多いです。ちょうど今終わりました』
『そか、よかった、じゃあちょっとこっちに来てくれる?』
私が微笑んで手で招いたら、ドバくんが慌ててやってきた。
ー『は、はい、神の代理人様、なんでしょうか?』
『そういえばドバくんは私の名前をまだ知らないもんね、私はナオ・エ・ジャヴァイアンナ・ネ・ジョンホアだ。こういうときは私のことをナオって呼んでね。』
ー『えっ、神の代理人様、それは、よ、よろしいですか?』
『うん、これからは私の直属で専属だからね、二人の時間が増えるので、肩書で呼ばれると気が抜けないのよ。だから名前で、ね』
ー『しょ、承知しました。ではナオ様とお呼びします。ナオ様、どういったご用件でしょうか?』
『そうね、ちょっと協力してほしいことがあるんだ、一旦私の部屋に入ろう』
ー『承知しました。』
そしてちょうどその時、タナワスさんから草紙をもらったので、それをもらってドバくんを連れて私の部屋に入った。
ー『お、お邪魔します』
『そこに座って、楽にしててね、あと、公の場じゃないから、敬語抜きでも私は気にしないから、楽に喋ってね』
ー『は、はい、か、わ、わかりました。』
私の意向に合わせて慌てて言葉を変えようとしたらまた噛んでしまったか、相変わらずかわいい〜、あっ、ゴホっ、とりあえず実験を始める。
ドバくんをテーブルの部屋の入口側に座らせ、私は反対側に座った。
『これから私がやることは、他に人には絶対に言わないでね。』
ー『わかりました。』
『いい子、じゃあ始めるよ。』
まず、私は、タナワスさんからもらった草紙を一枚手に取り、半分ぐらい折ってから、リュックにしまった。
そしてリュックをローテーブル上に置いた。
『ドバくん、さっきの草紙見える?』
ー『いいえ、僕には何も見えませんが…』
『そうなんだ、じゃあこうしたらどうだ?』
私はローテーブルに置いたリュックから草紙を取り出した。
ー『はい、途中から現れました。まるでどこから取り出したかのような感じです』
『なるほど。そうみえるんだ…。わかった。』
どうやら、紙は透けて見えない。これをどう解釈すればいいのかはわからない。なぜなら少しこれまで私が理解した理屈と異なったからだ。
服の場合、服だけ透明になるので、体は見えると神は言った。
同じ理屈であれば、紙はかばんが透明になることで見れるはずだ。
なんでだろう…便利じゃ便利だけど、理屈が通らないのはちょっと歯がゆい。
まあ、今度聞いてみるとして、次の実験に進もう。
そして私はリュックを下ろして、先程の草紙を広げて、ペンを取り出した。
もちろんペンは見えないはずだ。
『今ここになにか見える?』
ー『えっと、草紙?それ以外は何も見えませんが…』
『そうだよね』
これは理屈通りだ。
『じゃあ、草紙をしばらく見てね、なにか見えたら言ってね』
ー『は、はい』
そして、私はボールペンを持って、草紙にオーストシア古代文字を書き出した。
ー『……』
とりあえず一行を書き終えたが、とくに反応はなかった。
『特に何も見えなかった?』
ー『は、はい、ナオ様の腕と指が動いているだけど、ほかは何も見えませんでした。』
『なるほど』
どうやら、「結果の作用」が見えるのは、私の体に対してだけのようだ。
であれば、文字を教えるときに、予め炭かインクを用意して貰う必要がある。
うん、後でタナワスさんにお願いしよう。
そして最後の実験をするため、私は立ち上がった。
『ドバくん、ちょっと立ってて。』
ー『はい、わかりました』
そして私は自分の左の頬をドバくんの鼻に近寄せた。
ー『えっ!えっ!?なっ』
『ドバくん、私なんか匂う?』
ー『え、え、そ、そ、それは…』
ドバくんはめちゃくちゃテンパっているようだ。
『いいから落ち着いて答えて、私の顔とか髪とか首からなんか匂いした?』
ー『う、う、は、はい、微かに花の香りがします』
ドバくんは観念したのか、顔を真っ赤にして私の質問に答えた。
『そっか、わかった。ちょっと待ててね、もう一回してもらうから。』
そう言って、私は一旦ドバくんから一旦離れて、そして自分の頭上に向けて香水をワンプッシュした。
まあ私はこういう香水の付け方なのでね。あと私が使っている香水はあのDブランドのフルーティーなやつだから。さっきドバくんが花の香りといったのが気になったのだ。
確かにここに来てから一度禁忌の地でお風呂に入った。そしてその後はつけ忘れたのだ。確かにつねに綺麗なので体を洗う必要はないけど、お湯だけでもなんか違うからシャンプーとリンスとボディソープを使ったのだ。そしてたしかにそれらは全部花の香りなのだ。
だけど、確信がない、なぜなら、横の棚には、イスルさんの次女シロゴちゃんからの花束が置いてあるからだ。あとは、立場の関係で、礼儀にもドバくんは私に対していい匂いがすると言わないといけないという可能性もあるのだ。
そしてフルーティーな香水シャワーを浴びたら、再びドバくんの顔に近づけた。
『どう、なんか変わった?』
2回目なのか、さっきのような緊張ぶりはなく、少し落ち着いたドバくんが匂いを嗅いでくれた。
ー『はい、さっきの花の香よりだいぶ強い果物の香りがしました。』
やったー。やっぱあれだ、直接体に作用する結果、匂いが無事に残ったのだ。
今度禁忌の地に行ったら、DブランドとかYブランドとかCブランドとか、とにかく香水を大量に作っておこう。いろんな香水を楽しめて毎日が楽しみ〜
『ありがとうね、ドバくん。これで色々わかった!ドバくんがいて助かったよ!』
そして私は無意識に昔弟にやったように、ドバくんの頭をナデナデした。
ー『い、い、いいえ、ど、ど、どういたしまして。』
ドバくんは、一旦落ち着いた様子から一変して、先程より顔が赤くなって慌てだしたようだ。
初めての小説なので、
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