六話
悲しそうな顔をするホオズキに、ソフィアは言った。
「お前には魔法が殆ど効かないからな。手荒になってしまって悪かった。」
ソフィアはホオズキに謝る。
そんなソフィアを見て、ホオズキは俯いた。
「─────やはり貴方とアレは、繋がっていたのですか…」
ソフィアには、何が何だか分からなかった。
おそらく、身に覚えのないことを問われている。
「アレって…一体なんだ?」
ソフィアはホオズキに問う。
ホオズキは、ソフィアを睨みつけた。
「戯言を…。くっ…!」
ホオズキは、痛みと出血で意識が朦朧としながらも、目を逸らさない。
「本当に知らない!今蘇生する!」
蘇生をかけながら、ソフィアは必死に弁解する。
しかし、ソフィアはある失態を犯していた。
頭の良いホオズキが、それを見落とすはずがない。
「ならば、何故私に支援以外の魔法が効かぬことを存じていたのです?!」
ソフィアの顔が青ざめる。
それを"今"知っているのはおかしい。
なぜならば─────
二 人 は 初 対 面 だ か ら 。
ホオズキは叫んだ。
「先程まで蘇生魔法を使っていたのだって!貴様はアレと……父と繋がっている!」
ソフィアは動揺を隠しきれない。
彼は、優しすぎた。
もう少し非情なら良かった。
優しいから、嘘もつけないし───
────優しいから、繰り返す。
ホオズキの言っていることは、正しい。
彼に、もっとあらゆる可能性を考えるべきと言う輩は居ないだろう。
何度も繰り返せるなど、有り得ない。
世の中に選択肢があるなど、有り得ない。
昔会ったなど、有り得ない。
そう、有り得るはずがないのだ。
「我が集落の正装を来たのは、父に服従を示さなければならない為!魔法が効かないのを知っていたのは、父に聞いた為!蘇生させようとしたのは、父に殺してはならぬと言われた為!!たった一人の私を…たった一人の跡継ぎを殺す訳にはいかぬ為!!」
ソフィアは泣きそうになった。
集落の正装を着たのは、貴方と同じ服がそこに置いてあったから。
魔法が効かないのを知っていたのは、貴方が昔教えてくれたから。
蘇生させようとしたのは、貴方も幸せにしてあげたかったから。
そう言いたかった。
でも、言ってはいけなかった。
これを言えば、この時間軸で彼は永遠に実の父とソフィアを恨むだろう。
恨みには、囚われて欲しくなかった。
ソフィアもそれで、随分苦労したから。
「あっ…!ね……え…!」
ホオズキは痛みに悶えているようだ。
ソフィアは慌てて蘇生を再開しようとする。
─────その時だった。
ホオズキが落とした魔導書が、禍々しいオーラを放ち始めた。
「次で最後………姉上!!」
ソフィアは、やっと気づいた。
〈ねえ〉と、問いかけていたのでない。
〈あっ〉と、悶えていた訳ではない。
彼はただ、唱えていたのだ。
" 姉上 "と
「姉上!姉上!姉上ッ!」
ホオズキは最後の力で声を振り絞る。
「父が…アレが恨めしい…でしょう?彼を…殺して!!」
魔導書から泣き声のような声が聞こえたかと思うと、そこから出たオーラをホオズキが周りに纏う。
『「どうして私では駄目なんですの…?お父様…」』
ホオズキがそう言いながら近づいてくる。
確かにホオズキが喋っているはずなのに、彼の声なのに、彼ではない誰かが喋っている気がした。
ホオズキを殺すことに躊躇っているソフィアの腕を、今度は彼の闇魔法が跳ねた。
「……!!!」
尋常じゃない痛みがソフィアの全身を襲う。
痛すぎて声が出ないし、彼の顔も見えない。
全身を炎で焼かれて、包丁で貫かれたら、こんな痛みだろうか。
まるで、腕を切られた程度ではないような─────
────そうだ、腕を切られた程度ではない。
腕だけではないのだ。
ソフィアは、目と喉を掻き切られ、腹と胸を魔法の結晶で貫かれた後、全身を燃やされたのである。
『「お父様、何で見てくれないの。前のとは違う!女らしさなんてないのに!」』
声は微かに聞こえる。
片手で殴られたような気もするが、痛すぎて感覚がない。
『「父上、僕を見てください!僕は男だ!男なんだ!」』
ソフィアは、その声の本当の正体を知っていた。
激痛が全身を走っている中でも、彼は心の中で繰り返す。
「(ごめんね、次は貴方も幸せにするから。)」
潰された目から、涙が零れ落ちたと同時に彼は意識を失った。
「(ホオズキの禁忌に触れると、現時点ではGAMEOVERになるのか…)」
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ゲームオーバー!
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