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三十話 「何も変わらない」

「……………死のう。」



ソフィアはサンディを拾い上げ、自分の首に近付ける。

その時だった。


「死ぬのはやめてくれないか。」


ソフィアは力なく後ろを振り向く。

目に入ったのは、ベージュ色の髪をした少年。


「僕らはやっと幸せになった、君がやり直してくれたおかげだよ。」


ソフィアは驚いた。

なんで彼はやり直しを知っているんだろう。

彼は続けた。


「僕はレオン。そして君の名前はソフィアかゾフィーかゼロかロゼ。スカディの為に繰り返していたから知ってる。何度やってもこの四つを使い回してたね。」


なんで知ってる。

なんで昔の名前を知ってる。

お前は誰だ、なんで知ってる。


「僕にも三つの選択肢があるんだ、君と同じ。そして、何度もやり直してた。でも君のおかげだよ!本当に有難う!」


ソフィアはそれを聞くと、怒りに満ちた目でレオンを見つめた。

…その目からはあまり力が感じられない。


そして、ついにソフィアが口を開いた。



「何が………ありがとうだ……イザベラと、ホオズキは……お前の…せいで……!!」


「はぁ?君はラドルファスとランドルーフの師範なんだろう?最初は弟子以外の人を殺しても…君は文句を言わなかった。あと、僕の方が運命を変える力が強いから。」


「俺のことを知ってる………?!というかやり直しって……選択肢って……どういうことだ?」


「そのままの意味だよ、でも少し違う。僕は好きなタイミングで状況を記録出来るんだ。無限にできる君と違って十個しかできないけど。」


「十個って……妙な言い方だな…?」


「上書きすれば出来る回数は実質無限だからね。」


「……!!」


「というか、君は何がしたいのかな……僕は家族と選択肢にいれた人たちを救いたい。君は違うの?」


「俺は、俺は……全員を救わなければならない。」



その言葉を聞いた瞬間、レオンの表情が変わる。



「ちょっと、それはおかしくないか。」


「何が…可笑しい……!!」


「全員を救う、それは君にとっての全員だ。」


「俺は、お前なんかとは…違う……!」


「何も変わらない、戦争を起こして大事な人以外を全て皆殺しにする。僕と一緒だ。」


「違う……違う……!」


「それなのに君は自分をクズと自覚していない……これは僕にとっての幸せ、僕はそれを理解した上で殺している。スカディの為とはいえ…ホオズキが死ぬのは予想外だったな。」


「違う……違……」



その時、誰かが入ってくる。


「レオン…コホコホ、巫山戯るな…スカディを止めるのに魔力の殆どを使ってしま……」


エリザヴェーテだ。

しかし、エリザヴェーテは……目の前の状況に動揺を隠せずにいる。


「何故ここに……二人も死んで……?鬼灯さんまで……鬼灯さん……鬼灯さん鬼灯さん鬼灯さん……」


ドクン…ドクン…

魔力を使い切った彼は、もう衝動を抑え込めない。

それをレオンは笑顔で見つめる。


「こんな時に……収まれ……くっ!!」


エリザヴェーテはとても辛そうだ。

……レオンは、エリザヴェーテに囁く。


「我慢するの……辛いわよね?力を抜いてしまえば良いじゃない…!」


レオンは、女性らしい口調でエリザヴェーテに笑いかけた。


「例え死んでも…抑えてやる……依存した非才ひさいが鬼灯さんにできる唯一の償い故に!!」


だが、エリザヴェーテは必死に耐える。

彼からは汗が滲み、周りにはオーラと稲妻が立ちこめていた。

ソフィアには、何が起こっているのか分からない。


「エリザヴェーテ…?」



エリザヴェーテは必死に抗っている。

それには、訳があった。


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