粘土層の確認をしたが、初日はまだ終わらなかった
ドバくんたち護衛と一緒に、大長老たちがいる集会所までやってきた。
中に入ると、大長老たちはすでに伝達などの業務を終え、雑談をしながら休憩している。
私を見ると、みんな慌てて立ち上がって挨拶しようとしたが、私が止めた。
『皆、そのまま休んでくれ。ここ数日お疲れであろうに、明日も会議があるので、もうしばらく頼むね。大長老と東の長老、お二人だけ申し訳ないが今から粘土の確認をしよう。それが終われば今日はこれで終わりだ。』
ー『神の代理人様、ありがとうございます。では早速行きましょうか、ご案内します。』
大長老の案内に従い、私たちは中央集落を出て、東へ進んだ。
途中までは、禁忌の地への道と一緒のようで、そこから別の分岐に入りしばらく進んだところ、山の麓までやってきた。
ー『神の代理人様、お待たせしました。こちらになります。』
『ありがとう、そういえばこの道、途中まで禁忌の地のと同じだったような』
ー『はい、私も先代の巫覡に案内されるまで知りませんでしたが、途中まで一緒でした。ちなみに禁忌の地への道は、北のダデイ集落に向かう道でもあります。』
なるほど、北の集落にはそこから行くのか、であれば少なくともこのふたつの道に関しては比較的安全のようだな。ただ道路の整備がされておらず、まあ足以外の交通手段をほぼ使っていないこの時代の先住民たちにとっては、人さえ通ればいいんだもんな。
これから馬車とか牛車とか人力車も作りたいので、道路の整備も早いうちにスタートしないとな。
おっと、いかん、先に粘土層の確認だ。
『ありがとう、ちょっと土見てみるね』
あ、そういえば、ハッケ山自体は砂岩の地層も露出しているはずなので、砂岩を採掘して石城を作る手もあるか、うーーん、レンガとどっちがコスト低くどっちが早いのかな…、まあ併用することもありうるし…
残念ながら私のその場しのぎの建築知識では、やはり正確な判断が難しいので、とりあえず一番詳しいレンガ作りを最優先に考え、石材の採掘については一旦先送り。
また、粘土をそのまま使って土城を作る案もあるが、まあこちらは明らかに強度が低くくなるので不採用だ。
確認した結果、この粘土層は普通に使えるとのことだった。これからはここに採掘拠点を置こう。そして採掘してた粘土は、本来はその場でレンガ焼成した方がスムーズだが、できれば戦士団の生産力を最大限に上げるため、同時に製鉄もできるあの広場で焼成することに集中しよう。
うん、そうしよう。そうすればこの採掘現場では、粘土の採掘と運搬のリソースだけですむはず。仮にここで焼成までやってしまうと、木炭などの燃料の運搬、焼成のリソースが、製鉄所とは別に発生するので、その管理まで人員を増やさないといけないので、どう考えても遅くなるはず。
順調に生産が始まり、さらにガダンでの開拓が始まれば、そのときに初めて、専門の窯業組織を立ち上げるかを考えるとしよう。
『大長老、ここにこの粘土を採掘する拠点を置きたいんだ。採掘した粘土は、中央集落内にある製鉄広場まで運び、そこでこれから作る焼成窯でレンガを作る。』
ー『承知しました。戻ってから直ちに手配します。ちなみにこの粘土で作る「レンガ」とは、何に使うものなのか教えていただけますか?』
『このレンガというのは、石のように硬い建築材料なんだ、耐水性にも優れていて、とても素晴らしい建材なので、このレンガで集落を囲む城壁を作ることで、これから長い間にわたりこの集落を外敵から守ることができる。』
歴史上では、19世紀あたりから城壁としての軍事上のメリットが存在しなくなるが、今はまだ17世紀初頭、少なくともこれから先200年間はまだ軍事的な意味を持っているはず。
19世紀後半、この島を統治し始めたジッブン国は、ここを支配したドゥリンバイ王朝時代に大量に移り住んできたハン族によって建設された城が、現代化を妨げるとして、次々と解体されてしまった。
まあ現代でも地下深くにでも掘らなければ最終兵器でも投下されれば全て終わりだ。
あっ、脱線した。
しかし、集落で感じた、ハン族との接触で受けた影響が一部見られたのに、レンガが一緒に伝わっていないのは、やや不思議だけど。まあ多分時間の問題かな。
ー『それはすごい建築材料ですね、承知しました。では、戦士団員のみならず、できるだけ人員調達して作らせていただきます』
『ありがとう、助かるよ。ちなみに、どのように運ぶ予定なのか?』
ー『大きな壺や桶にいれて、頭に乗せて運ぶ、もしくは棒の両側にぶら下げて担ぐ予定です。』
『なるほど…わかった。』
この時代の先住民族ではまだ家畜がいないし牛車や馬車はもちろんのこと、家畜がいなくても使える猫車と呼ばれる一輪車に近いものもないので、必然的に頭上運搬か天平棒運搬になるんだよな。
現代では、よく先住民族式の結婚式や祭りなどにお邪魔したときに、牛車を使う光景が目に入るが、あれは少なくともハン族が影響力を拡大したあと、ハン族を見様見真似で始めたのだ。
別にこういう進化は悪いことではないので、むしろなんでこっちのほうの影響はないのかと思ったが、まあ生活習慣を大きく変えることに関しては、まだそこまで接触の頻度がないこのタイミングでは時間がかかるのもしょうがない。
すでにこのぐらいの人口規模の集落になったのは、やはり接触の影響が大きかったに違いない。この時代の先住民族は、基本的に原始農業の一つであり、集落の移動が伴う移動農業が主流だった。そのため、集落を囲む耕地が限られ、人口規模は多くてもせいぜい200〜300人で、それ以上はめったに上がらない。
しかしながら、まだ視察していないとはいえ、現時点の情報を私なりにまとめて推測すると、少なくともボアスアの中央集落は、仮にまだ移動農業集落であっても、既に集落の移動が伴わなくなったのだ。
作物をうまく外の集落から調達してうまくバランスがとれているだけの可能性もなくはないが、こればかりは実際に農地を見てみないとわからない。
ともあれ、私としては農耕や戦争にも使えるので、牛車と馬車はすぐにでも導入したい。そうだな、一通り視察が終わり、集落自体の体制に問題がなければ、指示を出そう。
ただし、家畜の飼養も正直言って私の専門外なので、覚悟を決めて禁忌の地で勉強するか、早めにハン族やネーデルランド人と接触して技術を集落に伝授してもらいたい。
そして先程集落の中心部からここまでの所要時間を図ったが、20分ぐらいだった。つまり1.5kmから2km弱くらいかな。うん、そこまで遠くはないし、一旦人力で行こう。一輪車を作りたい気持ちは山々だけど、武器の製造が先なので、作るならそれからだ。
『ちなみに東のバグアン集落まではまだかかりそうか?』
ーー『はい、ここまでのさらに数倍はかかると思います。』
『わかった、帰りを考えると今日はもう時間がないので、後日改めていく』
ーー『はい、承知しました。その時は私が集落をご案内します』
そして、私達は集落に戻ることにした。来た道を折り返すだけで、特に難しいことではなかった。そして私は再び大長老に聞いた。
『大長老、この集落にハン族の人間はいるのか?』
ー『ここ中央集落には、私が把握している限りまだいません。』
『私の知識からの推測では、すでにいくつかのところでハン族からの影響を受けているが、特にまだここに住んでいたりしていないのね』
ー『はい、ハン族は基本的にロッコの港にいます。しかし私が聞いた話では、西のアソック族の集落では、結婚して定住したハン族もいて、今もその後裔が住んでいるとのことです。』
『やはりそうなるか』
ー『はい、ロッコの港とアソック族は直接の交流があるので、必然的にそういう機会もあると思いますね。』
『西の集落にはまだいないのか?』
ー『西の集落には、直接にハン族が移り住んできたことは把握していませんが、先程お伝えしたアソック族の集落にいたハン族の後裔の一部がいるようです。』
やはり、影響はちょっとずつだね。しかし一方で、ロッコの港はもっと昔はバブサ族の集落だったはずで、「ロカウアン」という名前だったが、この時代ではすでにその名前ではなく、ハン族というかその一支であるバナン族語らしい発音に変わってしまった。
つまり、あそこはもうハン族支配の街と見ていいだろう。
あっ、そういえばもう一つ、お願いしないといけないことが…
『大長老、やってほしいことがあるんだ。』
ー『ご命令をお伺いします』
『ボアスア集落から東のバグアン集落の道、そして北のダデイ集落の道、ちょっとずつでよいので、その道幅をもっと広げてほしんだ。最終的に今の4倍くらいまで広げたい。』
ー『承知しました。恐縮ですがその理由もお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『今後、運搬用具、もしくは動物による運搬を導入したいんだ。そうするとものの運びは便利になる』
ー『承知しました。教えていただきありがとうございます。』
『ちなみに、西と南、西南方面への道も、余力があれば整備してほしい。』
ー『承知しました。時間と人員の調整をして、計画を整えたらお伝えします。』
『急いではいないが、頼んだ。』
初日ですでに四回も通ったこの道、両側は遠くまで低い草原が広がり、草の高さは大体私の身長の半分くらいかな。近くに同じボアスア族の集落しかないので概ね安全だが、そうじゃなければ急襲を受けやすい環境でもある。
自然破壊は好きではないが、しかし今は安全のほうがもっと大事なので、これも早めになんとかしたい。まあ焼いちゃえばいいと思うけどね。集落への延焼を防ぐために、その前に集落の周辺は予めある程度刈らなければ…
そして集落の入り口が目の前に見えたところ、私はもう一つ重要なことを思い出した。
『大長老、私の住むところはあるのか?』
ー『ご心配なく、7日前からこの日のために、すでに用意してございます。』
『う、うん、それは素晴らしい。』
確かに7日前からあの剣光ってたもんな。そこまで時間があれば十分用意できるもんね。
ー『また、夜には歓迎会がございますので、お住まいまでご案内したあと、集会場にお越しくださいい。』
まさか、歓迎会まで用意されてるとか…さすが大長老、準備周到だ。
初めての小説なので、
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