大長老たちに、集落の軍事力を聞いた
話はスタートしたけど、とりあえず長老と思われる人達のことと一番懸念だった軍事力と外敵から聞こうか。
そう思い、私は口を開いた。
『まず、私は今日ここに呼ばれたばかりなので、皆のこと、そして皆からこの集落、このボアスア族の現状について教えて欲しいんだ。』
ー『まず大長老である私から説明します。我々ボアスア族は現在、ここ主要集落を含めて、すべて6つの集落を持っています。この集落の東、西、北、南、西南に、それぞれ一つの集落があります。人口は全部合わせて大体2000人ほどです。この主要集落が一番多くて、大体600人です。農耕や編み物、道具制作、戦士に従事しているものが多いです。』
ーー『私は北のダデイ集落の長老です。私たちの集落は人口が凡そ200人で、川に近いので、主に漁労で生計を立てています。』
ーー『私は東のバグアン集落の長老です。この集落は山にあるので、狩猟と採集をメインにしています。人口はおよそ300人です』
ーー『私は西のカリセン集落の長老です。私たちは西にいるアソック族と交流を持っており、他の集落からのものをアソック族、そしてアソック族を介して、さらににしにあるロッコ集落で港を持つハン族と物々交換を行っています。人口はおよそ400人です。交易に従事したり、護衛の仕事をするのがメインです。』
ーー『私は南のナムゴ集落の長老です。私たちの集落は南のダボー族とは交流を持っています。西の集落ほどの規模ではありませんが、他の集落からのものを南にいる部族、そしてその部族を介してさらに南にいる他の部族との物々交換をしております。他に狩猟や小規模な農耕をしています。人口はやく300人です。』
ーー『南西のベビン集落の長老です。人口が200人ほどいるこの集落は、近くにいるベジレン族と友好な交流を持っています。主に狩猟をしています。」
まずこの自己紹介だけで、分かった情報が多かった。
一つの集落の平均規模が200人前後のほうが多いこの時代では、6つの集落だけで2000人もいるこの部族はおそらく中堅の部類に入るはず。まあ川を挟んですぐ北には確かにミダッホという、後にネーデルランド人が「王国」と呼ぶ大型連合集落があるけどね。
そして、農耕はあるにしても小規模のようで、ここ中央集落と南の集落だけで行われている。人口の規模を考えると、まだまだ全体的に拡大の余地があるはず。別に農耕だけじゃなくとも、東の集落がやっている採集を例えば果樹栽培に発展させたり、北の集落の漁労も技術改良をした上で、畜産または農耕も並行して行うことができるかもしれない。
中央集落には人口の立点と、他の集落に囲まれているため恐らく周辺敵対部族からの侵攻が少ないだろうという点を活かして、あらゆる産業の生産性向上を目指してもらうことにしたい。
南の集落とその南にいるダボー族は、おそらくガダンに近いはず、ダボー族とは交流を持っているのであれば、おそらく敵ではない、であればガダンについて聞いてみよう。場合によっては近いうちに開発できるんじゃないかな。
南西の集落と接しているベジレン族とは、説明だと今は友好な関係であるので、こちらは早いうちに訪れてみたい。
あと、西の集落はアソック族を介してハン族との貿易をやっているんだね、今は物々交換しているが、今後部族の規模が大きくなれば通貨の発行を始めよう。そうすればもっと有利に貿易が進められるかもね。
また、この時代では、ハン族最大の商船隊を率いるリタン氏がいるはずで、確かにフォルサ、大陸、ルーチュークク、ジッブンの間で数多な拠点と航路を有しており、そして後に弟子となったデン・ジリュー氏が、たしかに来年配下に加わるだろう。
であれば、このフォルサでも古くからハン族が拠点として利用しているロッコにも、確実にリタンの拠点があり、そして定期的に寄るはず。リタンから直接仕入れたいものがあるので、できれば早いうちにロッコまで足を運びたい。
周辺部族の名前では、私の時代に残された情報で読み解くと、ベジレン族とアソック族の名前は明確にバブサ族の集落名として文献に記載されているので、同じく集落名として残されたボアスアとは似たような規模を持つだろう。ダボー族はボアスア族の各集落と同じく、街の隅っこのような地名としてしか後世に伝わっていないので、恐らく小規模。
そしてこれらの集落と交流を持っているのであれば、お互い敵対することが多いこの時代では同じバブサ族の確率が高い。
そういえば、周辺部族の情報についてはまだ足りていない。
『北と東に関しては、周辺部族の情報はないのか?特に脅威となりうる部族については』
ーー『我々ダデイ集落の川を挟んで北側にあるミダッホは、大変大きな集落であるが、特に我々と敵対はしておらず、普通に交流を持っています。漁労では時々助け合っています。しかし東側と、川を挟んで東北側には、それぞれバロッチ族とアタブ族がいます。どちらも敵対部族で、私達は度々攻撃を受けていて、とても悩まされています。バロッチ族の更に向こうにはパクド族とラムド族がいるようですが、特に交流を持っていませんし、バロッチ族から攻撃を受けたときは、バロッチ族にパクド族とラムド族が加わっているかは不明です。』
ーー『私たちバグアン集落は山にいるものの、山の中で整備された道路がないので、特に脅威を受けていませんが、東にいるバロッチ族のことについては聞いております。』
ーー『私がいるナムゴ集落の南にいるダボー族の話では、そのダボー族は度々山のバコ族からの攻撃を受けているみたいで、とても困っているようです。』
ミダッホに関しては、予想通りだった。現代で見つかった文献でも、ミダッホは多部族からなる弱い部族連合体であり、ネーデルランド人に王国と呼ばれて、人口も領土も大きいはず。
しかし彼らは特に領土拡大に興味を持たず、ここから100年ぐらい先までは、ネーデルランド人とデン・モリ一族との戦争を経て臣服しても独立した勢力を維持しつつ、1730年代に大陸からやってきたドゥリンバイ王朝によって滅亡させられた。
私が来なければ、確実にここを含めてこのあたりの部族が連合体に参加しそうだが、勧誘や攻撃はこないはず。
そしてここまでの情報を聞くと、今の所、直接別の部族からの攻撃を受けているのは、北のダデイ集落だけのようだ。
東の集落はおそらくハッケ山にいるので受けやすいのではと思ったが、どうやら杞憂だった。であれば、ハッケ山の開拓はしやすそうだ。ハッケ山から北、西、東への眺望がよく、歴史上はよく戦争時の防衛拠点として利用されて、上手く開拓できれば戦略的な拠点として使える。
一方で、南のダボー族が受けている攻撃が、東の山からのものであれば、おそらくその攻撃の問題を解決しないとガダンの開拓は難しそうだ。うーーん。
『分かった。とりあえず北の集落が受けている攻撃の問題を優先的に解決した方がいいと思う。このボアスア族の武力について教えて欲しい。』
ー『承知しました。では、戦士団長のダネブ、説明よろしく』
ーー『はい、まず戦士団全員は、220人、緊急時は追加で250人ほどの予備団員が対応できます。』
大長老からの指示を受け、戦士団長のダネブが説明を始めた。
ーー『そのうち、中央集落とその周辺には80人いて、攻撃の受けやすい北の集落には50人の分団が常駐し、南の集落には40人、特に周辺に敵対部族のいない西の集落、西南の集落と東の集落にはそれぞれ20人います。』
ーー『また、西の集落には護衛に従事している人たちがいますが、彼らは戦士団ではなく、護衛団という組織に属しています。』
『護衛団とはどんな組織?』
ーー『護衛団とは、西の集落が独自に持っている、戦士団に近い機能を持つ組織です。アソック族やハン族との交流で、相手に対して敵対をする意思はないと見せるため、あえて戦士団ではない護衛団から護衛を派遣して、交流の方達を守っています。』
『護衛団の規模はどのくらい?』
ーー『それについては、私がお答えします。私たち西のカリセン集落では、護衛団という組織に従事しているものは大体50人です。』
なるほど、要するに軍隊だと交流する相手の領土に勝手に入ってはまずいので、SPや警備隊に近い名前の組織にしたのだ。しかも50人もいる。
『護衛団の戦闘能力は、戦士団と同じなのか?』
ーー『はい、私たちカリセン集落では、護衛団と常駐している戦士団は普段より同じ集会所を利用し、同じ訓練を実施しています。また、自身の意志で護衛団から戦士団に移動し、逆に戦士団から護衛団に移動する戦士もいます。』
『分かった。ありがとう。それと大長老、2つ聞きたい。予備団員は各集落にどのくらいいるのか、そして普段は訓練しているのかだ』
ー『こちらのご質問については、戦士団長が詳しいです。戦士団長、説明を』
ーー『はい、私たち戦士団においては、予備団員は基本的に正規団員と同じ割合で各集落に配置しています。普段は他の仕事に従事しており、全員同じ日ではないが、十数日間隔で訓練を受けています。』
この集落の今の軍事力についてはよく分かった。まあこの時代は労働階級は明確に区別されないので、聞いた感じだと軍人が全体を示す割合が多いようだけど、恐らく普通のことかもしれない。しかし北の集落が受けている脅威を早く解決したいので、少し調整をしよう。
『大長老、戦士団の各配属先の人数調整を行いたいが、よろしいか?』
ー『承知しました。ご指示いただければ、戦士団長を通じて直ちに行います。』
『正規団員を西の集落から20人、西南の集落から5人、東の集落から5人、中央集落から10人、計40人を、全て北の集落に配置。あと中央と西の集落から合計で20人ほど、北の集落に行ってもこれまで通り仕事ができる予備団員を集めて、同じく北の集落に配置しろ。北の戦士団には支団長はいるのか?いるなら、全員その統括下に置き、通常の2倍頻度で集中訓練をするように。集中訓練の頻度については、中央集落の予備隊員にも適用しろ』
ー『承知しました。直ちに手配します。』
バロッチ族もアタブ族も、私の時代でも明確に集落名として記載されているはず、確かどちらもアリクン族だ。そうすると両部族あわせるとかなりの規模戦士で攻撃してくると想定し、防衛だけするなら今の体制でも恐らくたりそうだけど、今後のためには、殲滅、捕獲もしくは敵地まで反撃できる規模の部隊を用意したい。
ダボー族が受けているバコ族の名前は特に印象に残っていないので、そこまで規模は大きくないだろう。それにダボー族が最前線であればうちとしては必要になれば防衛に支援するくらいの体制を整えればいい。
懸念点としては、私の記憶では山から東を少し進むまで南北の広範囲に渡り、アリクン族が広く分布していたので、そのバコ族が実はどこかの支族の1集落でしかない場合もありうる。例えばさっき長老の話にでてきたパクド族やラムド族は位置関係上近いしな。
まあ、考え出すときりがない…とりあえず残りの指示を先に出そう。
『西の集落はこれで戦士団は予備団員の十数名になるはずだが、その十数名を交代体制で集落の要所の警備など戦士団の業務を引き継ぐことにし、残りの戦士団業務は護衛団で受け持つように。』
ーー『承知しました。私たちカリセン集落のものに今すぐに伝達します。』
私の指示に、大長老と、西の集落の長老がそれを受けて、後ろに控えている戦士団長やシャーマンに指示を出した。
『それと、戦士団の武器と防具、それと製造所も確認したいので、後ほど案内よろしく』
ー『承知しました。会議後に、戦士団長に案内をしてもらいます。』
『あと、大長老、教えてほしいが、山もしくはその近くに、粘土、つまりネバネバする土がたくさんある場所、知ってる?』
ー『はい、東のバグアン集落の入り口の近くに、そういった場所があると聞いております。』
『分かった、武器等を確認したらそこに行こう。』
北以外は割と平和である今なら、外敵問題に関しては一点集中の対策で対応できる。
そして武器と防具の状況確認、必要となれば技術の改革を行うとしよう。
防衛については、レンガは試行錯誤を含めて時間が少しかかるが、他に今すぐにできることから始めよう。
とりあえず、まず軍事面では、目先のやることがわかったので、一歩前進だ。
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