二話
ソフィアが起き上がると、そこはベッドの上だった。
まだくらくらする頭を押さえつけ、立ち上がると、もう夕方になっていた事に気づく。
そして、何をしていたか思い出す。
「(俺、またあの場面で倒れたのか…)」
あの場面では何度も倒れている。
取り敢えずドアを開けて部屋の外に出た。
ドアを開けて少し歩き、階段をおりると、目の前には、気の遠くなるような長ーい廊下。
相変わらずだだっ広い城だこと。
ここは何回も来ているが、構造を全く覚えることが出来ない。
ソフィアがキョロキョロしていると、使用人が声をかけてきた。
「剣聖様、体調はどうですか?お坊ちゃま達が闘技場でお待ちです。どうぞこちらへ。」
城を使用人に案内されるパターンは初だ。
これはいいスタートをきれたのではないか。
ソフィアは軽く頷くと、使用人に着いていく。
「こちらでございます。では、私はこれで。」
ガラガラガラ…
闘技場の扉が開く
使用人は会釈すると、どこかに行ってしまった。
ソフィアは闘技場に入る。
すると、突然ランドルーフが飛びかかってきた。
「よせ、ルーフ!」
ランドルーフは、ラドルファスの声も無視してソフィアに殴り掛かる
「?!」
ソフィアは慌ててランドルーフの攻撃を避けたが、急すぎて驚きを隠せない。
しかし、すぐに精神を落ち着かせた。
ソフィアは警戒し、腰の剣に手をかけるが、剣は抜かない。
それを見たランドルーフが叫んだ。
「どうせオマエもボクらに言うんだろ?!獣だ、獣だって!!」
ラドルファスは俯いて暗い顔をしている。
ランドルーフは続けた。
「外人はみんな言うんだよ…ボクらの事を獣だって。平和な三国共生国家なんて嘘だ!」
ランドルーフを含む帝国の皇族や貴族のほとんどは、獣の血を引く者である。
帝国では、獣の血が濃ければ濃いほど素晴らしいとされているのだ。
だが一方、王国や集落、中心の都市ステラでは忌み嫌われているのだ。
彼は、エメラルドのような目を光らせる。
次の瞬間、ランドルーフの爪と牙が鋭くなった。
ぎろりとソフィアを睨みつける。
しかし、ソフィアは動じなかった。
それどころか、彼から隠しきれない笑みが零れる。
「…………!」
黙って笑っているソフィアをみて、ランドルーフは怖気付く。
ランドルーフは、怯えきった声で言った。
「お、オマエ…スパイなのか?!」
ソフィアは笑みを崩さない。
それどころか、彼からどんどん笑みが零れてくるのだ。
震えるランドルーフを守るようにしながら、ラドルファスがソフィアに近づく。
「アンタ、どうして笑うんだ?」
彼は精一杯の威圧的な声をだした。
ソフィアは、彼の質問に答える。
「嬉しいんだ…」
この質問はされたことがない。
この展開は経験したことがない。
今度こそ、皆を幸せにして見せる。
ソフィアは我を失っていたが、間違いなくその言葉は彼の本心だった。
誰かに、選ばれた言葉ではなかった。
それに勘づいたラドルファスは、ソフィアに近づく。
少し警戒しながらも、ラドルファスは頬の筋肉を緩めていた。
「オレ達のこと、宜しく頼む。……師範でいいんだったか?」
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こちらこそ宜しく。
→頼まれた。
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ソフィアも落ち着いてきたのか、笑顔を見せる。
ラドルファスは背中に隠れたランドルーフの方に向き直り、彼をつつく。
「いつまで隠れてんだ、ほら。」
ラドルファスのその一言で、ソフィアは一瞬動揺した。
その一言には、聞き覚えがあったのだ。
「え、その…ごめんなさい!」
ランドルーフの牙や爪、耳が獣化したかと思うと、彼は顔を真っ赤にして去っていく。
この場面は見たことがある。
「多分照れてんだ、大目に見てくれ。」
このラドルファスの言葉にも、聞き覚えがあった。
顔色一つ変えずに頷くが、ソフィアは少し落胆する。
だが、ずっと落ち込んでいる訳にはいかない。
「ほら、…師範。」
ラドルファスに手招きされて、部屋に戻った。
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