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石の花

作者: 赤亀たと

 とある広い草原に、一輪の小さな花が咲いておりました。その花は毎日ため息をついていました。


「ああ、どうして俺たち花っていうのはこんなにも弱いんだろう。誰かに踏まれればすぐに折れてしまう。簡単に摘まれてしまう。簡単に吹き飛ばされるし、散ってしまう」


 花がそう思う少し先で、人間に摘み取られる花々がありました。人間が言います。

「この花はいい薬になるのよ。これで坊やも元気になるでしょう」


 そのそばでは、馬に踏みつけられる花々がありました。馬が言います。

「ああ、気持ちがいい。日向ぼっこをしながらこうして体を地面にこすりつけるのは、気持ちがいい」


 さらにその先では鳥についばまれたり、蜜を吸われたりする花々がありました。鳥が言います。

「ああ甘い。もう少し飲もうじゃないか。ああ、甘い」


 明日は我が身。花はそう怯える一方で、花の気持ちも考えない他の生き物が憎くて仕方がありませんでした。


 ある日の晩、花は空に向かってお願いをしました。

「ああ、どうかお願いです。私を強い強い花にしてください。そうですね、まるで石のように丈夫な花にしてください。誰に踏まれても折れることなく、摘まれることもなく、散ることもない、かたいかたい石の花にしてください」


 すると次の日、花は石の花になっていました。花はすっかり喜びました。もうこれで踏まれる心配も、摘まれる心配も、散る心配もないのです。


 花は自分を踏もうとしたり摘もうとしたりして、傷つく人間や生き物を見てせいせいしました。

「ほらみたことか。俺を簡単に踏もうとするから足なんて切るんだよ。お前もそうだ。俺を摘めると思うなよ。この俺様を引っこ抜こうとしたんだ、指をケガするのなんて当たり前だ。なんてたって、俺様は石の花なんだから」


 すると草原に来る人々は、この花をなくしてしまおうと思うようになりました。

「あの草原には危ない花がある。これ以上誰かが怪我をする前に引っこ抜いてしまおう」

 人々はそう言って花を引き抜こうとしましたが、大地に強く石の根を張った花を抜くことはできませんでした。やがて人々は諦め、花はさらに威張りました。


「誰も俺を傷つけることなんてできやしないんだ。もう俺様は、誰にも傷つけられないんだ」


 そうして石の花は人にも馬にも鳥にも怯えずに咲き続けました。


 ある日、草原のかなたから小さな悲鳴が聞こえました。野ネズミです。野ネズミがキツネに追いかけられていたのです。いつもならキツネに踏みつぶされないか怯える花でしたが、今はもう違います。キツネがこの体を真上から踏みつけようと、石の花が折れるはずがないのです。


 段々と野ネズミの叫び声は近くなり、キツネも花の方へとやってきました。野ネズミは命からがら逃げ回っています。すぐ後ろまで迫るキツネから必死で逃げています。野ネズミが逃げると草原のあちこちの花が舞い散りますが、石の花は素知らぬ顔で見ています。


 いよいよ野ネズミは石の花のそばまで逃げてきました。しかしそこに石の花があるなんて知らない野ネズミはしたたかに頭をぶつけてしまいました。野ネズミは気を失ってしまいました。石の花は慌てて野ネズミに声をかけます。まさか、自分にあたって野ネズミが気を失うなんて、考えてもいなかったのです。


「おい、野ネズミ、さっさと起きろ!早く起きないとキツネに捕まるぞ!」

 しかし野ネズミはピクリとも動きません。もう一度声をかける間もなく、野ネズミはキツネに捕まってしまいました。


 石の花は呆然としました。まさか、こんなことになるなんて思っていなかったのです。今まで通り普通の花だったら、きっと野ネズミがぶつかっても野ネズミが気を失うことなんてなかったでしょう。


 自分さえ無事でよければ他の者などどうでもいい、そう思って石になったことを花は涙ながらに後悔しました。花はそれからしくしくと涙を流しました。人々が引き抜こうとしても、野ネズミがぶつかっても、ちっとも痛くなかったのに、体中が痛くて苦しくてたまらなくなったのです。


 次の日、その草原にはもう、石の花などありませんでした。人々は花を摘み、馬は寝ころび、鳥は蜜を吸います。そしてキツネに追いかけられた野ネズミは、花を散らしながら必死に逃げるのです。

読んで下さりありがとうございました。

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